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【書籍化決定】天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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七章*悪妻、休暇を満喫する(5)


「さ、シオン様、中へ入りましょう。あのような者に、あなたの魔力を使うのは惜しいですわ」


 私は杖を持つシオン様の手を両手で包み込んだ。


 冷たく乾いた手が、ガチガチに杖を握り込んでいる。


「しかし、あなたを侮辱した……」


「いいのよ。どうせ、帰り道は苦労するんですから、シオン様が手をくだすまでもありませんわ」


 シオン様はしぶしぶ頷くと、のろのろと杖を懐にしまった。


 私はオリバーを一瞥し、ニッコリと微笑んだ。


「迷わず気をつけてお帰りくださいね? 夜になるとクマもモンスターも出るそうですわよ」


 私の言葉に従者はガタガタと震えた。


「は、はやく、山を下りた方がよろしいのでは?」


 従者の言葉に、オリバーは私を見た。


「あ、あの、登山列車を動かしてはくれまいか?」


 私は無言でオリバーを見る。


「その、か、貨物でいい! いや、動かさなくていい! 貨物室に一晩入れて」


 私は鷹揚に微笑む。


「いいえ。お帰りくださいまし。ログハウスも駅も、不法侵入された場合は、命の保証はできなくてよ?」


 そう答え、シオン様の背を押しログハウスに向かう。


「すまなかった。申し訳ない! 俺はローレンス王子殿下に頼まれて、だから……本心ではなく……そもそも、シオンが、そうだ、シオンが――」


 私はログハウスの玄関前でオリバーに振り返った。


「それでは、せいぜいお気をつけ遊ばせ!」


 そして、木のドアをバタリと閉めた。


 私は背中をドアにつけ、思わずため息を吐いた。


 シオン様が私を見ている。


「……すみませんでした。騙すように旅行に連れ出して。パレードのことを知って驚きましたよね……」


 私は俯き謝る。


「いいや。知っていた」


 シオン様の答えに私は驚き顔を上げた。


「は? 知って……、いつから……?」


「旅に出る前から、噂は聞いていた」


「でも、シオン様は魔塔に監禁していて……」


「あなたが情報統制していたのも知っている。私には私の情報網がある」


 シオン様の言葉に、私は息を呑んだ。眩暈がする。


 それはそうだ。シオン様は魔導師としての能力はこの国随一なのだ。自分で情報を集めようと思えば集められるにちがいなかった。


 なにしろ、魔塔の封印を破って公爵家に現れることができる人だ。ローレンスとエリカがシオン様を取り返しに来た日、タイミングよく現れたのも、きっと独自の情報網を使ったのだろう。


「……あ……、最低ですよね……、私。軽蔑してください……」


 俯きドアに背中を押し当てる。恥ずかしくて逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


「軽蔑などしない。ただ、なぜそんなことをしたのか気になるが」


 私は正直に打ち明けた。


「シオン様に、あのふたりのことを知られたくなかったんです……。世間の噂が耳に入ったら、魔塔を抜け出しどこかに行ってしまうんじゃないかと」


 ギュッと唇を噛む。


「そうか」


 シオン様の声になぜか笑いが含まれていて、私は恐る恐る顔を上げた。


「要するにあなたは、私をあのふたりに取られたくなかった……ということか?」


 尋ねられて、赤面する。


(ちょっとニュアンスが違うんだけど……)


 間違っているかと問われるとそれも違う。あのふたりにシオン様の人生を振り回されたくなかった。


「意外とかわいいことをするのだな」


 シオン様はそう言うと納得したかのように微笑んだ。


「さあ、いつまでもそうしていないでリビングへ行こう」


 シオン様は機嫌良くそう言うとリビングへ向かっていく。


「あ、あの! シオン様! でも、なんで、知っていたのにこの旅行を受け入れてくれたんですか?」


 黒髪の流れる背中に問いかける。


「パレードで湧く王都にいたら、ルピナがゲスな噂の的になると思ったんだ。だったら、一緒に王都を離れる良いチャンスだと思ったのだが、迷惑だったか?」


 シオン様は振り向かず答える。


 あまりのことに、その場にグズグズと座り込んだ。


「シ、シオン様が……私なんぞのために? 旅行を? は? ……嘘でしょ?」


 意味がわからず、頭の中は混乱している。


 リビングからシオン様の声が響いてくる。


「ルピナ、初夏といえど山の中はまだ寒い。暖炉をつけてくれたそうだ。チーズを温めて夕食にしないか」


 まるで、家族にかけるような言葉が、胸の奥を暖める。


 目尻に熱いなにかがたまって、私はそれを手の甲でキュッと拭き立ち上がる。


「はい!」


 そうして、シオン様のもとに向かって駆けだした。




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