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【書籍化決定】天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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十一章*大聖女エリカ、未来を占う(1)


 婚約式から一ヶ月後。私は王宮での王子妃教育を終え、王宮神殿にある『聖なる花園』に向かっていた。


 窓の外では霧雨が降っている。


 王子妃教育が長引き、すでに時刻は遅れ気味だ。私は小走りで先を急ぐ。侍女は嫌そうな顔をしてついてきていた。


 婚約式以降、ヘリオドール王国は季節外れの長雨に見舞われていた。そのせいもあり、聖花の生育が悪く、花から放たれる神気が減っているのだ。不穏な雰囲気が王国内に漂いはじめ、その矛先は大聖女である私エリカに向かっている。


(……どうしたらいいの? もっと大聖女の務めに時間を割きたいけれど、王子妃教育もしなければならないし……)


 大聖女の勤めと王子妃教育の両立が難しいことは、誰にも知られたくなかった。


(誰かに知られたら、王子妃を辞退しろと言われるかもしれないもの……)


 そうなるのが怖かった。平民出身の自分が王子妃なんて無理だと思う。しかし、ローレンス殿下がほかの妃を娶ることを考えると、身が引き裂かれる思いだ。それならば自分が努力すればいいと思ってきたのだが、さすがに限界を超えそうだ。


(でも、婚約披露もすんだことだし、きっと辞退しろとは言われないはず。こっそりローレンス殿下に両立について相談してみよう)


 長雨が解決するまでは大聖女の勤めを優先してもらい、王子妃教育に余裕を持たせてもらうのだ。


 この先のホールで、ローレンス殿下が待っているはずだ。約束はしてないのだが、ローレンス殿下はいつもそこで待っていてくれる。王子妃教育と聖女の勤めのあいだに会いに来てくれるのだ。


 しかし、今日は様子が違った。ローレンス殿下はおらず、貴婦人たちが噂話に花を咲かせていたのだ。


「エリカ様にも困ったものだわね」


「婚約披露パーティーをしても一向に王子妃としての自覚がないわ」


 私に対する悪口が聞こえ足を止めた。


 悪口を囁いていた貴婦人たちは私に気がつくと、優雅に礼をする。


「エリカ様、ごきげんよう」


 和やかな笑顔に明るい声。一瞬前の言葉が嘘のように友好的で、私はゾッとした。


「……ごきげんよう」


 私はギクシャクと答え軽く礼をする。


 すると、侍女はこれ見よがしにため息をつき、貴婦人たちは鼻で笑った。


(私、またなにか間違ってしまったの?)


 不安でローレンス殿下を探そうとキョロキョロする。しかし、彼の姿はどこにも見当たらない。


 婚約式が終わってから、ローレンス殿下はこの場に現れなくなってしまったのだ。約束していたわけではないからしかたがない。


(忙しいのは知っているから、我が儘は言えないけれど……)


 私は心細い気持ちで立ち尽くしていると、貴婦人たちはクスクスと笑った。


「まぁまぁ、捨てられた猫のようね」


 その言葉にギクリと震える。


(捨てられた……。私、捨てられてしまうのかしら?)


 押し寄せてくる疑惑を打ち払うよう、私は再度周囲を見回した。


(遅れているだけよね? ロー)


 そんな私を侍女は冷たい目で見くだす。


「エリカ様、なにをお探しですか?」


「あ、いえ。……大丈夫です。なんでもありません。……お気遣いありがとうございます」


 私が礼を言っても、彼女はため息をつくばかりだ。


 どうもこれも、王子妃候補者らしからぬ振る舞いだったらしい。


 ローレンス殿下のプロポーズを受け、私は未来の王子妃として淑女教育を受けているのだが、あまりにも勝手が違いすぎて疲れ果てていた。


(シオン先生なら、ダメなことと良いことを理論的に指摘してくれたのに……)


 王宮の教育係は「普通はわかる」「自分で考えろ」と言うのだ。


(でも、平民だった私にはなにが正解かわからない……)


 今も侍女は冷たい視線を向けるだけだ。


(私……、向いていないのかも……)


 そう思う瞼には、ローレンス殿下の笑顔がちらつく。


(ダメダメ! 弱気になっちゃダメ! 一生懸命頑張ればきっとわかってくれるはず! 負けるわけにはいかないわ!)


 私はそう思い直し、ブンブンと頭を振って顔を上げた。


 そして、侍女のさす傘に入り王宮内の神殿にある『聖なる花園』へと向かう。


 今日の大聖女の勤めは『聖なる花園』の手入れなのだ。


 霧雨の降る花園の入り口に到着すると、見慣れた聖女見習いが傘を差し立っていた。今日の鍵当番なのだろう。彼女は十四歳からこの王宮神殿で共に過ごしてきた私の同期だ。


 私はシオン先生からローレンス殿下に紹介され、ローレンス殿下の推薦により王宮神殿の聖女見習いになった。


 聖女見習いとして過ごしていた私は、花占いの実力を見込まれて、十七歳で大聖女になった。聖女や聖女見習いになるのは貴族の令嬢が多く、平民から大聖女になるのは大抜擢だ。


大聖女・・・エリカ。今日も遅刻です」


 同期の聖女見習いはトゲのある言い方をして、私に鍵を突き出した。


「あ……。ごめんなさい。王子妃教育が長引いて――」


 理由を説明しようとすると、彼女は被せるようになじってくる。


「嘘をつかないでください。ローレンス殿下と会っていることは噂になっているんですよ。大聖女様が遅れると私の次の勤めが遅れ、みんなに迷惑がかかるんです! 雨の中、待たされる身にもなってください!」


「本当にごめんなさい」


「鍵は自分で返しに行ってくださいね!」


 彼女はそう言って鍵を押しつけ、神殿へと向かっていった。


「いつにお迎えに上がれば良いですか」


 怒鳴られ落ち込む私に、侍女は機械的に聞いてくる。


「あ、今日は遅れた分を残って作業しますので、迎えに来なくて大丈夫です」


「そうですか」


 侍女はそう答えると、傘をさし振り向きもせず帰っていった。



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