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第18話逃走中

「お前何しに来たんだよ」

「ごめんなさぃいい!!」


 男の怒声に、女は半べそを搔きながら謝罪する。

 こいつらはそうしようもない間抜けだ。

 化け物がいるのに派手な爆弾を使い、空に閃光弾を打ち上げた。そのせいで周辺の植物人間たちはここに集合していた。


 それから必死に逃げる間抜け、それが今の俺たちだった。

 


 捨てがまりという戦略がある。

 薩摩の田舎武士が得意としていた戦術だ。

 まず少数の囮が敵陣の突入。

 場をひっかきまわした後に撤退。退却先には仲間が潜み、横っ面を殴りつける。


 普通なら、囮が全滅するという点に目をつむれば最強の戦術だ。

 最高に頭がいいよな。


 で、俺たちは同じように少数突撃で囮をやっている。

 でも、進先には仲間も罠もない。

 どうだ、ものすごく頭が悪いだろ。

 笑えるよな、その当事者が俺じゃなければ。



「お前なにかないのかよ。救援部隊だろ」

「今にも死にそうなあなたたちを救うために、急いで駆け付けたんですよ。そんな都合がいいもの、有りませんよ」

「でも、これは君が招いた事態だよね。何とかしてくれよ」


 抗議の声に人間もどきも最初は素直に謝罪をした。だが、すぐにどす黒い本性を表した。

 全てこいつの性なのに、抗議してきたのだ。


「そもそもの話、私に俵担ぎされて逃げることしかできない分際で偉そうなことを言わないでよ。

 あなたたちは、私のミスがなくとも植物人間のエリートが出て来た時点で詰んでたのよ。賭けてもいいわ、あなたたちは途中でのたれれ死んでいた、と」


 つまり、そんなに嫌ならば自分に頼るなと人間もどきは言っているのだ。



 そして、俺たちの逃走がこいつに頼りきりなのもまた事実。

 両肩に二人ずつ、計四人を抱えながら、それでもこいつは自転車を超えるほどの速度を出していた。

 化物めと吐き捨てる思いと、こいつがいなければ確実に死んでいるという事実が両立していた。


 それでもなお、閃光弾を打ち上げ、敵を呼び寄せたことをチャラにはできない。


「その事実も、お前がいなければ起きなかったんだけどな」

「そもそもの話、爆発が起こった時点で……」


 そして再び始まった堂々巡り。いつもと違うのは、俊樹が黙りこくったことだ。

 一体どうしたと視線を向ければ。


「悪い、ちょっと揺れて気持ち悪い。吐きそうだ」


「や・め・て・ぇ~~!!」


 人間もどきが、女としてあるまじき叫び声をあげる。

 ざまあみろとも思うが、俺のほうにも被害が来る。何とか人間もどきにだけ被害が行くようにはできないだろうか。



 青い顔で口元を押さえる俊樹。誰がどう見てもその限界は近かった。


「何かできないのか。足を緩めたり、揺れを押さえたりとか」

「見ればわかるよね。敵に追いつかれて、攻撃されてもいいというのならそれをやりますけど」


 俺の要求は即座に却下された。

 というよりも、この女は覚悟を決めていた。

 たとえどんなに自分の身が汚れようとも、最後まで走り抜くという悲壮な覚悟を。



 不覚にもたくましいと思ってしまい、自分が言っているのは単なるわがままでしかないと反省した。


「だがせめて、俊樹の方向を入れ替えてくれないか」


 俺たちは背後の警戒を兼ねて後ろ向きだ。つまり進行方向と顔が逆だ。

 進行方向と顔が同じならばだいぶ楽になるだろう。


「いやよ、仮にリバースしたらもろに私が汚れるから」

「だが、こいつが抱えている美香やけが人の拘束が緩むのもまた面倒だろ」


 人間もどきにも、怪我人を救いたいという最低限度の良心はあったらしい。

 乱暴にストップをかけた。

 怪我人やグロッキーになっている人物がいるが、この状況で贅沢は言えない。俺はむかついたが何も言わなかった。


 ――そして、その衝撃で俊樹は限界を迎えた。


 口の中から、そう、「きらきら」がこぼれだした。

 俺たちが損害を被らなかったことはラッキーだった、と思うようにしよう。


 結局俊樹は吐いてすっきりしたらしく、そのまま後ろを見て警戒すると言い出した。



 このままというのも芸がないので作戦を一つ提案した。

 背負われているから、預けていた武器を返してもらう。


 そう、俺の作戦は移動時も銃を撃つということだ。


 大きく揺れ、性能もお世辞にも良いとは言えないタクシーだ。その上で集中して何かをする。

 ただでさえ大きな負担がさらに大きくなる。

 

 それでもだ、こいつら風に言うのであれば内気功をマスターした俺は身体能力だけでなく感覚も治癒能力も向上している。

 その治癒力は三半規管にも影響を及ぼすらしく、俊樹がどうにかなってしまった状況でもなんともなかった。



 結界のせいで月の光が差しこまない世界で、銃声が木霊した。

 爆音に驚き慌てるだろう鳥たちは、賢いことに人間がとらなかった逃走という手段を取っているせいでどこにも見当たらない。


 ーーどうだ、化物ども。


 人間もどきは走っているほうを、俊樹もまだ本調子ではないのか、ぼーっと景色を見ているだけだ。

 だからこそ、この神業を見たのは俺だけだった。


 この不安定な、足場すらない状況でも、俺の放った弾丸は真っすぐ狙い通りに進んだ。

 そして、追跡の最中に植物人間のエリートに命中したのだ。


「硬いな」


 しかし、俺は舌打ちした。

 当然ではあるが、その音は人体を打った音とは違う。

 固い金属にぶつかったように、硬質な音を響かせ銃弾はあらぬ方向に跳ね返った。



 鎧のせいかと、俺は決断をくだし、弾丸を放ち続ける。

 頭では音を頼りによって来ると分っているが、そんなことに構っていられない。


「すごい、お前にこんな特技があったといはな」


 ようやく、調子を取り戻した俊樹が俺に当然の賛辞を贈った。


 迫り来る植物人間の内、ノーマル数体が俺の弾丸に倒れ、追跡の手を大きく遅らせていた。

 だが本命、こちらを追いすがる植物人間のエリート。こいつらだけは銃弾を当てようとも、鎧のせいか銃弾が弾かれてしまう。


 だが、ーーやったか!


 銃弾が化物の眉間に吸い込まれた。大きく顔をのけぞらせていることから、命中したんだ。

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