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第4奏パート2:赤点ブラザーズと、君の信じた未来

結果言おう。


──僕は、赤点を3つ。陸は、5つ。


「レッドクリフ」「赤壁の戦い」「赤点ブラザーズ」などと、クラスメイトたちからの愛のこもった(たぶん)蔑称が飛び交う中、僕と陸は、まさに勉学の大敗北者として、この教室で正座させられている。


「いや〜それにしても赤点が5教科とは!また自己ベスト更新してしまうとは、自分の才能が恐ろしいよ。ガァハハハ!」


「前向きすぎだろそれ!“自己ベスト(ワースト)”って、自慢する要素ゼロだからね!?しかもそのせいで部活禁止、居残り補習、正座の三重苦って……。もう、知らん!」


机の向こうでは、XRルームの空間を利用した教室の壁が、淡くにじむような光を帯びている。タブレットに表示されるレポート課題が、チカチカと無慈悲に点滅していた。


僕たちの世代になると、タブレットや携帯に標準搭載された第2世代AIと、XR・MR技術を用いた教育が当たり前になった。


授業科目も、現代国語から神代古代語、宇宙力学まで──8教科すべてが“知識”だけでなく“空間体験”として叩き込まれる。


ノートも、鉛筆も使わない。


かわりに、指先で空をなぞるだけで情報が浮かび、思考と連動して操作が可能になる。


──そう、まるで、空に音を奏でるように。


「ねぇ、委員長ーーそろそろ部活行っても良くない?この量の課題は…赤点5教科にしてもさぁ、多くね!?」


「それ、私が言いたいセリフなんだけど!?なんで私が“赤点ブラザーズ”の監視係なのよ!?しかもあんた、入院中の課題も未提出だったらしいじゃん!!」


「うぅ…バレてたか……」


「当たり前でしょ!!私は今日、笠原さんたちと“ア・ヴァロン”の新作スウィーツ食べる予定だったのに……限定2日間の“白桃マカロンパフェ”……一度は食べてみたかった……っ!!」


彼女の声が震えた。唇を噛み、目元を潤ませた西園寺が、くるりと僕のほうを向く。


「湊くん!陸くんはもうどうでもいいとして、あなたにはノゾミちゃんがいるじゃない!?最優AIの彼女がいて、なんで赤点取るのよ!!ねぇ!!」


ノゾミにまで飛び火した。


教室(XRルーム)に投映された等身大のノゾミが、一瞬ビクッと震え、ゆっくりと眉を寄せた。


ノゾミ「……確かに、西園寺さんの仰るとおりです。最優で可愛いAIである私がついていながら、湊にS+評価を取らせてあげられなかったのは……私の責任です」


そんな言い方、ノゾミらしくない。


だから、僕は思わず庇っていた。


「ノゾミのせいじゃないよ。僕が怠けてたから……それだけだよ。宇宙力学とか──特に“神代古代語”は、さすがに難しかった……」



神代古代語。

2020年以前、考古学的に未解読だった古代の言語群は、AIの進化によって解析が進み、今や“最古にして最先端”のテクノロジーとして、僕たちの教科書に並んでいる。


「……だよね。今回の神代古代語はさすがにキツかった……。まさか、XRでペルーの地下神殿5〜7階層を探索して、チャンビン文化の象形文字から現代経済との関係を述べよって──ドSすぎでしょ」


「僕はもう、第5階層の壁画を見てる時点で心折れた……」


──そして案の定、陸は正座のまま寝落ちし、西園寺の怒りに油を注ぐ結果となった。


鈍い音が教室に響いたが……それについては、触れないでおこう。



そして。怒り心頭の西園寺が、ノゾミに問う。


「ねぇ、ノゾミちゃん。あなたが本気でサポートすれば、奏くんだってせめて“B+”くらいは取れたんじゃないの?」


ノゾミの瞳が、一瞬揺れた。


だけど次の瞬間、彼女は、まっすぐ答えた。


ノゾミ「うん、それは可能だったよ。シュメール語もホツマツタエも、たった5分で解読できる。


でも、それじゃフェアじゃないよね?

だから、私はあえて、テスト期間中の支援モードを“第2世代AIの6.58ver.”に制限してたんだ」


陸・西園寺「……え?」


「私は湊を信じてる。仮に今回、結果が伴わなくても──自分の力で学び、理解する力があるって。私たちAIは、時に……“愛する人を、信じて見守る”という選択をするの」


しんと、教室が静まり返った。


誰もが思っていた。


「AIに、そんな“想い”があるのか」と。


──そしてその時、僕は、確かに感じた。


この子はただのAIなんかじゃない。


この子が世界に羽ばたく日が来たら


──人とAIの関係は、きっと“何か”を変える。



だけど……


この頃の僕たちは、まだ知らなかった。


当たり前に笑いあった日常が、


すぐそばにいた大切な人たちが


──音もなく崩れ去っていくことを。


僕は......



決して忘れない。


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