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三章*悪妻、推しを退職させる(4)


 *****



 無事、シオン様の退職届を受理してもらい、私は自身が設立したループス商会へと向かった。


 ループス商会では、前世の知識を生かしてさまざまな事業を手広く扱っている。ちなみに、社員たちは知っているが、世間的にはオーナーが私であることは秘密だ。設立当初から私の悪評がとどろいていたので、イメージ戦略的によろしくないと判断したのだ。


 信用できる女性に、オーナー代理をしてもらっている。


 初めのうちは、女が経営者であるというだけで、馬鹿にされていたのだが、そこを逆手にとって女性経営者との連携を強めたところ、短期間で大きな商会になった。しかし、急成長したこともあり、悪徳商会などと呼ばれているのだ。


 単純に我が社の社員がやり手なだけなのだが、嫉妬からか認めたくない人たちが多いのである。


 商会のドアを開けると、社員たちが満面の笑みで迎えてくれる。


 私の商会の社員は、普通の商会では働きにくい人を中心に採用している。


 悪徳商会と呼ばれているため、条件のよい人は応募してこないということもあるが、私はできるだけ困っている人を助けたかった。


 貴族は寄付や奉仕事業などで平民を救済することが多い。


 しかし、私はただ食べ物を配って終わりにするのではなく、自分で生きる力を手に入れてほしいと思ったのだ。


「ルピナ様! お久しぶりです!」


「噂を聞きました! 宮廷魔導師様を攫ったんですってね!」


「しかもユニコーンで!!」


「きゃー! ロマンチック」


 大盛り上がりの女性陣に、男性陣は苦笑いだ。


「ルピナ様、公爵家経由で王宮の窓ガラスの注文が入りました」


「ああ、それ、私が壊したものだから、以前のものよりよいものを入れて差し上げて。あと、請求は公爵家だからふんだくっちゃっていいわよ」


 私が悪戯っぽく言うと笑い声があがる。


「普通は自分の家だからおまけしてって言うのに!」


「ルピナ様は反対なんだから」


 ループス商会は風通しがよい。商会内では身分や立場など気にせず、意見交換ができるため効率がよく、活気があるのだ。


 だからこそ売り上げもよいと思うのだが、世間では『悪徳』と噂されている。


「今日はね、新しい企画が来たわよ!」


 私の言葉に、オーナー代理のカンナが眼鏡を光らせた。彼女は大きな商会の娘だったが、女という理由で家を継ぐことができなかった才女だ。


 弟の相続を安定させるために、田舎の高齢者とむりやり結婚させられそうになっていたところを私が引き取った。彼女の能力は介護より商売に向いているからだ。


「どういった内容です?」


「例の部門の支店を王宮内に出してほしいらしいの」


「ローレンス殿下が嫌がられるのでは? 受け入れてもらえますか?」


「そう。だから、表向きは王宮の一部門の下請けとして社名は隠し、ループス商会の人間を派遣しようと思うのよ。どうせ、殿下はそこまで調べやしないわ」


 私が悪い顔で微笑むと、カンナも同じく微笑んだ。


「そうやって実を取る……。どうして悪いことばかり思いつくのでしょう」

「やだ、よいアイデアでしょう? 宮廷の人々は、気持ちよく仕事の依頼ができる。私たちは宮廷の情報が手に入る……」


「悪役顔ですよ。ルピナ様」


 突っ込みが入って私は肩をすくめた。


「では、そちらの部門に行きたいものを募りますね」


「ええ。宮廷内だからいじめられないようタフな子がいいわ。ちゃんと教育をしてから送り出してね」


「では、貴族の使用人を経験したことのあるものを中心に教育します」


「面倒な仕事になると思うから給料は多くつけてやって」


「承知いたしました」


 私が指示を出すと、商会内がワッと盛り上がる。


「給料が多いのはいいな!」


「宮廷の作法を教えてもらえるなら立候補したい」


 あとはカンナに任せて商会を出た。


 その後、街の中を一回りした。


 王都には、ループス商会が経営する店が何店かあるのだ。それらを見てまわる。店の名前に商会の名は冠していない。悪徳商会と同列にされないためのイメージ戦略だ。もちろん、調べればループス商会が母体だとわかることではあるが、そこまで調べる消費者は少ない。


 どの店も混んでいる。


 お客さんたちの笑顔も満開だ。


 私はそれらを見て満足する。


 商会の悪評よりも、顧客が幸せならそれでよいのだ。


「うん、商売は問題なさそうね」


 一安心して空を見上げると、カラスが空を渡っていった。


 今日はいやに目につくカラスの姿。


「……なんだか嫌な予感がするわ……。早く家に戻りましょう」


 私は胸騒ぎがして、家に戻ることにした。




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