第36話自爆
「受け取れ!!」
俺を追ってきたのだろう、俊樹がカバンごと武器を渡してくれた。
「お前……、すまん」
どうしてここにいると問い詰めたかったが、俺にはそんな資格がないと口を噤んだ。
「行ってくるよ」
「ああ、行ってこい」
時間がないから、謝れない俺を許してくれ。俺はまっすぐ前だけを見据えた。
本当に俺は周りに迷惑をかけてばかりだ。
勝手な行動をしないと約束したのに、黙ってこんなところまでやってきた。
今まさに命を懸けようとしているのに、その尻拭いをやったのが置いてきた仲間なのだから。
本当に俺は周りに恵まれているなと再確認した。
ごめんな、もしこれが終わったら、もう二度とお前たちに我がままなんて言わないから。
お前が勇気を振り絞ってここまでやってきたように、俺も全力を出すから、そこで見ていてくれ。
俺の気迫に押されてか、化物の焦った顔が見れた。ざまあみろ!
刺し違えてでも、この女だけは……。
これから死ぬかもしれないのに、心臓の鼓動は酷く落ち着いていた。
「これで長年の因縁に終止符を打ってやる」
意外なことに俺の覚悟に犠牲になるはずの波子三と高時が応じてくれた。
まさか、この俺が化物と混血と無理心中か。だが、それも悪くない。
武器のたぐいは相手の死角、そう俺の背中に隠す。
鏡に映ればまた封印される可能性がある。
「糞、この放せ」
紙による封印と二人に組み敷かれているからこそ、化物がもがこうとも拘束はびくともしない。
「もういい、お前まで死ぬことない。さっさと手を持った爆弾を投げろよ」
時限爆弾の導火線が今にも燃え尽きそうになった瞬間、耐えきれず俊樹が逃げろと口にした。
ごめんな、それはできないんだ。
俺も、お前と生きたいけど。
爆弾をこいつの死角に置かないとまた封印されるかもしれない。
悪いが、止まるわけにはいかない。
「このままいく」
「ああ来い、儂らごとでもいい」
ああ、こっちの過去の遺物は思いっきりが良くていいな。
「まったく、なに熱くなっているんですか」
そんな、あまりにも熱くなった俺たちの熱を奪うように雪が降り出した。
「なんだこれ」
「鎧ですよ! あなたたちのことは私が守ります。さあ、安心して自爆特攻してください」
皆が覚悟を決める中、照さんだけが違う方向を見ていた。
雪のように空を舞っているそれの正体は紙だった。
その空を舞う紙の一枚一枚が俺たちに張り付いてくる。
これは一体……。
「この走行であなたたちを守って見せましょう。絶対安心とまではいきませんが、それでも、絶対に即死だけはさせません」
きっと後ろで照さんが拳を突き出していることだろう。短い付き合いなのに、その光景がありありと想像できた。
これで、見方を安心して巻き込める。
肩の荷が下りたからこそ、最後に俺は俊樹のほうを見た。
ただ一言、言わなければならないことがある。これを言えなければ死んでも死にきれないからだ。
「迷惑かけてごめんな」
そんな後ろ向きな言葉を最後に駆けられても迷惑なだけだろうが、それでも言わなければならなかった。
そして……。
「夕子の仇だ」
俺の手は化物に届いた。
それと同時に爆弾を起爆する。
「頼みます、照さん」
俺にできることはもう、味方にお祈りをするくらいだ。
神様仏様、照さん。どうか、俊樹の八を連れて逃げ伸びてください。
☆
自爆により、爆風が周囲に吹き荒れた。
鼓膜を破らんばかりの爆音も、肌を焼く熱風も確かに脅威であるが、両者にとって今この瞬間最も神経を逆なでするのが視界を覆いつくす煙だった。
視界をふさぐのは徳子の弱点であるし、照にとっても仲間と敵の位置がわからないのは痛い。が、時間がその停滞を打ち破った。
「西行なの……か。このバカ、おい、さっさと立てよ、無事なら返事をしてくれよ……」
煙が晴れ、一番最初に姿を見せたのは、爆心地から少し外れたところにいた西行だった。
無事な姿に安どした俊樹も、声をかけても返答がないことから不安を抱き、今では泣き出しそうになりながら、彼の元へ走り出そうとする。
それを照が止めた。
行かせてくれとせがむ彼に、黙って首を横に振った。
いまだここは戦地なのだ。
非戦闘員を爆心地に放り投げる真似など到底できるはずがない。
「どうしてだ、どうして止めるんだよ。頼むよ、行かせてくれよ」
だが、そんな気づかいなんてもの、この極限状況で察せるはずもない。
余計なことはするなととがめ、それでも引きはがせないのだから、憐みを誘う声で懇願した。
「だめ!! 何も考えなしに飛び出したらすぐ殺されるのよ。
妹は助けられなかった。
でも、一人でも多くの誰かを救い出すことが私のここでの役目。
それが人間的に正しくても、命を危険にさらす可能性があるならば無理やりにでも止めるわよ」
だとしても、照の覚悟が揺らぐことはなかった。
「そんなことよりも、あの化け物はどうなっているよ」
この状況でも、照は冴えわたっていた。
この状況で、目の前に負傷者がいるにもかかわらず、敵の動きを確認できなければ動かないと決定する。
煙が晴れる中、次に姿を確認できたのは高時だった。
「これは……」
照は一瞬高時の死を幻視した。
それほどまでにひどい損傷だ。
肌は焼け、腕はちぎれ、下半身は半ばから切断されかけていた。
それでも這うようにして、一番近くにいる西行のほうに向かうというのは植物人間としての生命力の高さゆえだろう。
少しの時間でもともに戦った仲間が死んでいないのは素直にうれしいが、これでは助けるのは無理だと照は見切りをつけた。
そしてすぐに、そんな冷静な考察なんてものがどうでもなくなってしまう現状となってしまう。
「そんなうそでしょ」
「まさか」
結論から言えば、照の懸念は正しかった。
彼らが助けを見送ってでも見極めようとしていた答えが提示された。
煙の中からふらつきながらも自分の足で姿を見せたのは味方の最高戦力ではなくただの敵だったからだ。
どうして徳子が無事なのか。
それは彼女の能力によるものだった。
一華の戦いで見せた写真へのダメージの転写。こいつらには一度も見せたことをない切り札を切った、それだけで、敵の計算は誤解した。




