表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/36

二章*天才魔導師の悪妻(1)

ユニコーンに横乗りになっているシオン様を両腕で抱え込むようにしながら、夜空を駆ける。


 足元に広がる王宮の明かりがだんだんと小さくなっていく。


 ぼんやりと眼下を見つめるシオン様の横顔が儚げで美しく、私はウットリとしながら、前世で読んでいた縦読み漫画『大聖女エリカの花占い』を思い出していた。



『大聖女エリカの花占い』は、両親に先立たれた平民の少女エリカが主人公のシンデレラストーリーだ。身寄りのなくなったエリカは、近所の中年に襲われそうになる。そこを助けたのがシオン様である。


 シオン様は、下級貴族の三男坊のため貴族の中では地位が低い。そのうえ黒髪で生まれてきたことから、家族からも忌み嫌われてきた。シオン様の生家モーリオン子爵家は、田舎の侯爵家に仕える家系で、家族もみな田舎の領地で暮らしている。しかし、シオン様はひとり王都で下級宮廷魔導師として働いていたのだ。


 黒髪を恐れないエリカに、シオン様は大聖女の資質を垣間見る。シオン様は、愛と優しさ知性でもってヒロインに魔術を教え、新大聖女へと導く初期ヒーローだったのだ。


(縦読み漫画のド定番、黒髪ヒーローだし、絶対にシオン様がメインヒーローだと思って安心して読んでたのに!)


 物語の中盤までは、エリカとシオンの師弟関係とエリカに芽生えるシオンへの初恋、そしてシオンからエリカに向けられる深い愛が描かれている。


 しかし、エリカが新大聖女として頭角を現したころから、物語は変わっていく。不遇の王子ローレンスとエリカが出会い、ローレンスの立身出世物語が絡まるようになってくるのだ。


(エリカが成長したところで、ヒーローが交代したってこと)


 シオン様はローレンス殿下に厚い信頼を寄せている。ローレンス殿下もエリカと同じく黒髪を差別しなかったからだ。シオン様にとって、ふたりだけが理解者だった。


 シオン様はそのため、ローレンス殿下が王太子と認められるために尽力する。シオン様のさまざまな功績は、ローレンス殿下とエリカの手柄とされた。そもそも、黒髪のシオン様がなにもしても正当な評価は受けられない。それならばと、ふたりへと譲ったのだ。


(それなのに! ふたりはシオン様への恩を仇で返すのよ!!)


 エリカは、シオン様の思いを華麗にスルーし、ローレンス殿下の愛に応え、王子の婚約者となる。


 ローレンス殿下とエリカは、婚約破棄を恨んだ悪女ルピナの罠にはまり最大のピンチを迎えるが、シオン様がふたりの罪を被り宮廷から追放されるのだ。


 帰る家のないシオン様は、失踪する。その後、遺産をふたりへ譲ると遺書を書き、自死してしまうのだ。


 ふたりは、シオン様が残してくれた遺品を利用して、王太子と王太子妃となるというハッピーエンドだ。


(これがハッピーエンド?)


 私は憤った。たしかにエリカサイドとしてはハッピーかもしれない。だが、その幸せは、シオン様の犠牲の上に成り立っているのだ。


(王太子になったんだから、せめてシオン様の名誉を取り戻してくれればよかったのに!! 回想して心の中で感謝して終わってしまうのよ……)


 いくら当て馬役だとしても、あまりにも救われないではないか。


(私はそんなの許せない! エリカと結ばれてほしいなんて思わないけど、でも、自死することなんかなかったじゃない!! 辺境で幸せになったってよかったはずよ!)


 そう思った私は、今後雪だるま式に不幸になる予定のシオン様を攫ったのである。


(宮廷追放も失踪もさせない! もちろん自死だって阻止するわ!!)


 私の望みはシオン様の安寧なる生活のみだ。


 そのためなら、自分自身はどんな悪女とされてもいい。


 そう思い、今まで推し第一として生きてきたのだ。


 ローレンス殿下から婚約破棄されるようにと、一生懸命ルピナの悪評を流し、シオン様が失踪した場合にも備えてきたのである。


(本当に、悪女ルピナに生まれ変わって良かった。少なくとも、私がルピナならシオン様を失墜させる原因を作らないでいられるもの)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ