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「別れるためのデートをしよう」

作者: 若狭綾華

世界で一番大好きだった。

貴方とこの先も歩いていくんだ、と信じて疑わなかった。

でも、愛とか恋とかそんなもの幻想に過ぎなくて。

誰よりもさよならから遠い位置に居た私たちは、

いつの間にか、一歩踏み出せば跡形もなく消えてしまう

先の見えない境界線に片足をかけようとしている。


瑠菜「ねぇ、」

怜央「なに?どうしたの、瑠菜。」

瑠菜「…デートしない?」

怜央「いいよ。え、てかどうしたの。なんか疲れてる?」

瑠菜「あー…そうかも。ぎゅってして。」

怜央「いいよ。思う存分甘えておいで。」


とくん、とくん。心臓がゆっくりと時を刻む。

せっかちなはずの私の時計は、以前のように進まない。

代わりに静かだった彼の時計は、なぜか急いでいる。


瑠菜「どうしたの、緊張してる?」

怜央「え。分かる?なんか今日は緊張する。」

瑠菜「なんでよ。もう1年になるのに。」

怜央「俺もびっくりしてる。」

瑠菜「変なの。」

怜央「今日の瑠菜がいつもより綺麗だからかもしれない。」

瑠菜「そういえば私が遅刻を許すとでも?」

怜央「だめか。でも本心。今日いつもより可愛くて困る。」

瑠菜「ふーん。じゃあ、そのまま困ってて。」

怜央「えー、いやかも。」


終わらないで。このまま、このままずっとあなたの傍に居たい。

でも、だめ。今日こそは終わりにするんだ。貴方を愛しているから。


瑠菜「今日は香水作りに行く、であってる?」

怜央「あってます。楽しみにしてたんだよね。」

瑠菜「私も。」

怜央「じゃあ、行くよ。はい、念願の助手席です。」

瑠菜「ありがとうございます。ガン見するね。」

怜央「えぇ、かわいい。」


左手は、私と繋いでくれているから、

片手はハンドルに貸してあげるの。

もう、決して見れないこの景色を忘れないように

しっかりとシャッターを切る。

瞬きをするたびに増えていく貴方の幸せな顔。

好きな音楽を歌うあなたの音をフィルムに残す。


怜央「飽きないの?ずっと俺ばっか見て。」

瑠菜「飽きないよ。1日眺めていられる。」

怜央「珍しい、飽き性なのに。」

瑠菜「これだけは飽きない魔法がかかってるの。」

怜央「なら思う存分見てください。」


この目は貴方だけを映していたい。

私のフィルムが満たされるのは、たった一瞬。

この先にあるのは、モノクロだ。


怜央「はーい、ついたよ。シートベルト外して。」

瑠菜「ありがとう。」

怜央「どんなのにしよっかな。」

瑠菜「お互い作り合うのもあり。」

怜央「うわ、それめっちゃいい。」

瑠菜「そうする?」

怜央「そうしよう。」


少し甘くて、スパイシー。貴方と私みたい。

そんな香水を作ろうと思った。

忘れたくても、忘れられない。

そんな香りを貴方にのこしたくて。


怜央「できた?」

瑠菜「うん。怜央は?」

怜央「できたよ。今日香水つけてる?」

瑠菜「つけてない。」

怜央「ならつけてみて。」


甘く、優しく包み込む。それでいて少しスパイシー。

そんな香りが私を優しく抱きしめる。


怜央「瑠菜っぽいなって。」

瑠菜「私こんなふうに見えてるんだ。」

怜央「うん。特に最近の瑠菜は手放したくなくなる。」

瑠菜「それはなにより。私のはどう?」

怜央「わぁ…俺これ瑠菜がつけてたら手出す自信ある。」

瑠菜「なにそれ。」


そのあとのディナーでも香る私たちの甘い匂い。

いつもより照れくさそうな貴方に、

終わりたくないと駄々をこねる私が居る。


瑠菜「今日はありがとう。」

怜央「こちらこそ。楽しかった。」

瑠菜「…ねぇ、」

怜央「ん?」

瑠菜「愛してるよ。」

怜央「俺も。だから…。」

瑠菜「もう少し待って、でしょ。」

怜央「うん。ごめんね。」

瑠菜「私もごめんね。」

怜央「え?なんで瑠菜が謝るの。」


あぁ、そんな顔しないで。負けてしまいそう。

最初で最後の貴方とのデート。

たった1日だけど一生ものの想い出。

愛して、恋してたまらない。

貴方は、私の望むものはサンタさんしてくれないでしょう。

わかってるの。期待なんかとうに辞めたのに。

私は、貴方にあげられるものがないから。


瑠菜「私、愛してやまないの。怜央が好きで仕方ない。

   誰よりも幸せにしたいし、傍に居たい。

   でも、私のせいでそんな苦しむ怜央は見たくない。

   だから、」

怜央「瑠菜、寒いから中で話そう。ね?それから…。」

瑠菜「もう、終わりにしよう。今日でおしまい。」

怜央「なんで…。」

瑠菜「幸せに、なってね。メリークリスマス。」

香りは、人の記憶に一番残るもの。

忘れたとしても、その香りと共に記憶のフィルムが流れ出す。

愛してやまないからこそ、曖昧な関係は苦しくなっていく。

いつまでも捕まえてくれないあなたに、私からの小さくとも、

大きな仕返し、です。

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