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第10話準備

すいません、少し遅れました。

 木々の隙間から、柔らかな木漏れ日が漏れる。


 森特有のどこか爽やかさをはらんだ空気が鼻腔を刺激してくる。


 ようやく脅威は消え去り、穢れが払われたことで、この樹海がいつもよりもすがすがしく思えた。


 しかし、俺の眉間のしわは相変わらず刻まれたままだ。それどころか、さらに深くなった気すらしている。


 


「ほら! え・が・お!!」


 


 そのしわをどうにかしようと、美香が実力行使に出た。


 ほほを引っ張ることで、無理やり笑顔をつくったのだ。


 俊樹と、人間もどきが、俺の姿を見て噴き出すが、その事実が不快でならなかった。


 


 


 簡潔に、俺たちの状況を説明するのならば、目の前の人間もどきに捕らえられた。


 銃弾は使い果たし、こいつの策略によって、俺は負傷した。


 しかし、俺以外にこの危機的状況を警戒すらしていない。


 人心掌握にたけたこいつに俊樹も美香も協力的だというのが、俺の不安を増大させている。


 


「というよりもだ、お前ら、いくら何でもくつろぎすぎだろ!」


「まぁ、助けてもらったし、お前だって、美香を助けに行かせてくれって、土下座したよな。さすがにそこまで世話になっておいて、その恩を忘れるのはどうなんだ」


 


 思わず顔が引きつった。忌々しいことに、それらすべて事実だった。


 借りという拘束具があるからこそ、いやいや俺はこいつの向かい合い座っている。


 


「え! あんた私を助けるためにそこまでしてたの。どうしよう、愛を感じちゃうわ」


 


 いらんことを俊樹が吹き込んだことで、美香がニマニマとこちらを見つめる。


 今回の一件で地の底まで下がった好感度が上昇したというのはうれしいが、正直墓場まで持っていくべき事実だと考えていたのでうれしくもなんともない。


 


「待て、美香俺も俺も」


「ええ、俊樹さんも、私に土下座して助けに行ってくれと言って増したよ」


「まじで、私って、罪な女ね」


 


 からかうように、美香は俺たちに話しかけてくる。正直、後から見れば恥ずかしいことこの上ないのだが、一字一句間違いない事実であるからこそ、質が悪かった。


 


 


 


「なぁ、そもそもの話してもいいか。なんでこいつと飯を食う羽目になってるんだ」


 


 もうそろそろ、現実から目をそらすのは限界だった。


 なんと俺たちは一華が行う食事会に招待されたのだ。それも半強制的に。


 


「なぜって、そんなの決まっているでしょ。うちの食費がかつかつだからよ。それ以外の理由がどこにあるっていうのよ」


「いや、その理屈はおかしいよな。もっとこうあるだろ、仲直りのためだとか、一時とはいえ助け合った仲間同士での懇親会とか」


 


 そのあまりにも、いつも通りの宣言に一瞬、俺は美香がとてつもなく大物ではないかと思った。


 しかし、俊樹のあまりにも的外れの発言のせいで、ふと我に返った。


 ああ、こいつ底なしの馬鹿なんだなって。


 


 


「そもそもの話だ。どうしてこんな人間もどきを信じる。こいつのせいで俺はこんな大けがをしたんだぞ」


 


 そもそも、俺はライフル弾の一件を許していなかった。


 いまだ全身から鈍い痛みが走るのだ。忘れることも飲み込むこともできそうにない。


 


「そうね、私が襲われている間、あんたは役立たずだった」


「そういうお前は間抜けだった。貴重な聖水を勘違いで浪費しやがって」


 


 俺たちはお互いに笑顔だった。


 知ってるか、笑顔って元々は威嚇なんだって。


 きっと俺たちが犬だったら、こんな爽やかな笑顔ではなくて、歯をむき出しにし、低い声で唸りあっていたことだろう。


 


「待て、落ち着け。西行お前は助けられたんだぞ。命の恩人に棘があることを今は言うな、美香、お前も相手は怪我人だぞ。挑発すんな」


 


 ヒートアップしていく俺たちを、俊樹が必死で止めに入る。


 元々どこかに引き際はないかと考えていたからこそ、美香に敵愾心はあれど俺は押し黙った。


 


「まぁ、実際問題、私としてもただで助けるというのは癪ですし、少しお手伝いしてほしいことがあるのですが」


 


 何が楽しいのか、人間もどきは笑っている。きっと、俺たちの中違いが楽しいのだろう。


 性格が悪いことで。


 


 


「お前みたいな人間もどきに、貸しなんて作りたくないからな」


「まぁ、一華さんの頼みであれば」


「俺も、あんたは命の恩人だしさ。できることは何でもする」


 


 三者三様の理由を持って、俺たちはこいつのお願いを承諾した。


 三人とも、感情の大小に差こそあれど、こいつに助けられたというのは変えようがない事実だからだ。


 そいつが何かしてくれというならば、協力する。


 


「そうよかった~、実はこの養殖したマンドレイクの効能を見たかったの。


 この見た目のせいでみんな逃げだしてね。


 モル……被検体が欲しかったの~」


 


 知ってるか、笑顔っていうのはもともと威嚇だたんだぜ。


 俺は悟った、こいつ表面上は笑顔だが、内心は未だにぶちぎれていると。


 はらわたが煮えくり返っているからこそ、その中身を俺たちに食わせようとしているのだ。


 


 


 人間もどきは人型と植物の中間をした未知の生物をぶつ切りにしたうえで鍋に放り込む。


 これが薬として使われるのは知っている。


 実際薬として高値で売れるから、採取しに来たし、薬として使われる以上食べることが可能というのは間違いない事実だろう。


 しかし、こんな謎の物体を口の中に実際に入れるのは嫌だった。


 


 


「私は植物の生育が専門だから、詳しくは分からないけど、血液の病、白血病とかの特効薬になるかもしれないって、研究してるみたい。


 安全性の担保ができていないから、まだ非認可なんだけど、裏で、まあ、それをやってるのは内だけど、治療に使われているらしいですよ」


 


 ーーそんな安全性が担保されていないもの、人に食わせるなよ。


 


 正直俺は今すぐにでも逃げ出したかった。しかし、借りを返すなんて、かっこつけた宣言してしまった身だ。いまさら、逃げるに逃げられなかった。


 


 


「あとはそう、自然治癒力の向上にも効果がありまして、軽く切った創程度であれば、マンドレイクを摂取したり皮を張りつければ一日もしないうちに直りますよ」


 


「そう、良かったわ、西行。その怪我すぐに治るってさ」


「お前も逃げるとき怪我したんだろ、一杯食えよ」 


「あの、俺ケガしてませんし、特に食べる必要なんてないよな」


 


「いやいや約束したよな」


「そうそう、一華さんにも、被験者が一人でも多いほうがいいって言ってたし、ね!」


 


 俺たちの心は一つだった。お前一人だけ、この罰ゲームから逃がさないぞと。


 


 


「そうだ、一華さんもマンドレイクの泣き声のせいで気絶してたよな。治癒能力を高める効果があるなら、これを食べるべきだ」


 


 窮地に立たされた俊樹が選んだ答え。それは犠牲者を増やすことだった。


 まぁ、人間もどきが新たな犠牲者になるのは、心が痛まないからいいが。


 というか、今回の元凶こいつだから、責任とれ。


 


 


「確かに、私も、マンドレイクのせいで少なくないダメージを負いました。


 ですが大丈夫、仙豆があるので。


 食べることで、体内の気が活性化し自然治癒力を向上させる、うちのヒット商品。


 純粋な気の働きによる自然治癒能力を向上させる品物だから、どこぞの人面植物とは違い安全性も保障されているしね!」


 


 ーーそんな、便利な商品があるなら、こんな危険物に手を出すなよ。


 


 きっと、俺たち全員の思いはシンクロしていた。


 というよりも、同じ治癒能力があるというのであれば、こんな妖しいものよりも、そっちが欲しいわ。


 


「まぁ、貴重な品物ですが、少しくらいの余裕はあります」


 


 その物欲しそうな視線に気がついた、相も変わらず人間もどきは目ざといようだ。


 


 


「しかし、貴重品、数があるわけでもないですし、何か面白いことをやってくれた人に、これを贈呈します」


 


 まるで、王様みたいなことを言いだした人間もどきに、俺たちは困り果てた。


 面白いことをしろと言われても、いきなりは無理だった。


 


「え~、では、三回回って、ワンといった方にこれをプレゼント~」


 


 あ! これ冗談だな。


 この時になって、俺は真意を悟った。


 こんな高価そうな代物をだ、俺たちに渡す気などさらさらないのだ。


 


 あ~あ、期待して損した。


 だからこそ、誰もそんな馬鹿な真似するわけないだろうと、あきれていたのだが。


 


 ーーすっと、俊樹が立ち上がれば、犬のように三回回り、服従のポーズをとったうえで、「ワン」と吠えた。


 


 


 沈黙、圧倒的な沈黙が場を支配する。


 静寂が支配する空間で、「え! 冗談だったのに、本当にやりますか」


 と気まずそうに人間もどきが本当にやるかぁ~と、嘘偽りのない驚愕を見せた。


 


「その約束は約束ですし」


 


 申し訳なさから、顔を見ることもせずに、そっと、袋に詰まった仙豆を渡したのだった。


 


「ねえ、それ皆でわけない」


「やだよ。これは俺がもらったものだ」


「それはそうよね」


 


 そういって、テヘッと美香が舌を出したところで、ようやく皆が笑った。


 あまりにも気まずくて、無理やり笑ったのはここだけの秘密だ。

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