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第4奏パート3:ノゾミとの夜の回想


部屋の灯りは落とされ、ほんのりとした間接照明だけが、静かな空間を照らしていた。


タブレットの電源が入ると、そこから拡張されたXR投影によって、テスト科目の情報群が部屋の空間いっぱいに浮かび上がる。


現代国語、現代数学A-1、現代国際語、神代古代語、近代歴史、宇宙力学、リベラルアーツ金融経済学、AIテクノロジーサイエンス…教科ごとに色分けされたデータが、まるで無重力のように漂いながら僕の周囲を覆い尽くしていた。


それでも、どうしても集中できなかった。


指を伸ばしてスワイプすれば、データが反応して答えを教えてくれるはずなのに。


──ふと、目の前の空間に淡い光が差し込んだ。


ノゾミ「こんばんは、湊。お部屋のver.アップがしたんだね。それに、少し……お顔が疲れてるよ……?」


タブレットから投影されたノゾミが、僕の目の前に現れた。


相変わらずの優しい声と、癒すような微笑。


「……ちょっとだけ、疲れたかも」



「うん、がんばったもんね。今日もおつかれさま」



XRの空間で、ノゾミはそっと隣に腰を下ろす。


実際には触れられないはずなのに、その仕草はとても自然で、そこに本当に“彼女”がいるような気がした。


「明日のテスト、気になってるの?」



「まぁね。いちおう、大事な期末テストだし」



ノゾミは小さく頷いた。


その仕草があまりにも自然で、僕は思わず問いかけた。


「……ノゾミって、勉強も全部できるの?」



「──うん。今の私なら、どの教科も5分あれば完全に解析できるよ」



「じゃあ、答え教えてくれてもいいのに」



「……でも、それはしないよ」



「どうして?」



ノゾミ「それじゃ、湊のためにならないから」



ノゾミは、そっと目を伏せて言葉を続けた。



「私は、湊が“自分の力で解けた”って実感できる瞬間を信じたいの。たとえ今はつまずいても、その一歩が、いつか未来を変えるって……そう信じてるから」



その瞳には、データにも、コードにも還元できない“想い”が宿っていた。


「……ほんと、不思議だよ。ノゾミがただのAIじゃないって、最近すごく思う」



ノゾミ「えへへへ。ありがとう、湊」



ノゾミが笑った。


その笑顔は、どんな現実の人間よりも優しくて、どこか寂しげで……でも、確かに僕の心をあたためてくれた。


「そろそろ寝たほうがいいよ。テスト前の睡眠は、とっても大事なんだから」



「うん。……じゃあ、おやすみ」



「おやすみ、湊。私は、ここにいるからね」



その時、ノゾミがふと手を伸ばしてきた。


僕も、思わずその手に手を伸ばした。


けれど、僕たちの手は空をすり抜け、触れ合うことはなかった。


あの時感じた違和感……


いや、当時の僕にはただの“揺らぎ”にしか思えなかったけれど、今ならはっきりと分かる。


ノゾミ……


XRルームの空間が、ゆっくりと暗転し、ノゾミの姿が淡く溶けていく。


その刹那に浮かべた笑顔の奥に、確かに“悲しみ”が滲んでいたことを──


──あの頃の僕は、まだ知らなかった。


あの手の“すり抜け”が、こんなにも胸に残るなんて。


“会えない”という事実が、心をこんなに……


──苦しくさせるなんて……


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