七章*悪妻、休暇を満喫する(2)
街の中を散策し、私たちは駅へと戻った。
シオン様は意外にもさまざまな種類の町の銘菓を買い込んだ。
(甘いものが好きなのかしら?)
などと思っていると、シオン様に頼まれた。
「この菓子をスタッフに差し入れてやってはくれないか」
「では、今、届けに行きましょう! 駅舎で休憩中だと思いますわ」
私の答えにシオン様はフルフルと頭を振る。
「私からだといえば、気味悪がって嫌がるだろう?」
シオン様は少し淋しげに微笑む。
私は否定できなかった。実際にその可能性はあるからだ。
「では、一緒に行って私が渡すところをごらんになるのはいかがでしょう?」
「そうだな」
頷くシオン様を連れ、駅舎の休憩室へ向かった。
休憩中で雑談していたスタッフたちは私を見て、ビシッと居住まいを正す。若手のスタッフなどはカタカタと震えている。
悪女ルピナと名高い私と、漆黒魔導師が怖いのだろう。
「いかがいたしましたか? なにか問題でも」
車掌が前に出て尋ねる。
「いいえ、とても楽しい旅をしているわ。心遣いありがとう。これはみんなに食べてほしくて用意したのよ」
そう言ってシオン様が用意したお菓子を手渡す。
「ありがとうございます!」
車掌はそう頭を下げて、私を見たあとシオン様を見た。
シオン様が驚いたように目を見開くと、車掌はシオン様にも頭を下げた。
「なぜ、私に?」
シオン様が戸惑うと車掌は笑った。
「いえ、きっと旦那様のご提案ではないかと。違いましたか?」
シオン様は困ったように口を噤んだ。
「ルピナ様は情緒がないというか……これで解決しがちなお方です」
車掌はそう言うと、親指と人差し指で輪を作り、金貨のマークを作る。
「私の悪口かしら?」
私が軽く睨むと、車掌は「滅相もない」と笑う。
「もちろん、お金もありがたいのですが、こうやって旅のひとときに私どもを思い出してくださった、そのことが嬉しいのです」
車掌が続けると、シオン様は口の端を上げる。
「そうか」
「ありがたくちょうだいいたします」
車掌は再び頭を下げた。
私たちは休憩室を出て、自分たちの車両へと向かう。
「良かったですね」
シオン様に声をかけると、無言で頷く。安心したような微笑みを浮かべている。
(ただ手土産を受け取ってもらっただけでこんな表情を浮かべるだなんて――)
今までどれだけ拒絶されてきたのか、その過去を想像すると切なさに身がつまされた。
(でも、スタッフたちがシオン様を理解してくれて良かったわ。これで私も安心して、外のホテルに泊まることができるわ)
昨夜のように同じベッドで眠り粗相があってはたまらない。
「シオン様、車内泊でよろしいですか?」
確認すると、シオン様は無言で頷いた。
「では、私は外のホテルに泊まりますね!」
「は?」
シオン様は目を丸くした。
「あなたはホテルに宿泊するのか? なら、私もそちらへ宿泊してもかまわないのだろうか?」
「もちろんですわ! ホテルのほうはきちんと別部屋のご用意してあります! ご安心ください! 今夜は身の危険を感じずにユックリ眠れますよ!」
「いや、私は別に身の危険など感じていないが……」
「いえいえ、遠慮なさらず! 旅は長いのです。お互い無理をしないようにいたしましょう!」
私が言うと、シオン様は小さくため息をついた。
「……わかった。なら、私は車内にとどまる」
なぜか少し不機嫌そうに答える。
「? なにか気になる点でもありますか?」
「夕食はどうするつもりだ?」
「ご迷惑でなければ車内でご一緒できますか?」
「迷惑なわけないだろう」
シオン様はつっけんどんに答えた。
「困ったことがあったら車掌に伝えてくださいね! シオン様を第一に優先するよう申しつけていますので」
「ああ。大丈夫だ」
シオン様は苦笑いした。







