第4奏パート5:後編 Scene 1「グランドセレム新宿店・受付」
新宿駅・東口。
ビル群の谷間にそびえ立つ透明ガラスの塔は、空に突き刺さるように伸びていた。
表面を走る虹色のホログラム案内が、昼の陽射しを受けて揺らめいている。静かな機械音と、流れるように動く光の文字列。
──ここが「グランドセレム新宿店」。
「すげぇな……」
陸が思わず声を漏らす。
僕もつられて空を見上げた。
久しぶりに来た新宿は、記憶にある雑多な街並みとはすっかり違っていた。
どこか、別の世界を歩いているような……。
アレ……?
誰かと、ここに来たことがある……?
白日夢のような一瞬の記憶が、胸をかすめて消えていった。
「湊ーーー、行くぞ! 列はこっちだ!」
陸に呼ばれて、慌てて思考を振り払う。
一般入場口には、すでに長蛇の列。
炎天下に並ぶ人波を見て、思わずハンカチで汗を拭った。
──あの列に並ばずに済むのは、本当に陸のお手柄だ。
「先行チケット、マジ感謝だわ……」
「ははっ。だろ? こんな日に並んでたら、地獄だぞ」
そう言いながら陸は、手に持ったペットボトルの炭酸水を一気に飲み干す。
僕らは「先行チケット専用ゲート」へと足を進めた。
無音で動くエレベーターに乗り込むと、目指すは地上50階──GS専用のエリアフロア。
わずか数十秒の上昇のあと、「チーン」と扉が開いた瞬間。
そこに広がった光景に、僕は言葉を失った。
広大なフロアを埋め尽くす光のスクリーン。
宙に浮かぶ案内表示と、透明の床下に流れるデータのような光の川。
未来都市を切り取ったような空間が、僕たちを迎え入れた。
「……これ、ホントに“ゲーム”の施設なのか?」
思わず心の中で呟いていた。
陸がチケットを差し出すと、虹色の光がふわりと揺れ、目の前に姿が現れた。
青銀色の髪に白いドレスを纏った、女性型のXRキャスト。
「ようこそ、冒険者様方。私はガイドキャスト“シエル”と申します。
マーウィンの世界へのご案内を担当いたします。以後、ご不明な点は何なりとお申し付けください」
透き通った声。まるで本物の人間のような仕草。
「うおっ……すげー! 本物みたいじゃん! ノゾミちゃんと同じだな!」
陸が僕に肘でつついてきた。
「……ああ、確かに」
僕も頷いた。
そのとき、ポケットのスマホが小刻みに震える。
──ノゾミ。
画面に浮かんだ彼女の笑顔が、僕の視界を一瞬だけ独占した。
「湊、陸さん。着いたんだね♪ 細かい登録は私がやっておいたから、ふたりはゲートに進むだけで大丈夫だよ。
それから……ナノアーマーが携帯データを読み取って、プレイ中の装備に自動で変化してくれるから安心してね」
「見ろよ、湊! なんか黒い砂鉄みたいのが服に……!」
陸が興奮気味に声を上げる。
肌に微細な粒子がまとわりつき、衣服の上から新しい装甲を形作っていく。
──これがナノアーマー。
本来は軍事や医療にも応用される新技術だと、事前の説明に書いてあった。
「なるほど、これなら動きやすいな。
……ほんとに、アプリ版のコスを自分に着てるみたいだ」
「ふふっ。……うん、ふたりとも似合ってる」
画面の中のノゾミが、少し照れたように笑った。
「ソーダーとアーチャー……私もなんだかワクワクしてる。ドキドキとは違う、でも確かに……強く、胸を打ち付けるような感情があるの。ねぇ、湊♡」
その言葉に、僕の時間は一瞬だけ止まった。
ノゾミ……。
今、確かに君の存在を感じている。
「ありがとう! ノゾミちゃんの魔降技師も、すっげー似合ってるよなぁ! なぁ、湊!」
陸が肩を叩き、世界が動き出す。
「……うん。似合ってる。……それに、可愛いよ」
思わず漏れた言葉に、陸が「おいおい」と笑い、ノゾミは顔を赤らめて舌を出した。
「えへへへ……そ、そんな風に言われると、照れるなぁ。でも……ありがとう♡」
──その笑顔を、僕は確かに覚えている。




