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第44話閉幕

「ようこそ。いろいろと大変だったようですね」


 波子三は心底から同情しているようだ。申し訳なさそうに俺たちを迎え入れた。


実際俺たちの現状はカオスだ。

ルンルンと軽い足取りで先頭を進む白夜。

後ろにいる俺は挙動不審だった。

前と後ろを交互に眺めながら、緩衝役として奔走していた。

一番後ろにいる照さんが泣きながらついてきているのだから、居心地が悪いったらありゃしない。



「儀式の準備は」

「滞りなく」

「これで!!」


 本当なのかと、俺は疑わしげに眼前の光景を見た。

 確かにここの住民たちが努力したのだろう。神社には多くの変化が見られる。


 清め、あるいは神が通る道を示す盛り塩。

 神樹に向かい、篝火とともに人一人が寝転がれるように設計された神棚がある。

 きっと、この場所で俺は生贄に捧げられるのだろう。


確かに努力の跡がみられる。しかし、神をどうこうする儀式であるのを考えれば物足りなさを感じてしまう。

まぁ、急場で時間がないというのを考えれば褒めるしかないのだろうが……。

 それでも最終的には納得しただろう。


むしろ、違和感の源泉は周囲の人間だった。


「さあ、お前ら、声を合わせろよな!!」


 声を大きく張り上げる混血、確か名前は井筒。

 彼は大声で歌っていた。ただし、アニソンを。


「いや、なんでアニソン!! なんで神様への対抗策がアニソン!!」


 町にいる音楽好きをかき集めたのだろう。

 皆が楽器を奏でる姿は様になっているし、この中に加わり舞を踊っている白夜はまるで天女のようだった。

 この曲がアニソンでなければ。

 こういったら悪いけど、ここでやっているのが儀式ではなくアイドルのライブのようにしか見えない。



「あの本当にこんなもので大丈夫なんですか」


 ギターを首にかけた俺と同年代くらいの少年が皆を打以上して疑問を口にした。いいぞ、もっと言ってやれ。


「どうしてもというのなら、最悪発狂する呪文を教えて、みんなで詠唱してもいいけど」

「いや、結構です」


 勇気は秒も持たなかった。でも、おかしいよな。神を元いた世界に戻す手段が、アニソンか精神をむしばむ呪文かの二択って!!


「この儀式の趣旨は、神様に捧げものをして満足してもらうことだ。

神にも音楽に感動する耳は持っているが、歌詞を理解する読解力は持っていない。

古くから続く、伝統的舞踊的なものでないのが不安だとは思うが、はっきり言うが、神様に電波曲とクラシックの違いなんて分かると思うか」


そうだけど、そうだけど、何かあるだろ。

とは思うけど、同時に納得もできる。だって、神様の姿って木だし。

あれが音楽の違いなんてわかるわけがないと言われればその通り以外の言葉がなかった。




「はぁ、やだなぁ」


 夜明けまであと一時間。

 儀式の最終準備ということもあり、休息をとることが許された。

 俺は白夜が美香を治療するのを見届けた後、命を捨てるという決意が鈍らぬように少し離れた場所で一人黄昏ていた。


 逃げたいが、この町を見れば逃げることなどできるはずがない。


 こうして屋根の上から見える景色だけでも、この町の現状をありありと理解できた。

 轟轟と、炎が広がっていく。

 次に、ここに集まった皆を眺めていた。

多かれ少なかれ、皆が怪我を負い、疲れ切っている。

 助かるかもしれないという希望を見せたから頑張っているが、限界が近いのは明らかだ。



「やっぱり、死ぬのは怖い」


 いつの間にか、その日とは俺の後ろに立っていた。ことりと、手に持っていたコップを俺のそばに置き、照さんが俺の横に座った。

その顔にはもう涙の跡はなく、落ち着いているように見えた。

だから話せているが、どうしようもなく気まずい。


 とりあえず、水を持ってきたことにお礼を言って、カップに手を付けたのだが。


「ゴッホ、ゴッホ、何これ。アルコール」


 一気に、口に含んだのが悪かった。

 酒精と、日本酒独特の風味に、俺はむせ返る。


「人生最後の記念にと思ったけど、余計なお世話だった」

「そういうのは、事前に許可をもらってからやってくれよ」


 俺の非難に、照さんはごめんごめんと平謝りを繰り返した。


「爆弾の中に、月与ちゃんがいたんだな。正直、俊樹のこともあって気がつかなかった」

「なんで、あなたが申し訳なさそうなのですか。私が盛大にやらかして自爆しただけでしょ。

私はね、あの死体の中に月与がいるって気がつかない時に、あの女の提案に賛同したのよ。

皮肉ね。私は目を閉じ耳をふさいだ。そのせいで、すぐそばにあった大切なものをこぼれ落としたんだ」


 ああ、今さらだが理解した。照さんは俺に一緒になって人間爆弾を反対してほしかったんだ。

 でも、そんなこと今さら言われても。


 後悔するなら、さっさと、やめてくれと言えばよかった。

 あの女も、一人や二人死体を残してもいいと口にしていたのだから。

 だが、すべては後の祭りだ。

 照さんにはきっと、照さんなりの吟味があったんだろう。

 俺が俊樹の死体を見捨てたのと同じように。

 後悔の念が、俺にはまぶしく映った。


「照さんは、これからどうするんだ」

「この被害を繰り返さないように、自分なりに動くつもりです。

警察、あるいは軍か……」


 そうか、この人には未来があるんだな。

 自分で聞いていてなんだが、ものすごくうらやましい。


「照さんは気が使えるし、魔術の腕も高い、適任だよな」

「ええ、今回の一件で、この国の危うさを。裏の世界の闇を垣間見ましたからね。

 自分ができる範囲でどうにかしたい」


 ああ失敗したな。

 気が滅入る今の話じゃなく、未来の話をしたのだが余計に暗くなった。

自分なりの覚悟を口にする照さんの瞳の奥に、ほの暗い恨みの念を同じ復讐者であるからこそ敏感に感じとってしまう。



「そういうあなたは」

「もう、俺なんかここで死ぬかもしれないのに、それ聞いちゃう」


 やべ。

 つい、腹が立ったから、意地悪な言い方をしてしまった。


「もし生きていたら、混血の、白夜さんの仲間入りだ」


 俺はあえて、こいつの恨みの先にさんをつけて敬った。


「今回の一件で、自分の無力を思い知った。

 妹を殺した相手にすら、命を懸けても傷一つ付けられなかったんだ。

 一から鍛えなおして、そして、どんな手を使ってでも、この町をこんなにした、あの女に復讐を、落とし前をつけさせる」

「どんな手段でもって、それは……」

「お前だって知ってるだろ。俺が自分の意志で生贄になることを。お前もそれを消極的だが賛同している」


「……そうですね。私もあの女と同じだ。他に方法がないから、あなたを犠牲にした。

 でも、私は自分があの女と同じだとは思わない。

 いまだに方法は見つからないけど、いつか、誰も犠牲にならない方法を見つけ出してみせる」


「そうか、照さんは強いのだな」

「いいえ、私は弱いですよ」


 こんな状況だ。来るべき恐怖を紛らわせるために、俺はちびちびと酒を飲んだ。


「うん、飲んでみたけど。あまりおいしいとは思わない」

「まぁ、儀式用のアルコール度数が高いお酒だし。味は二の次になっているのは否定できないとは思う」


 横で、照さんも酒を口に付けたが、どうも日本酒はあまり好みではないようで、ああ、ここにビールがあったらなーと小言を漏らしていた。


「さっきの話の続きだが、あの女、徳子は俺の妹の死体をのっとたんだ。

 俺はさ、妹の体が乗っ取られた日、何もかもを捨てて逃げ出した。

 万が一、そうそんなはずがないのに、もしも妹を開放する手段が見つかれば、助けられると思って。

 そのために妹をどこまでも追いかけて殺す猟犬たちに通報しないことに決めた。その挙句がこれだ。

 今では、妹を安らかに眠らせることこそが、どれだけの痛みが伴おうとも殺してやることこそが救いだったと思っている。

 だから、その行いがどれだけ胸糞悪かろうが、そのトップが何を考えているのかわからない怪物であろうが、白夜さんの下につくことを決めた。

 あそこが俺の理想に一番近い。それに、徳子に一番近いのも、間違いなくあそこだ」


「そうか、強いね」

「いや、俺は弱いよ」


 今ではそう、仲良くおしゃべりしているが、その道は混じる余地がない平行線だった。

 きっと、俺たちはここを出れば今度は敵同士になることだろう。


「今回の事件では、俺はいいとこなしだったな。

妹の仇が目の前にいたんだ。運命だと思ったよ。

 今こそ、妹の敵を討つ時だって。

 だがな、俺には何もできなかった。

 ただ、周囲を巻き込んで危険地帯に放り込むだけ。

 だから、頼むよ。お前は自分の後悔で誰かを巻き込まないでくれ」


「やっぱり、強いよ、君は。

こんな状態でも、誰かのためを思えるんだから。

 私はこんな状態になったら、家族のこと、そして自分のことしか考えられないから」


 お互いに譲れないものがある。

 だが、この地獄のような1日を乗り越えた仲間なのだ。

 分かり合えないとしても、どこかに妥協点はないものかと思わずにはいられない。


 なのに、それからはお互いに、ただぼんやりと景色を眺めるだけだった。否定したいのに理解してしまったからだ。自分の言葉が届かないと。


 照さんの虚ろな眼差しは、燃え盛る鎌倉の町が映し出した。


 後悔にゆがんだ俺の目には、この町をどうにかしようと駆け回っている、みんなの姿が映り込んでいた。


「俺は、やっぱり強くなんてないよ。

 言い訳ができたから、俺は前を向いていられるだけなんだ。

 俺のせいで俊樹が死んだ。その繋いだ命を使うことで、俺はこの町を救える。

 あいつの死が、無駄じゃなかったって証明できる。

 もし、それができなかったら、きっと俺はあんたと同じか、いや、もっとひどい状態になってただろうよ」


 もう、お互いに言いたいことは全て言い切った。

それに、もうすぐ夜明けだ。


 俺はこれから儀式の生贄に。

 照さんは、万が一、植物人間が襲撃してきたときの防衛役を買って出ていたのだから。


 ゆっくりしている時間は使い切っていた。

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