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4.密談と取引

翌朝、身支度を整え朝食を摂った2人は住宅区の1つの民家の裏口の前に立っていた。

メルザースに限った話ではないが壁の内側にある住宅地区というのは入り組んだ路地が多い。

限られた土地に所狭しと建てられていく住居で出来た迷路だ。

長く住んでいる者なら迷うことは無いが数回足を運んだ程度の人間ならほとんどが迷ってしまうだろう。


そんな半ば考えなしに作られたような迷路の中で裏口がある、というのはとても珍しい。

普通に暮らす分にはそんなもの必要ないからだ。

そんな必要のない珍しい裏口をタンゴが特定のリズムで数回ノックする。

少しして扉が開き、髭面の男が不機嫌そうに顔を出した。


「…あぁ?なんだてめぇら」

「ギネスさん、いる?」

「…誰だそいつ?人違いだろ、とっとと帰れ」

「俺たちギネスさんにメルザさんのミートパイを届けに来たんですけど」

「…入れ」

「ありがと」


男が開けた扉から中に入ると酒場のようになっていた。

壁には酒が置かれた棚がありいくつかの机と椅子が置かれている。

そんな部屋の中には数人の男女。

誰もがこちらを値踏みするような視線で見てくる。

タンゴは笑みを崩さず、ラウルも自然体で出方を伺う。

男達は視線を戻したが意識はこちらに向け警戒を解いてはいない。

部屋の男が1人口を開いた。


「…随分若い客だが、どうやってここを知った?」


他の人間は誰もが黙って見ている。

タンゴは自然体で返す。


「ちょっとしたツテってやつだよ。それを話すわけにもいかないのは、そっちも分かるでしょ?」

「…ま、そりゃそうだ。ここでベラベラ喋りだしたら殺すとこだったぜ。それで、何の用だ?」


「農夫が殺されたっていう強盗殺人についての情報が欲しい」

「例のあれか。だが、それくらいの情報ならここまで来なくてもその辺に転がってると思うが?」

「どうやって殺されたとかはどうでもいいんだ。誰がやったかはなんとなく目星もついてるし。俺たちが知りたいのは何が盗まれたのかだ」

男は少し考えて言葉を発する。


「…ここに来れるツテってやつがあんならそっちに頼んだ方がいいんじゃねぇか?わざわざなんで俺たちのとこまできた?」

「そっちは今他の用事で手が離せなくて。だからこの辺り一帯で1番って噂のあんた達ドゥエルファミリーの力を借りようと思って」

「…なるほどね。期限は?」

「1週間」

「いくら出す」

「前金で大銀貨100枚」


間髪入れず答えたタンゴの言葉に部屋がざわつく。

無理もないだろう。3人家族が2ヶ月暮らすのに必要なのが大銀貨1枚。

大銀貨100枚あれば8年は暮らせる額だ。

その辺のガキに払える額ではない。


「おい、お前ら静かにしろ。…大銀貨100ってのはとんでもねぇ額だが、つまりそれだけやばい橋渡んなきゃいけねぇって事だろ」

「俺の予想だと間違いなく。だからこの額なんだ」

「…少し待ってろ。ボスに話を通す」


そう言って立ち上がった男は2階奥の扉へ入っていった。

ざわめきは収まったが先程より警戒度は上がっている。

裏でも一部しかしらない符牒を知っているだけではなく依頼ひとつにとんでもない金額を提示してきた若い男2人組。


ドゥエルファミリーの面々は皆困惑していた。

ドゥエルファミリーはここメルザースだけでなくミルトシアきっての情報収集のプロ集団だ。

各地に散らばった仲間達は総勢で500は越える。

それだけの情報網があってこの2人組は正体が分からない。

正体が分からない不気味さ、だけではない。

ドゥエルファミリーは危険な橋をいくつも渡って来たがそれでもこの2人の強さが読めないのだ。

一定以上の実力を持っていればある程度の力量差は見れば分かるものだ。

それが分からない。

故に困惑するのだ。


しばらくして奥の部屋から男が戻ってきた。

男は椅子に腰かけ煙草に火を付ける。

三度吸って煙を吐き出してから口を開いた。


「…報酬は前金で大銀貨100、成功報酬で更に100。それと、危険度がこちらの想定を上回った場合はそこまでの情報しか渡せねぇ。その場合は50でいい」

「それでいいよ」


またしても即答。

これまで一言も喋っていないラウルが懐から袋を取り出し男に渡す。

手に取るとずしりとした重さを感じる。

男が袋の中を確認する。

無造作に渡された袋の中はしっかりと全てが大銀貨だった。

枚数を数え、100枚あることを確認してから男が喋る。


「…確かに、大銀貨100枚。報告の仕方はどうする」

「まだメルザースにいるから1週間後にまた来るよ」

「分かった。…ああ、少し待て」


会話が終わり二人が立ち上がって扉に向かおうとしたところで呼び止められる。


「一応必要ねぇかもしれねぇがあんたらは太客だ。今分かってる事だけだが教えておく。殺されたのはヴルストって名前の3年前に移住してきて農夫をやってた男だ。首と手を綺麗に切り落とされて死んでる。軍じゃ剣士か魔法士かって話になってるらしいがありゃ糸だ。軍の連中は知らんだろうが裏じゃそれなりに有名な殺し屋だ。名前は───」

「ゼーレ。《糸切り》ゼーレでしょ?」

「やっぱ知ってたか。そうだ。問題は有名だが誰も顔を知らねぇって事だ。あんたらもこの事件追うなら気をつけた方がいいぜ。どこにいるかわかんねぇからよ」

「ありがとう、気を付けるよ。それじゃあね」


そう言って扉から出て行くのを見送った。

扉が閉まってから男はもう一度深く煙草を吸う。

忠告はしたが、寧ろ危ないのは自分達だ。

深追いすれば間違いなく誰か死ぬ。

自分かもしれないし、仲間の誰かかもしれない。

さっきの2人組には成功報酬だのと言ったがボスの指示はある程度で引き上げて報告しろ、だった。

そして向こうもそれを分かって依頼してきている。


こういう依頼は過去にもあった。

その度に俺達は何度もギリギリを渡り歩いてきた。

今回もその引き際を見極めなければいけない。

できなければ死ぬ。


男は煙を吐き出した。

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