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第25話作戦準備

 外在型の付与系統。

 その特性は、お札やお守の作成、物に魔力を込めることだ。

 

「これは、工芸神の力か」


 照が広げた紙が自動で姿を変える。

 写真という設計図が燃えるとともに出来上がったのは一つの工芸品。

 物作りの権能をもった神がこいつに力を貸しているのと、井筒は当たりをつけた。


 人間は気の力を扱えても魔力を扱えない。

 物質世界で完結している生命だからだ。

 他のテクスチャに干渉する必要がない。

 その中で、魔力を活用法としてもっともオーソドックスなのが、協力者の力を借りることだ。

 テクスチャの向こう側にいる、上位の悪魔だの神だのと呼ばれる存在に働きかける。儀式や祈りが一般的で、向こうがこちらに関心を持ってくれるまで何度も何度も呼び掛ける。

 向こうがこちらを認知してくれれば、つながりが生まれ、そこから力を引き出せるのだ。


 そうして魔力と呼ばれるエネルギーを異界から引っ張り出すことに成功すれば、その力は術式の燃料となる。

『こいつの能力は……、紙を操る感じだな。

 薄いものならば何でもいいというのならば葉っぱとか服とかも使えるのかも。

 だが、今注目すべきは、どれだけこいつが使えるのかだな』


 作った工芸品をある程度操作できているらしく、ひとりでに回転を繰り返し、手裏剣は植物人間に向かい切り裂いていく。


「思ったよりもあたりだな」


 この状況下では根本的な問題点がある。しかしながら、応用性があり物資の現地調達が容易なので継続戦闘能力が高くいい能力だと井筒も太鼓判を押した。

 化物ぞろいの八ツ葉でもこれならいいところまで行けると思ってしまったほどだ。



「あなたたちに罪という概念が存在するとは思わない。ですが、あなた方が傷つけた者たちの思いを少しでも理解できることを願います」

「油断大敵。それじゃあ火力不足だし。ほら、傷が浅いからこいつらは立ち上がって来るぞ」


 照の経験不足が如実に現れた。

 手裏剣を用いた手数による圧殺。人間であれば痛みから動けなくなっただろう。しかし、痛覚が存在しない植物人間に対して相性が悪すぎた。


「嘘、何で倒れないのよ」

「人間と同じように考えていただろ。こいつらは人ではなく獣と思え。たとえ手足を切られても息絶えるまではこちらに向かってくるからな。殺すってより壊すのほうが正解だな」

「なるほど、これが化物との戦い」


 練習試合で、幾度かの対人戦の経験が照にはあった。だが、常識が一切通じない。理不尽な相手に驚くも、その足は後退するどころか一歩踏み出した。


「これは消耗品だから、あまり使いたくなかったんだけど、時間が惜しいので出し惜しみはしません」


 照は呪符を取り出し、それを手裏剣にコーティングした。


「本当に器用だな。そういったお守りを他所が干渉しようんとすれば弾かれる場合があるのに」


 それだけで、無理やり耐え抜き進んできた植物人間も動きを止める。


 痛覚はないのはもう確認済みではあるが、それでも痛みを感じているとしか思えない動きを取っていた。実際に彼らは痛みなど感じていない。正確に言えば、身体に違う法則を流し込まれたことで変調をきたしたのだ。


「予想はしていたけど、見るからに頑丈そうなのは残ったわね」

「気をつけろよ、そいつら気を扱えるうえに、知能も高いから飛び道具も使用してくる」


 その忠告を証明するように、エリートたちは地味ながらも堅実なテクニックを披露する。


「一斉射撃……。化物のくせに、えらく基本に忠実じゃないですか」


 化物風情が武人ずらかと照は内心で吐き捨てた。

 彼らがしたのは単純な工夫だ。三人同時に矢をつがえ放つ、ただそれだけ。

 放たれる矢の総数は全く同じだが、攻撃可能な面積が増え、避けにくくなる。


 ーーさすがに手助けしたほうがいいかな。


 照の実力を見るために後方で腕組みしていた井筒であるが、活躍を見て使えるという判断を下していた。

 この閉鎖空間の中での貴重な見方だ。いなくなられても消耗されても困る。

 手助けするべく腕に風を纏わせるも、それがいらぬお節介であるのに気がついたのはすぐだった。


「クリエイト・アイギス」


 カバンから取り出した紙が盾に変化した。元が紙ということで強度面に不安が付きまとうが、問題はないようだ。盾は矢をあっさりとはじき返した。


「クリエイト・クロスボウ」


 紙が朽ち果てるのと同時に、新しく取り出した紙が今度はボウガンとなった。


「こんな複雑なものまで作り出せるのか」


 ーー単純なものしか創り出せないと思ってたが、俺の見込み違いでしたってことか。ここまで複雑なものまで作れるとは。


 これまでの傾向から構造面での制限があると井筒は思っていたが、照という女を過小評価していたと思い知らされた。

 なにせ、紙が持ちえない弦の張力を再現した見せたのだ。

 その精度には目を見張るものがある。


 呪符をまとい放たれた一本の矢がエリートの体をあっさりと貫き葬り去った。

 しかし、クロスボウの性質上、次の弾を発射するには時間がかかってしまう。



 隙を見逃すことなく、追撃を放ってくるエリートを井筒が風で追い払う。


「おい、逃げるぞ。いくらなんでも数が多すぎる。このまま戦ったとしてもこっちが消耗するだけだし」


 間髪を容れずに、身体を触ることになるが構わないかと、井筒は先に謝罪した。

 そのまま、波子三を掴みかかったかと思えば、近くの建物の屋上へひとっ飛び。


「まって……、え!! キャッ!!」

 逃げるしかないのは照も分かっていた。離脱の判断には賛成だ。しかし、心の準備をする時間が欲しい、というのが本音だった。



 驚きから数秒間目を閉じ、次に開眼すれば、そこはビルの屋上だ。ここなら、敵が猛攻を仕掛けても結界を張ればしばらくは持つと、彼女は理解する。


 最善策を取るべく彼女は動こうとした。

 急いで立ち上がり、防火扉なり、シャッターを物理的かつ霊的な結界とする。


 ーーそれだけで時間ができる。その時間があれば、逃げだす算段くらいはできるでしょう。これから合流しようとしている別動隊ともコンタクトが取れるかもしれませんし。早く結界を……。


 急いで照は動こうとした。動くべく自分を奮い立たせるのだが、ある事情によりそれは不可能だった。


「ごめん、ちょっと、はきそう」


 ジェットコースターですらしないような上下移動をしたのだ。それも一切の事前通告なしに。乙女として、それだけは避けようと手を口で覆っているが、それでも……。


 一刻の猶予もないからこそ、無理やり照は走り出した。

 エリートが到達するより前に防火扉を閉め、お札で結界を張る。

 突然の事態に向こうも対応が遅れたらしく、全部で6階建てのビルのうち、3階で防火扉を閉めることに成功。3階分のスペースで彼らは籠城できる。

 一仕事を終え、妙にすっきりとした顔をした照が屋上に戻った。いったい道中で何があったのかを彼女が語ることは最後までなかったという。


「それで見つかったのですか」

「ああ、俺は耳が良くてな。こういった探し物が得意なんだ。お前の妹かどうかは分からないが、小さな女の子を連れていたよ」

「それ本当!!」


 照が結界を構築している間、井筒は外を見張り、そして仲間の捜索も行っていた。双眼鏡を片手に音で位置に当たりをつけ、割とすぐに目当ての人物を見つけていた。

 見つけた集団の中に小さな女の子がいたのは誤算だったが。

 少なくとも照にはうれしい誤算だった。それが妹である可能性が低いのは承知しているが、妹でなくても幼い子供が助かるのはうれしい。妹でなくても気を落とさないと心に決め、双眼鏡を奪い取った。



「そんな、嘘!」

 現状確認をすれば、照は飛び跳ね嬉しがる。

 動きががあまりにも激しかったせいで、双眼鏡を放り投げ、俺の私物だぞ、何乱暴に扱ってくれているんだ、と井筒に注意をされ、しょぼくれるのだが。


「よし、今すぐに助けに行きましょう」

「どうやってだ。強行突破はなしだぞ。俺たちが目的地にたどり着いた時、満身創痍になりかねないしさあ。

 そっちも、たどり着いた時、疲れ切っていてまともに動けないのは嫌だろ」


 興奮のあまり、考えなしになっていた照は冷静な指摘にたじたじだった。


「よし、紙を探しましょう。もう、ほとんど使い切ったのよね。大量の紙さえあれば打開策が思いつくかもしれないし」


 とにかく建物中を探ろうと、扉を開いていけばすぐに資料室に行き当たった。

 そこにある本も資料も、彼女の手にかかれば立派な武器となる。

 これだけあれば何かすごいことができるはずと首をひねるが、なかなかいい考えが浮かんでこない。


「最悪の話だが、俺がまた風をまとって……」


 その言葉を聞いた時、照はそれだと閃いた。


 百科事典から一つの写真を引っ張り出す。

「これ作ってみない」

「お前、こんな場所でこんな大それたものを作るつもりかよ」


 そのいかれた発想に井筒は驚愕した。

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