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一章*悪女、推しを拉致する(3)


 再び、フラッシュの嵐だ。


 エリカが大聖女だからなのか、王族を公式の場において愛称で呼ぶことを誰も指摘しない。


 ふたりは見せつけるように私に微笑んでから、フロアの中央へ進んでいった。


「まぁ、お似合いのふたり」


「エリカ嬢はシオン様と踊るべきでは?」


「でも、こちらのほうが華やかだわ」


 明らかなマナー違反を肯定し、貴族たちは私を見てあざ笑う。


「ルピナ嬢は気の毒ね。婚約者なのに無視されて」


 私はそれよりもシオン様が気になった。


 シオン様は無表情で幸せそうに踊るふたりを見つめている。


(ああ、シオン様。切ない横顔も美しいけれど……でも、こんなの苦しすぎる……。早くシオン様を救ってあげたい)


 私は自分の胸元をギュッと握り混んだ。


 ファーストダンスが終わると同時に、ローレンス殿下が室内楽団に向かって手を挙げ音楽を止めた。


 周囲の注目がふたりに集まる。


 ローレンス殿下は、エリカの前に片膝をついた。


 私は頭痛を感じる。


(あー……やっぱりね? やっぱりそうきちゃう?)


「新大聖女エリカ様へ婚約を申し込みたい!」


 ローレンス殿下はそう言うと、フフンと私を流し見てドヤ顔をする。


「ロー……!! でも、あなたはすでに婚約者が……」


 エリカは困惑しつつも喜色を隠せない表情で私を見た。


「悪女ルピナとは婚約破棄する! 俺が愛しているのはエリカだけだ!」


 ローレンス殿下の言葉に、シオン様はサッと顔を青くした。


(それはショックよね……。今夜、シオン様はエリカにプロポーズするつもりだったのだから……)


 漫画のサイドストーリーを読んでいた私は知っている。


 漫画でのシオン様は、愛を込めて贈った指輪を喜んでつけてくれるエリカを見て、彼女が自分に恋愛感情を抱いていると勘違いしてしまった。エリカにしてみれば、皆に平等に優しくしていただけなのだが、シオン様はそれを愛だと誤解し、プロポーズする決意をするのだ。


(漫画のエリカはなかなか無神経なのよね。シオン様からもらった指輪を外すことなく、隣にローレンス殿下の結婚指輪を嵌めるんだから)


 私はなんとも言えない気持ちで遠くを見た。


 ざわめくパーティー会場。


 いきり立つ、私の父セレスタイト公爵。


 国王陛下は茫然とする。カメラマンたちは緊迫の空気を慮ってか、カメラを下ろした。


 なにしろ、私とローレンス殿下の婚約は、王家から強引に命じられたものだからだ。末子で継承権の低いローレンス殿下を哀れに思った国王夫妻は、爵位の序列一位であり王国一裕福な公爵家の後ろ盾を与えようと計算された婚約なのだ。


 そして、王位継承権の低い者と私を縁づかせ、我がセレスタイト公爵家にこれ以上力を持たせないためでもある。


(だから、私からいくら言っても婚約破棄できなかったのに)


 そちらから破棄してくれるのであれば、万々歳だ。


「父上! ルピナは悪女として有名です。いくら聖なる白い髪であっても、彼女の悪評は消すことができない。しかも、その大切な白髪でさえ、私が何度命じても伸ばすことをしない。これは王家に対する侮辱であり、挑発ですらある!!」


 ビシリと私に向かって指をさす。


「お前はなにを言っているのかわかっているのか!」


 国王陛下は気色ばんで立ち上がった。


「しかも、こんな晴れやかな日に、女でありながら乗馬服など着用し、私に恥をかかせようとする女です。悪い噂も数知れず。こんな女を王子妃にしたら、王家の品位がさがります!!」


 ローレンス殿下の言葉に、賛同の歓喜が湧き起こった。


 国王陛下は苦々しい顔で周囲を見る。もう、国王陛下の言葉だけでは押さえられない盛り上がりだ。


 私は国王陛下に微笑みかけた。


「国王陛下。私はかまいませんわ。婚約破棄を喜んで受け入れましょう」


 私の一言で、会場は静かになった。


 国王陛下は困惑し、お父様は満足げに頷いた。「よく言った」といわんばかりである。


 ローレンス殿下は怪訝そうだ。


(まったく理解できてなさそうだけど。大丈夫かしら? 原作では慰謝料請求されてなかったみたいだけど、私はガッポリいただくわよ?)


 私は未来を考えウッキウキだ。


「婚約破棄してくださり誠にありがとうございます!」


 私が優雅に礼をすると、ローレンス殿下は皮肉に笑う。


「最後まで強がりを! かわいさのかけらもないな!!」


「あなたにかわいいと思われたくないんですもの。しかたがないですわ」


 私はそう言うと、シオン様のもとへ駆け寄った。


「だぁって、私が好きなのは、シオン様ですから!」


 そしてその腕に自分の腕を絡ませる。


 シオン様はバケモノでも見るような目で私を見た。



「ということで、改めて命じますわ。宮廷魔導師シオン・モーリオン様。私と結婚なさい」


「っ? は? 私が?」


「これは、セレスタイト公爵家からの命令です。あなたには拒否権がありません」


 悪女らしく横暴に言い渡す。


「酷いぞ! ルピナ! シオンは大切な宮廷魔導師だ」


「そうです! シオン様を返して!」


 ローレンスとエリカが私を責める。


 私は鼻であざ笑った。


 そうして、口笛を高らかに鳴らす。


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