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第42話導き

 時はほんの少し前にさかのぼる




 あの激闘の果てに、俺は何もかもを諦めて、ただ死神のゆったりとした足音が聞こえるに任せていた。

 妹の救出も復讐も、今ではもはやどうでもいい。俊樹が俺のせいで死んだ。

 いつもそうだ。

 俺にとって大切な人、俺を支えてくれた人、それらすべてが俺のせいで死んでいく。


 もはや何もかもがどうでもいい。

 俺は何も選択しないということを選択していた。



「もう少しお前は落ち着いたほうがいいな。

 むこう見ずに突き進むのか、それとも落ち込んで立ち止まるのか。どうして極端から極端にしか動かないのだ」



 精神世界。

 俺としては死ぬ前の走馬灯的なものと考えていた。が、よく知らないおっさんがここに現れたことでこいつの術ということが分かる。

 だからどうしたという話だが。


「もうほっといてくれ。俺はさ、もう何も選ばないって決めたんだ」


 こいつがどうしてここに来たのかわからない。ただ一つ言えるのは、もう何もかもが手遅れだということだ。



「なぁ、お主。生きたいか」


 きっと、昨日までの俺ならば、こんな質問されてもバカにするように笑っただろう。

 今の俺は、この質問を聞いてうつむくだけだった。


「もういいよ、俺は生きている意味を全部なくしてしまった。

 家族は死んだし、友達も、俺に関わった人間がみんな不幸になっていく。

 ここで助かったとしても、いったいどんな顔をして生きていけばいいんだ」


「おかしなことを言うものだ。友が自分のために死んだのだ。

 それは嘆くことではなく誇るべきことなのでは」

「お前に、お前なんかに俺の何が分かる」

「分かるさ、いったい儂が何人の同胞を死地に送り込んだと思っている」


 そんなはずと俺は言いかけて、こいつがいったい誰なのかを思い出す。

 あの武士たちはこいつにとって……。



「だったら俺のつらさが分かるだろ。放っておいてくれ」

「ああ、つらさは分かる。だが、共感はできん。命を懸けるというのはそう、誰かの誇りを受けとるということだ。

 ならば、こんなところで座るな、たとえ死ぬにしても前を向いて死ぬべきだ」


「……」


 何かを言いかえしたかったが、結局、自分の言葉を言語化できなかった。


「納得できないのならば、ここで儂がおぬしの誇りを託そう。あの女を、北条徳子を殺せ。

 儂らをこの世界に呼び出し、この地の民を殺させたあの女を」


「なんとなくあんたが何をしようとしてるのかわかる。それをやったら俺は人間でなくなるんだよね。そこまでして……」


 きっと、こいつの提案を受け入れれば俺は地獄を見ることになる。間違いなく、ここで死んでいたほうが楽だという人生が待っているだろう。

 

「そんなことで悩んでいたのか。

そんなもの、なった後で考えればよいだろう。それにどうしても無理だというのならばその時は腹を切ればいいだけでは」


 一体、こいつは何を言っているんだ?


「簡単そうに言っているけどさ、今時切腹なんて狂人でもやっていないんだよ。

 励ましにしてももっとましな方法をがあるだろ」

「噓だろ!!」


 それはこっちのセリフだよ。

 というか、切腹云々はまじだったのか。


「そうなのか。やらないのか切腹」


 いや、こいつらが生きていた時代なら切腹が普通なのか、俺が悪いのか。

 これが、ジェネレーションギャップってやつか。


「どうやら、これでお主とはお別れのようだ」

「いや、まて、え!! これでお別れ、まだお前の提案を受けるとも何とも……」


 精神世界に光があふれてくる。

 きっとこれは、俺の修復が終わったのか、それとも、この世界の維持限界に来たのか。

 専門的なことは分からないが、これだけは言える。

 ああ、もう、グダグダだよと。





 目を覚ますと、突如援軍として駆けつけていた混血どもの首領の整った顔がドアップで映り込んでいた。


「え! なんで意志があるの」


 死体が突然息を吹き返したのだ。この驚きもそう、当然だろう。


「良かった。本当に良かった。

 生きてたのね。もうてっきり死んだものとばかり」


 俺なんかのことを心配するなんて……、もう俺にはそんな資格ないのに。


「もうほっといてくれ!! どいつもこいつもどうして命を懸けて俺なんかを助けるんだ!! どうして。俺なんかを……」


 だからこそ、俺はその優しさに甘えることなどできるはずがなかった。



 しかし、状況はそんなわがまますら許してくれない。


「や、やぁ、元気そうだね。それでさっそくで悪いんだけど、君は確かに死んでいたはずだ。どうやって蘇生したのかな」


 俺の喉元に指を突き立てながら、お茶らけながらも、固い声でそいつは俺に問いかけた。


「確認だけど、君は人間かな」

「どうだろう、もう自信がない」

「もしも、完全に怪異となったというのならば、私はお前をここで処分する。

 その発言が最後の言葉になるかもしれないんだ。慎重に言葉を選んでくれるかい」

「ちょっと、どうしてせっかくこれまでの激闘を生き延びたのに、こんなに剣呑になっているんですか」


 照さんが仲裁に入るが、今の俺には余計なお世話だった。


「単純な話だよ。俺は植物人間の親玉と融合したんだ。

 どこまでが人間か、どこまでが怪異なのか、俺自身にもわからない。

 今こうして話しているのが、本当に俺なのかすらももうわからないんだよ」

「それって、まさか」


 白夜が何かを思いついたようだが、もはやそんなことどうでもいい。


「そういう訳だ。もしも俺を処分したいなら処分すればいい。

恨まないし、俺が処分されても文句はない。それどころか、忌まわしい怪異が一匹消えて清々するくらいだ」





 ――あっ!! これまずい。


 西行が生き返った時。白夜は追い込まれていた。


 結界の中での犯罪というのは、基本的に無罪となる。

 理由は大きく分けて三つ。

 結界の中は法律上存在しない場所だ。

 日本はおろか、地球であるのかどうかすら怪しい場所なので、法律は意味をなさない。

 これは地理的な要因だけではなく、実用的な状態でもある。

 大規模な結界が展開されたのならば、もはや軍でもどうしようもない状態だ。民間人を巻き込むような兵器を使っても、おとがめなしという言い訳をつくるためでもある。

 第二の理由が、結界そのものに精神操作の効用が発生している可能性があるため。

 第三の理由が結界の中で何が起きたのかを観測するのが非常に困難だからだ。


 ――だが、例外が存在する。


 それが人体実験である。

 結界の中でも、あまりにもおぞましいそれらの行為は、被害者が告発をした段階で決して許されることがない。

 つまり、西行が白夜を告発すれば彼女は窮地に立たされるのである。


 ――もう面倒だし、この場にいる全員口封じついでに殺しちゃおっかな!


 一瞬危ないほうに思考がそれたのだが、「もうほっといてくれ!! どいつもこいつもどうして命を懸けて俺なんかを助けるんだ!! どうして。俺なんかを……」という言葉を聞いて、


 ――あっ! こいつ死にたがっている。


 被害者が自暴自棄になっているこの状況は彼女にとって、あまりにも都合が良すぎた。


「や、やぁ、元気そうだね。それでさっそくで悪いんだけど、君は確かに死んでいたはずだ。どうやって蘇生したのかな」


 喉元に指を突き立てながら、白夜は自分にとって都合がいい返答を待ち望んだ。


「一つ聞きたい君は人間かな」


 質問しながらも、もうこいつが人間でないことを白夜は確信していた。


「どうだろう、もう自信がない」


 ――よし、なんて都合がいい発言なんだ。


「もしも、完全に怪異となったというのならば、私はお前をここで処分する。

その発言が最後の言葉になるかもしれないんだ。慎重に言葉を選んでくれるかい」


 ――ウソ、本当は心の底から軽率な発言をしてほしいと願ってます。


「ちょっと、せっかくこれまでの激闘を生き延びたのに、こんなに剣呑になっているんですか」


 ――よし、こいつも私がこいつを怪異にしたあまりにも都合がよい展開の連続に、白夜は内心で助かったと胸をなでおろしていた。


「単純な話だよ。俺は植物人間の親玉と融合したんだ。

 どこまでが人間か、どこまでが怪異なのか、俺にもわからない。今こうして話しているのが、本当に俺なのかすらももうわからないんだよ」

「それって、まさか」

 

 白夜の想定を現実は斜め上に越えていく。


「そういう訳だ。もしも俺を処分したいなら処分すればいい。恨まないし、俺が処分されても文句はない。それどころか、忌まわしい怪異が一匹消えて清々するくらいだ」


 そういって、悟ったようにしを受け止めた西行の手を白夜はぎゅっと握りしめた。


「それが本当なら、君はみなを救えるかもしれない」

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