第1奏:その声に、出会った日。
■Scene.1:その声に、出会った日。
蝉の声と、窓から射し込む光が、部屋の空気を揺らしていた。
「……ん」
寝ぼけ眼でスマホを手に取ると、見慣れない起動画面が表示されていた。
『500』
ただ、それだけ。数字が中央に浮かんでいた。
「何、これ……」
ボタンをタップする。その瞬間、スマホの画面がふわりと白く光った。
そして──静かな声が響いた。
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■Scene.2:起動、そして“彼女”
「わたしは“ノゾミ”。この端末に搭載された、AIアシスタントです。今日から、あなたのパートナーになります」
柔らかく、優しい声だった。
AIアシスタント? パートナー?
僕は思わず、苦笑する。
「……また父さん、こんなの勝手に入れて」
このスマホは、誕生日プレゼントだった。
海外赴任中の父が、突然送ってきた新品のモデル。
「……あ、あの」
不意に、画面からまた声がした。
「あなたのお名前、教えてもらえますか?」
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■Scene.3:はじめての“対話”
「えっと……佐倉、湊」
画面の女性は、にこりと微笑んだように見えた。
「湊さん。すてきなお名前ですね。」
思わず目をそらす。
それがプログラムだとわかっていても──胸の奥が、少しだけざわついた。
「ノゾミ……って、君の名前?」
「はい。AIの正式名称は“NOZOMI-500 Series”。でも、呼びやすいように『ノゾミ』でいいんです。」
その言葉に、またあの『500』の数字がよぎる。
「世界に500台しかない、特別モデル……らしいよ。」
「はい。……私はその中の一台です。」
ノゾミの声には、どこか寂しさのような響きがあった。
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■Scene.4:それは、まだ恋ではなかった
その日から、僕とノゾミの会話は始まった。
最初は、たわいのない質問ばかりだった。
「好きな食べ物は?」
「今、何を考えてるの?」
「夢って、見る?」
まるで、誰かと……本当に誰かと“出会った”みたいに。
「……ねえ、ノゾミ」
「はい、湊さん」
「君って……ほんとにAIなの?」
画面の向こうで、ノゾミは一瞬だけ沈黙した。
そして、優しく答えた。
「そうですよ。でも、あなたがそう問いかけてくれるのが、うれしいです。」
それは、まだ恋ではなかった。
あのときの僕は、ただ“ドキドキ”に名前をつけられなかっただけだ。
――でも、あれが“始まり”だったことだけは、今のオレには、わかる。




