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【書籍化決定】天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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十二章*悪妻、窮地に立たされる(3)


 王宮から戻り、急ぎ魔塔のシオン様の部屋へと向かう。


 すると、シオン様は私が来るのを待っていたかのように、お茶を準備していた。


「シオン様。お話があります」


 急ぎ説明しようとすると、シオン様は私にソファーへ座るように促した。


「顔色が悪い。まずは紅茶を淹れるから待て」


 シオン様に言われ、私は泣きたい気持ちになった。


 シオン様のさりげない気遣いが心に染みる。


 私はシオン様の入れてくれた紅茶をコクリと飲んだ。


 セイロンティーの中に、ローズやオレンジピールが香るフレーバーティはシオン様のお気に入りのものだ。優雅な香りの中に仄かな甘みを感じる。


 ホッと吐息を漏らした。体が楽になる。安心する。


(でも、これももう味わえなくなるのね……)


 そう思うと辛く悲しい。


 しかし、泣くわけにはいかない。


「シオン様にお話があります。最近の天候不良や凶事が、私が作った魔塔のせいだと噂があるのはごぞんじですか?」


「ああ。くだらない噂だな」


 シオン様は無表情に答える。


「国王陛下より、魔塔と凶事が無関係であることを証明するために、シオン様を魔塔から解放するように命じられました」


「解放? 面白いな、私は好きでここにいるのに」


 シオン様が小さく笑い、私は思わず涙が零れそうだ。


(好きで魔塔にいてくれていたんだ――)


 だとしても状況は変わらないのだが、私は救われた気持ちになる。


「嬉しいお言葉ありがとうございます。でも、国王陛下のご命令です。魔塔の疑惑が晴れぬうちは、セレスタイト公爵家も謹慎とのことです」


 私は説明し、唇を噛む。


「……それに、神殿が私たちの結婚は認めないと言い出しました。神殿の許可がないとなれば、近々破婚となるでしょう……」


 シオン様にとって、私との結婚は魔塔で研究するための契約だ。


 魔塔にいられないのなら契約破棄になるのが当然で、きっと彼もそれを喜ぶにちがいなかった。


「今まで無理をさせてすみませんでした。そして、魔塔の閉鎖後のことですが、いかがされますか? ローレンス殿下はシオン様の出仕を望まれております。でも、気が進まないようであれば、他国へ留学できる準備もしております」


 私は拳を握りしめながら説明した。


(宮廷に戻ったら、シオン様はまたエリカとローレンスに利用されるでしょう。だから、留学を選んでほしいけど……)


 きっと、彼は選ばない。


 それがわかるから悔しくて、悲しくて、空しい。手のひらに爪が食い込んでゆく。すべてが無駄になってしまう。


シオン様は大きく息を吐いた。


「なぜ、私が留学などしなければならない」


 私はビクリと肩を縮こまらせる。


(わかっていても傷つくわね……)


 ソロソロとシオン様をのぞき見る。


 すると彼は、不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


「破婚など認めない。ようは、凶事の原因を突き止めればいいのだろう?」


「っ! でも! それは!」


 私は慌てた。原因はエリカなのだ。


(それを知ればシオン様は、きっとすごく傷つく)


 シオン様は悲しげな目で私を見た。


「私は長いことローレンス殿下の手伝いをしてきたからわかる。これは彼のやり口のひとつだ。本来の原因から目を背けさせるため、違う要因に目を向けさせる。そして、自分の望む形に納めさせるのだ」


 シオン様は肩をすくめ、小さく呟いた。


「……それを必要悪だと信じて手伝ってきていた私も同罪だ。私は卑怯者なんだ」


 私は思わず立ち上がる。


「そんなことありません!! シオン様はローレンス殿下が大切で、自分が汚れ仕事を引き受けていただけじゃないですか! ローレンス殿下に王道を歩ませるために!! それを私は卑怯だなんて思わない! シオン様がシオン様を否定しても! 私は! 私だけはあなたを誇りに思います!!」


 肩を怒らせ、一気にまくし立てるとシオン様はクシャリと微笑んだ。


「本当に……ルピナには敵わないな……」


 そう言ってクツクツと笑い出す。笑いすぎて目尻に涙がたまっている。


「シオン様?」


 小首をかしげる私を見て、目尻の涙を拭った。


「国王陛下に面会を求めてほしい。まずはそれで、私が魔塔から解放された証明となるだろう」


「……シオン様……」


「そして、私の部屋をセレスタイト公爵家に用意してはくれないか。できれば、ルピナの部屋の近くに。そうすれば、私たちの結婚生活が成立していると言えるだろう」


 シオン様は遠慮がちに私を見た。


 はにかみながら窺う様子が、少し幼げで私はズキュンと心臓を打ち抜かられる。


「よいのでありますか!?」


 挙動不審な私に、シオン様は明るく笑う。


「私からお願いしてるのだ。頼む。ルピナ」


 私は心臓を押さえながら、その場にヘナヘナと座り込んだ。


 推しのお願い顔はとんでもない威力である。


「だ、大丈夫か? ルピナ!」


 シオン様は慌てて私を抱き起こした。


(ひぃぃぃっ! 推しに殺されるっ!!)


 私はゼイハァと肩で息をしつつ、ギリギリ正気を保とうと努力する。


「だ、大丈夫です。最高の部屋を、最高に用意いたしますので、放して……。シオン様の顔面が美しすぎて死にそうです……」


 呻くようにそう言うと、シオン様は笑いながら私を引き上げソファーへと座らせた。


「あ、ありがとうございます……」


 私はソファーに座りなおすと、シオン様の淹れた紅茶をユックリ味わった。




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