一章*悪女、推しを拉致する(4)
「まぁ! なんてはしたない!!」
「婚約破棄をされ気が触れたのか!」
貴族たちからは非難の嵐である。
そこへ、ガシャーンと盛大な音を立て、窓を蹴破って入ってきたのはユニコーンだ。
「ユニコーン!? 存在したのか!」
「清らかな乙女にしか懐かないという伝説の!?」
ローレンス殿下は顔を明るくし、エリカの肩を抱き寄せた。
「この混乱を治めるため、エリカのもとへ現れてくださったのだ!」
ローレンス殿下の言葉に、エリカはポッと頬を赤らめた。
「そんな……。私なんか……」
「流石、新大聖女様だ!」
祝福ムードの中、ユニコーンは私の前で跪いた。
周囲は意味がわらずポカーンとしている。
「よく来てくれたわね、ユニコーン」
私はユニコーンの鼻先をヨシヨシと撫でた。すると、ユニコーンは嬉しそうに顔をこすりつけてくる。
盛大な勘違いをしたローレンス殿下は顔を真っ赤にし、エリカも恥ずかしげに俯いていた。
このユニコーンは以前が保護した関係で、私の頼みならなんでも聞いてくれるのだ。
「私が乗馬服を着てきたのは、この子に乗るためですわ」
私が説明すると、老害たちが動揺する。
「ユニコーンに乗る? あの悪女が?」
「ユニコーンは清らかな乙女にしか懐かないはずでは?」
「だとしたら、ルピナ嬢がユニコーンに求められた乙女だと……?」
ザワつく貴族たちに、私は微笑んだ。
「少なくとも、婚約者がいるのにもかかわらず、恋仲になろうとする人よりは清らか、でしょうね」
私が鼻で笑うと、エリカはパッと目を逸らした。
シンと会場が静まりかえる。
ユニコーンは、私へ背に乗るように鼻で背を指し示した。
私は茫然自失とするシオン様を押して、むりやりユニコーンに乗せようとする。
「っ、私は……」
「ユニコーンに乗りたくありません?」
「! そ! それは……」
「私が一緒じゃなきゃ乗れませんわよ?」
シオン様が煩悶しているあいだに、ユニコーンの背に押しつける。するとユニコーンは角をシオン様のマントに絡ませて、むりやり自分の背に乗せた。
令嬢のように横向きでユニコーンに乗せられたシオン様の後ろに私がまたがる。
「さあ、行きましょう!」
ユニコーンは軽やかに床を蹴った。
「っ! 待て!!」
追いすがるローレンス殿下に私は手を振った。
「窓の代金は、のちほど父に請求してくださいまし。今よりよいガラスを入れてくれると思いますわ」
ユニコーンは、割れた窓をくぐり抜け、颯爽と夜空へと飛び出す。
フラッシュが音を立てたかれている。
(この写真、お父様経由で手に入るかしら? だったら――)
私はどさくさに紛れて、シオン様をギュッと抱きしめた。
茫然とする貴族たちを尻目に、私たちはセレスタイト公爵家を目指した。