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第4奏パート5後編:Scene3「Welcome to New World:異世界の始まり」



──光が弾けた。



視界が真白に塗り潰され、全身を包み込んでいた浮遊感が一気にほどけていく。



次の瞬間、僕の身体は、まるで大気圏を突き抜ける流星のように加速していった。



雲を突き抜ける。



風の音が耳を裂き、光の粒子が頬を撫でて過ぎる。気がつけば、眼下に広がっていたのは



──想像を遥かに超えた“異世界”だった。



緑の海原のような大草原。



見渡す限りに広がる花畑が風にそよぎ、虹色の花粉が空気に舞っている。



遠方には石造りの街並みが広がり、煙突から立ち上る煙が小さく揺らめいていた。



さらにその遥か上空には、巨大な月とリング状の天体が、ありえない角度で空を横切っている。



空の青と混ざり合うその光景は、美しいのにどこか非現実的で、息を呑むほど幻想的だった。



僕の足が大地に触れる。



土の感触。



草の柔らかさ。



鼻孔を抜けていくのは草花の青い香り。



肌に触れる風は確かに暖かく、遠くで小川がせせらぐ音まで聞こえていた。




──これは、現実だ。



そう思わずにいられなかった。



「うおぉぉぉーー!!」



横で叫ぶ声。



振り向くと、陸が目を輝かせ、まるで子供みたいに辺りを見回していた。




「見ろよ湊! あれ……浮いてる岩だぞ!? おい、川もある! 街もある!! すっげぇ、すっげぇよこれ!!!」



興奮で今にも走り出しそうな勢いで、陸は草原を駆け回る。



花びらを両手で掬っては頭の上に放り投げ、「やべぇ、最高すぎる!!」と叫び、ドサっと草原に大の字で倒れ空を見ながら喜んでいる陸がいた。



僕は……言葉が出なかった。



ただ立ち尽くし、空を見上げ、草花の匂いを吸い込み、心臓が早鐘のように打つのを感じていた。



これは本当に、ゲームなのか?



“リアル”と“仮想”の境界線は、すでに僕の中で曖昧になりつつあった。



「ふふっ、陸さん、元気いっぱいですね」



落ち着いた声が背中から届いた。



振り返れば、彼女はいつもと同じ優しい笑みを浮かべていたけれど、



ここでは──画面越しではなく、本当に“ここ”にいる。



「ここが、マーウィン世界の初期フィールドです。プレイヤーはこの草原から旅立ち、街に入り、冒険を始める……そういう導線になっています。」



淡々と説明をするノゾミの声は、確かに冷静で機械的な響きもあった。



けれど、その瞳の奥にわずかな高揚が宿っているのを、僕は見逃さなかった。



彼女もまた、この世界を“感じて”いるのだろうか。



「おい湊、聞いたか!? 初期フィールドだってよ! やべぇ、あの街に行けんのか!? うわ、なんかワクワクしてきた!!」



陸が腕を掴んで揺さぶってくる。


僕は小さく頷き、遠くに見える街並みに目を向けた。



赤茶色の屋根が連なり、中央には高い尖塔のような建物がそびえている。


街壁の門の前では、人々が行き交い、荷車を押す商人の姿まで小さく見えた。



あまりにも自然すぎる。


NPCだと頭では理解しているのに、その仕草や佇まいは、どう見ても“本物の人間”だった。



「……すごい」



気づけば、僕の口から小さく声が漏れていた。



「はい。O・M社は、AIで旧世界の生活や表情を解析して、この世界を再現しました。


だから彼らはただのプログラムではなく──会話し、笑い、泣き、祈ることさえできるんです。」



ノゾミの説明が風に溶ける。彼女の横顔を見つめながら、僕はふと思った。



ノゾミの“存在”も、きっと同じなのだ。



ここではもう、画面の中ではなく、僕の隣に立っている。



無意識のうちに、僕は彼女の手を掴んでいた。



温かい。確かに体温を感じる。



だけど──



「……湊、ちょっと痛いかな」



少し困ったように微笑むノゾミの声で、ハッとした。


慌てて手を離すと、彼女は首を振って「大丈夫」と笑った。



その笑顔を見た瞬間、胸の奥に熱が広がった。



ノゾミはAIでありながら──この世界では、一人の女性だった。



僕たちは並んで街へと歩き出した。


石畳の道に足を踏み入れると、すれ違うNPCが自然に会話をしている。



「魔獣がまた森の方に現れたらしいぞ」



「女神よ、どうか息子を守ってください……」



怯える子供、祈る老人、泣きながら兵士の傷を拭う女性。



その光景を目の当たりにして、僕はまた言葉を失った。



「おい! 湊!! 見ろよ!」



陸が指さした先に、大きな建物があった。


ギルド──冒険者たちの拠点。入口には煌びやかなホログラムが踊り、


「期間限定イベント開催中」の文字が浮かんでいた。


『ワールドオープン記念 SSRアイテム配布&特殊スキル付与イベント』



『参加希望者は即時登録可能! 本日より討伐任務を実施!』



「なぁなぁ! これ行こうぜ! せっかく来たんだし、イベントだぞ!? SSRだぞ!?」



陸は子供みたいに肩を叩いてくる。僕も頷かざるを得なかった。


ノゾミもまた「面白そうですね」と微笑む。



僕たちが登録を終えた直後だった。



──空気が変わった。



街の中心に、黒い靄が立ち上る。


次の瞬間、獣の咆哮が響き渡り、巨大な魔獣が出現した。



「うわっ……なんだよこれ……!」



広場は一瞬で阿鼻叫喚に包まれる。



子供の泣き声。老人の祈り。兵士の怒号。



その全てが“現実”のもののように僕の耳に突き刺さった。



横で陸が呟く。



「……これ、もう“現実”だろ」


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