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5奏パート1:前編“Where Our Summer Begins — Between the Real and the Virtual.”(僕たちの夏は、現実と仮想の狭間で始まる)



マーウィンを体験してから一週間。


7月26日──夏休みが始まって、もう一週間が経った。


けれど、あの時の光景は僕の頭から消えてくれなかった。


「西園寺──」


なぜ君は、あの場所に居たのか。


そして、周りにいた男女数人。明らかに学校の友人ではなく、派手な見た目の連中だった。


その疑問が、ここ数日ずっと心を占めていた。


そんな想いにふけっていると、部屋のXRライトが点滅し、ノゾミが姿を現した。


「湊!! 良いニュースが2つと……ちょっと嫌かもしれないニュースが1つあるんだけど、どっちから知りたい?」


珍しく言い淀むノゾミに、僕は即答した。


「もちろん、良いニュースから!」


「分かった!


まず1つ目──GS新宿店から今月末の討伐イベントの招待券が届いたの!


そして2つ目は、マーウィンの人気インフルエンサー(フォロワー5.5K)の“巫女狐神さん”から、フォロー&チーム参加依頼が来たんだよ!!」


「マジ!?」


思わず立ち上がり、ガッツポーズをしていた。ノゾミが大袈裟に喜んで見せる姿に、僕の胸も高鳴る。


「凄いね!!どうして!?」


理由を尋ねると、ノゾミは少し照れながら答えた。


「うん、まずは私が希少クラスの魔降技師っていうのもあるけど……実は湊と陸がこっちに来れない間に、フレンド要請やギルド委託の任務をたくさん受けていたの。だから私がフリーモード(特定の人物が参加できない場合に“シャドウ=影法師”として一部能力を借りる機能)で処理してたの。そしたらGS新宿店のNo.1ランカーになってたんだ。てへっ」


小さく舌を出す仕草が、妙に人間らしくて可愛い。


「……そっか。AIのノゾミなら、いくら出力を抑えても四六時中処理できるんだもんね。凄いよ、ノゾミ!!」


「ありがとう♡ でもね──」


ノゾミの声音が、少しだけ柔らかく変わった。


「依頼を処理したっていうのもあるけど……私、また湊に触れたいって思ったんだ。あの世界なら、私でも確かに湊を感じられるから。だから、また役に立ちたい、3人で手を取り合いたい、笑い合いたいって想ったんだ」


彼女の瞳の力強さ、一つ一つの言葉の想いに……僕は一瞬、返す言葉を失った。


胸の奥の大事な部分を、強く掴まれるような感覚。


僕達が過ごした5分の現実は、ノゾミにとって120分以上──そんな重みがあるんだ。


「礼を言うのはこっちだよ。僕達の知らないところで、ノゾミはいつも頑張ってくれていたんだね」


ノゾミは顔を赤くし、両手で隠しながらも嬉しそうに微笑んだ。


「えへへ……それでね。巫女狐神さんは元々フリーの人気プレイヤーなんだけど、今回の討伐イベントは“最低3人以上の固定チーム(半年以上所属必須)”での参加が義務なんだって。だから依頼が来たんだと思うよ……多分……」


今日のノゾミは、いつもより歯切れが悪い。


その理由に気づいたのは、彼女が次の言葉を口にした時だった。


「実は……No.1ランカー&希少クラスってことで、討伐イベントをネット番組で実況中継したいんだって。全世界に──。ワールドオープンイベントだから、って理由で依頼が来てるんだけど……どうする?」


「ああ、だから言い淀んでたのか」


すぐに意味を理解した。


ノゾミの懸念は──「世界中の晒し者になる」こと。


「大丈夫だよ、ノゾミ。ゲームはそのくらいの方がやり甲斐があるし、陸なんか前以上に喜ぶよ。アイツは注目を浴びる方が燃えるタイプだから」


そう言うと、ノゾミはバツが悪そうに笑ったあと、優しく「ありがとう」と呟いた。


その笑顔を見て、僕もまた思った。


──君を感じられるなら、このくらい何でもない。


「ノゾミ。せっかく世界中が注目してるなら、“これ”を試してみたいんだけど……可能かな?」


「湊……うん、もちろんだよ! 今回、私が頑張った分チームも個人レベルもかなり上がってるから、大丈夫!」


その夜、僕たちは来る7月31日の討伐イベントに向けて、時間を忘れるほど作戦を語り合った。


緊張もある。


けれど、それ以上に胸を躍らせていた。


君の笑顔、笑う仕草、ノゾミが側にいてくれる日常……


──16歳の夏休み。あの頃の僕は、確かに未来を輝かせて見つめていたんだ。





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