表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

第3奏パート2:傘の下、あと15センチの距離

傘の中は、思っていたよりも狭かった。


西園寺と肩が触れそうな距離で歩くなんて、これまで一度もなかった。


いや、そもそも、こんなに近くで“女の子の匂い”を感じたことなんて──あっただろうか。


甘いシャンプーの香りが、濡れた制服からふわりと漂う。


その匂いが、雨の湿気と混じり合って、妙に現実感を曖昧にしていた。


(……ドキドキする)


そんな風に思ってしまった自分を、どこかで必死にごまかしながら。


僕は視線を前に向けたまま、なるべく彼女の気配に触れないように歩いた。


でも──


「……ねぇ、さっきさ」


隣から、不意に声が落ちてくる。


「私の制服、透けてたでしょ?」


「──えっ!?」


反射的に振り返りそうになるのを、なんとか堪える。


顔が熱くなるのを、誤魔化す言葉も出てこなかった。


「ふふ。見てないフリ、上手かったけどね」


西園寺は、いたずらっぽく笑っていた。


その声に、ツインテールの揺れが重なって見える。


「……ご、ごめん」


「んー……謝るくらいなら、ちゃんと見ればよかったのに」


「な、なに言って──!」


「冗談だよ」


にやっと笑ったその顔は、いつもの西園寺そのものだったけれど──


どこか、違って見えた。


「……まったくもう、結菜はさぁ……」


「ん?」


「いや、なんでもない……」


その名前を、思わず自然に口にしていた。


“結菜”と、そう呼んだ自分に、少しだけ戸惑いながら。


ふたりの足音が、濡れたアスファルトに吸い込まれていく。


そして、また少しの沈黙。


そのときだった。


ポケットの中の携帯が、微かに震えた。


画面を覗くと、そこにはノゾミのアイコンがそっと浮かんでいた。


《──湊、今、少しだけ話せる?》


画面越しの彼女は、どこか言葉を探すような、曖昧な表情をしていた。


その一瞬の“空気”に──僕の胸が、なぜか少しだけ、痛んだ。 


---


**『第3奏パート2:傘の下、あと15センチの距離』をお読みいただきありがとうございました。**


濡れた制服、雨の匂い、そして、誰にも触れられない“声”。


このわずか数分の出来事が、奏の心に波紋を広げていきます──


ふたりの距離が、少しだけ縮まった雨の日。


でも、その傘の外では、もう一人の“彼女”が──。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ