十二章*悪妻、窮地に立たされる(1)
ローレンス殿下とエリカの婚約披露パーティーから、一ヶ月がたった。
ヘリオドール王国では悪天候が続いている。
(これって、エリカのせいよね……)
降り続く雨を窓から眺め、ため息をつく。
原作の流れも同じだからだ。
ヘリオドール王国は、王宮内にある王宮神殿で神官や聖女たちが儀式をおこない神に神聖力を捧げることで、瘴気を抑えモンスターの侵入や天災などから国を守っている。
儀式の中心となるのは大聖女が管理する『聖なる花園』だ。そのため、神殿の長は大神官だが、大聖女は皆からあがめられているのだ。
しかし、エリカが新大聖女に就任したあと、『聖なる花園』の花が枯れ出し神気が減り、ヘリオドール王国が瘴気に包まれ凶事に見舞われるようになってしまうのだ。
花が枯れた理由は、エリカの神聖力の乱れが原因だ。もちろん、原作でそうなるように仕向けたのは悪女ルピナである。
ローレンス殿下とエリカの関係に揺さぶりをかけ、エリカの心を乱すのだ。
(大聖女は国全体のこと思い花を育てなければならないのに、ローレンスとの恋に疑心を抱いてしまう……。それ自体は恋する乙女として共感できるのだけれど……。エリカの力が大きすぎたせいで神聖力のバランスが崩れ、原作では大聖女としての適性が疑われるのよね)
今も原作と同じく、王国を襲う凶事がエリカのせいだとされ、エリカより相応しい大聖女を探すべきだという声があがりはじめている。
(原作では、ルピナがそれを好機として新大聖女に名乗りをあげる。「今までの悪事に見える行動はすべてエリカを見抜いていたための妨害だ」とか言って)
原作のルピナはセレスタイト公爵家の力を使い噂を広め、エリカを婚約破棄と大聖女の身分剥奪という危機に追い込んでいくのだ。
私はひとつため息をつく。
(その危機を乗り越えるため、原作のシオン様は犠牲になった。エリカの不手際なのに、「シオンがエリカの神事を妨害した」証拠を神殿に残すのよ。それを見た神官たちが、シオン様を捕らえ、シオン様は宮廷魔導師の身分を剥奪、王都から追放される――)
原作の流れを思い出し、私はうんざりだ。
(エリカとローレンス殿下は、シオン様の意図に気がつかず、裏切られたとショックを受ける。そのおかげでふたりの愛の絆は深まり、エリカの神聖力は安定。結果、『聖なる花園』は力を取り戻すのだけれど――)
雨降って地固まる。シオン様の狙いどおりの結末になるのだが。
(ローレンス殿下とエリカも神官たちと一緒になってシオン様を断罪するのよ。切なすぎるでしょ?)
シオン様が望んだ結果とはいえ、あまりにも酷すぎる。
その混乱時に、エリカとローレンスの政敵たちの不祥事が明るみに出て、ローレンスは彼らを一掃する。でも、それらは、すべてシオン様がエリカたちのために、仕組んでおいたことだった。
(シオン様が亡くなってからすべての事実が明らかになるのだけれど……。絶対にそんなことはさせないわ!!)
私はフンと鼻から息を出す。
(私がルピナで良かったわ。私が新大聖女に名乗りをあげなければ、エリカは追い詰められないし、シオン様も罪を被ることはないのだから)
このあとに起こる凶事についても対策はしてある。
これから、神殿に雷が落ちる予定だから避雷針をつけさせた。モンスターの侵入に備え、王国警備兵の強化をセレスタイト公爵が進言している。
セレスタイト公爵家でも、独自に騎士団の強化に努めてきて、王都から離れた領地でも対策を練ってある。
(でも、悪女であるルピナがなにもしていないのに、『聖なる花園』の花が枯れているの? ルピナが手を下さなくても、エリカは恋に乱れてしまうのかしら?)
私は疑問に思いつつ、傍観していた。
シオン様に害がなければ別にどうでもよい。
ぼんやりと窓の外を見ていると、大きな音がして稲妻が神殿へと落ちた。
(! 原作どおりね。でも避雷針があるから大丈夫でしょう。魔塔にも避雷針はつけてあるし、私が心配することはないわね)
私はカーテンを閉め、ベッドへと潜り込んだ。







