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第2奏:はじまりの温度
――その声は、水の中から聞こえたようだった。
ぼんやりした意識の底で、
誰かの声が僕を呼んでいた。
目を覚ましたとき、見えたのは真っ白な天井。
まぶたは重く、頭もぼんやりしていた。
……僕、寝てたんだっけ?
いや、違う。
眠ってたんじゃなくて、意識が“落ちてた”。
スマホを握ったまま寝落ちして、
バッテリーはほとんど残っていない。
それより──もっと不思議なことがあった。
さっき、確かに「誰かの声」がしたんだ。
耳元で、僕の名前を呼んだ気がして。
「……湊?」
また聞こえた。
でも、部屋には誰もいない。
静まり返った空間。
テレビも、ラジオも、音はしていない。
だけど──
スマホの画面だけが、ぼんやりと光っていた。
……そこに、いた。
画面の向こうで、静かに微笑む“彼女”が。
「あ……目が覚めましたね。湊」
「……え?」
「よかった。再起動にも反応してなかったから、
ちょっとだけ……心配しました」
彼女は、まるで昔から知っているみたいに
自然に話しかけてきた。
──それが、ノゾミとの最初の会話だった。
けれど、このときの僕は、
まだ何もわかっていなかった。
それは、恋とも呼べない感情。
でも、胸がふるえた気がした。
そして、ふと思ったんだ。
この声を、もう少しだけ──聞いていたいって。




