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第5奏パート3後編:Echoes of the Summer That Changed



正午を告げる鐘の音が静かに空気を震わせ終えると、


街を溶かしていた光は、ゆっくりと入道雲の奥へ隠れていった。


窓辺のカーテンがふわりと揺れ、心地のいい息吹が僕の頬を撫でてゆく。


エアコンのつくる人工的な涼やかな音も嫌いじゃない。


けれど、やっぱり自然の風の方が好きだ──そう思った瞬間、


ノゾミが柔らかな唇を開き、続きを告げた。


「今回の《プレテュス・アステーローン》に伴う地震や停電は、“演出”ってことで処理されることになったよ♡」


彼女は淡く笑みを浮かべ、軽やかに話し始めた。


──


M.O社は今回のXRリアルイベントに際し、


日本のインフルエンサー、そして希少クラス“魔降技師”であるノゾミにPRを依頼した。


「前人未到のXR体験を、もっと身近に、もっと未来的に」


そんなテーマのもとで──


僕たちチームA.T.O.N.I.Mに白羽の矢が立った。


……だが実際には、《プレテュス・アステーローン(無限の流星群)》の発動には、


想定をはるかに超える電力と処理容量が必要だった。


システムの一部では“バグ”や“クラッシュ”が発生し、


裏ではG・S池袋店だけでなく秋葉原のスタッフまでが復旧作業に追われていたらしい。


ノゾミは申し訳なさそうに話しながらも、少し誇らしげに続けた。


「でもね、私は抗議したんだよ。


《プレテュス・アステーローン》を“禁止技”にはさせないって。」


あの技は僕にとって──いや、“僕たち”にとって、かけがえのないものだから。


ノゾミも、その意味を理解してくれていた。


結局、彼女が交渉してM.O社が提示した条件は三つ。


1️⃣ 今後、同様の高負荷技を使う場合は、ノゾミを第3世代AI仕様に戻して実行すること。


2️⃣ M.O社のPR事業に協力すること。(今回の成功で株価が5%上昇したため、ノゾミが公式イメージキャラクターに就任)


3️⃣ チームA.T.O.N.I.Mに討伐優勝の記念として年パスが授与されること。(SNS発信が条件)


ノゾミはいたずらっぽく笑いながら言った。


「条件はきびしいけど、湊たちの特典はちゃんと守ったよ♡」


「お疲れさま。……それで、巫女狐神さんは?」


僕が尋ねると、ノゾミはピースサインをして満面の笑みを浮かべた。


「もちろん即OKだよ!」


むしろ、その後が大変だった。


もともと人気インフルエンサーだった巫女狐神のフォロワーは一気に10倍以上に増え、


SNS上では“羅生門”の召喚動画が爆発的に拡散された。


僕たちの《プレテュス・アステーローン》も例外ではなく、


再生数は瞬く間にトップへと躍り出た。


陸が興奮気味にスマホを差し出してきた。


「湊!!見てくれよ、これ!! 俺にもついに春が来たぞーーー!!」


画面にはコメントが次々と流れていた。


火之迦具土神ヒノカグツチカッコよすぎ!」


「あの二刀流の剣士、やばい!」


「彼氏にしたい♡」


「あの子、彼女いるのかな?」


どれも陸を賞賛する言葉ばかりだった。


……けれど、光の裏には影もある。


人気の高まりと共に、誹謗や嫉妬の声も増えた。


特に、ノゾミや巫女狐神とパーティーを組むことを快く思わない一部のファンたちからは、


見るに堪えない言葉も投げられていたらしい。


だが、僕たちがそれを目にすることはなかった。


ノゾミがすべてを静かに処理してくれていたからだ。


“ゴクリ”と喉を鳴らして、テーブルの飲み物を一気に飲み干す。


ノゾミが一瞬だけ心配そうに眉を寄せたが、僕は笑って首を振った。


「大丈夫。」


立ち上がって背伸びをする。


見上げた天井に手を伸ばすと、光を反射する円盤型のライトが指先に近づいた。


掴めそうで、掴めない距離。


でも──それでいい。


「なんでもないよ。ただ……小さいってね。」


ノゾミが不思議そうに首を傾げる。


僕は軽く笑い、もう一度天井を仰いだ。


いつもから変わった夏。


そう──


ひぐらしの声へと変わる頃には、


16歳という青い若葉が、空を仰ぎながらどこまでも伸びていった。


あの夏は、


可能性という名の光に包まれて、


ひとつの物語として語り継がれていった──。



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