第19話危機感
ーー俺、もしかしたら射撃の天才かも。
圧倒的な命中率、とまではいわないが、この不安定な体勢からでも敵に当てているのだ。
天才と呼ばれても不足があるはずもない。
そして、俺の才能の開花が加速していく。
引き金に指をかけたその瞬間、俺は当たったと確信した。
忌々しい植物人間エリートが倒れるビジョンをはっきりと見た。
これが噂に聞く見気。と本気で思ったほどだ。
俺が見たビジョンのままに銃弾は脳天に直撃した。
しかし、こいつらが倒れることはない。
肝心の銃眼が額で止まり、その奥底、人体にとって最も致命的な部分まで届くことがなかったからだ。
見気が覚醒したと思ったが、単なる勘違いだった。
無意味にかっこつけなくてよかった。危うく恥をかく所だったぜ。
もっとも、揺れるので舌を嚙むかもしれないから、そもそも会話なんてできないけどな。
俺の見気は単なる勘違いで済む。
仮に口にしても、俺が恥ずかしい思いをするだけだ。
だが、この植物人間エリートたちが気を使っているのは……。勘違いだったらうれしいが、どうにも勘違いだという思いがしない。
これが真実ならば、状況は俺が思っているよりも遥かに悪いかもしれない。
「もしかしてなんだが、こいつらは身体に気をまとってないか」
銃弾をはじいた技術は身体に纏うタイプの気功、硬気功だった。
同じ技術を使うのだから、見間違えるはずがない。
それでも、これまでの常識が目の前の事実を否定する。
俺は確認するため、側にいた人間もどきに声をかけた。
「嘘、まさか」
驚愕が、俺の推測を答え合わせしてくれる。
「確かに、こいつらは、気を使っています」
「あり得るのか、それ」
「元が人間だったら、でもそれでも」
「え! こいつらの正体って……」
俊樹の反応を見て、人間もどきは口を滑らしたと慌てた。
うすうす感づいていた自分、そもそも人間なのかすら怪しいこの女。俺たちとは明確に違い、怪異に関する知識も裏社会での身の振り方も知らない俊樹は目の前の植物人が元人間と聞かされ衝撃を受けた。
その目に宿るのが同情か、こんな存在に自分がなり果てるかもしれないという恐怖なのかまでは、付き合いが長い俺にもわからなかった。
だが、少なくともこいつはその動揺を表に出すことはなかった。
一度ぎゅっと目をつぶり、口を閉ざす。何か思うところがあるのだろうが、少なくとも口にすることはなかった。
「そもそもの話なんだが、どうして化物が気を使用したくらいでそんなに驚くんだ。どっちも似たようなものだッ~~!!」
今も俺たちは走りまわっている。
揺れのせいで俊樹は舌をかんだ。
気で感覚器官を強化できないし、今のこいつには話すだけでも重労働だった。
「同じようなものだからこそ、問題なんですよ」
返答が帰ってこないことを人間もどきも重々承知しているのだろう。
その言葉は話しかけるというよりも、自分の考えを整理しているように見えた。
「魔術というのは違う世界から力を引っ張り出す技術。
じゃあ、魔術と仙術の違いって分かる」
そもそも、仙術が何かすら、俊樹は知らないのかもしれない。ポカンと話を聞いているだけだ。
「仙術は外界にある気を体内に取り込み、系統魔法と同じように更に上の力を扱う技術。
これ、扱う力が違うだけで出力される結果は穴字なのよね。
体内に他の世界の法則を取り込むのと、当たり前のように存在してる気を使うのって。
私たちが魔力と呼んでいる力にしたって、実際数十種類は存在しているし。
だったら、その数十種類はある魔力の中に気を組み込めばよりわかりやすい分類ができる。
実際そうやって分類している専門家もいるのよね」
と長々と語ったが、何が言いたいのかを一言でいえば、気と魔力の本質は同じでわざわざ別物として分類する意味がないということをこいつは言っている。
「私たちが魔力と呼んでいるのは、他の世界の住人から見れば気であり、私たちにとって気と呼んでいるのは、他の世界から見れば魔力。
要するに、仙術と魔術の違いは、この世界の力を使っているのか、他の世界の力を使用しているかの違いでしかないのよ。
だからこそ、化物は気を扱えないんです」
だが、目の前の化け物は気を扱った。
だが、それは理論上ありえないのだ。
俺たちが訓練すれば当たり前に気を扱えるように、あいつらも訓練すれば当たり前のように魔力を扱える。
それが世界の摂理であり、あっち側の生命が気を扱うためには、それはもう厄介な手順や手順を踏まなければならない。
はっきり言おう。俺はあの化物の技術力を心底恐れていた。
気を扱うこ化物を量産可能かもしれないのだ。
こいつらはさほど上位の怪物ではない。が、もしもっと厄介な存在に技術が伝われば一体どうなる。
気は俺たちが当たり前に持っている力だ。
この世界にある力をそのまま使っているのだから、他の魔力と干渉を起こすことはない。
そして、気と魔力。その二つの力を使用できていることこそが人類側の大きなアドバンテージなのだ。
つまり、気を扱える化物というのは人類そのものを窮地に多々去るほどの劇薬なのである。
「ああ、夕子」
妹の仇。それだけでも決して許せない存在だったが、今回の一件で仇の強大さが身にしみてわかった。
お前はこの世界にいてはならない存在だと、俺は神樹のほうへ語りかける。
「はぁああぁ~」
そして、罪悪感に囚われた。
あの時追放しなかったのは、もしかしたら妹を救えるかもしれないという希望があったからだ。
通報すれば陰陽士たちは妹の存在ごと夕子を葬っただろう。
今となればできたかどうか怪しいものだが。
もしかしたら助けられるかも。
そんな淡い希望を持ち、沈黙を選んだ。
その付けを今この町が払っている。
だが、このままアイツを放置すればどれほどの、いや、今でさえ多くの罪のない命が失われている。
もはや、どうにか妹を救うなどという、甘い言葉が意味を持たないことを俺は悟ってしまう。
恐怖で、手が震えるが、もし機会があればその時は……。
その覚悟の宣誓は不意に中断された。
一体なんだと、俺はいぶかしんだ。
「こっちは銃を持っているんだ、急に止まれば危ないだ……」
しかし、抗議の言葉は途中で止まった。
その足元には矢が刺さっている。
ビルの側面で待ち伏せしていたのだろう。
そして、正面にも、植物人間エリートが待機していた。
覚悟を決めたが、それ以前にこの状況、俺は生き残れるのだろうか。




