混乱する軍政
【とんでも】が出てきます。
【とんでも】なので苦情は受け付けません。
日本空襲から数日後、陸軍に対して海軍から申し入れがあった。
1.真空管製造関係者の徴兵免除と動員解除。
2.造船関係者の徴兵免除と動員解除。
3.航空機関係者の徴兵免除と動員解除。
空襲後の混乱の最中、唐突な申し入れだった。ただ、陸軍も海軍が何かしらの新技術かとんでもないものを手に入れたことは情報として知っており、その関係かと思われた。横須賀でアメリカ軍機を撃墜した事実は知られていた。十数機いた爆撃機の内1機だけが横須賀沖で海軍からの対空砲火で撃墜されている。他は全て遁走を許していた。そんなすごい技術ならば、陸軍にも欲しい。何しろ本土防空は陸軍の役目であるが全く機能しなかったのである。機能しなかったというのは語弊があるが、事実は能力不足で役立たずだった。そんな凄い物ならば徴兵と解除の申し入れくらいは受け入れよう。他から徴兵すればいい。
陸軍は関係各所とも相談の上、海軍の申し入れを受け入れた。17年8月15日のことである。関係各所は無駄な徴兵が減るのならと密かに喜んでいた。
防空に関しては海軍も同じように役立たずだったが[ズルツァー]のおかげで陸軍より優位に立てただけである。
この時、陸軍は関係者がどこまでが関係者なのか確認を怠った。真空管製造関係者などたいした人数ではないという思い込みからだった。また、空襲に対応できなかった責任問題を擦り付け合っている現状では、混乱していてまともに対応出来なかったという事情もあったのかもしれない。
しかし、造船は国家の主要産業となるほど裾野が広い。航空機も造船ほどではないが膨大だ。
徴兵免除の産業が公表されると応募が殺到した。慌てる陸軍だが自分から認めたことだけに今更撤回は出来ない。他の産業分野から減る分の徴兵をと思うと、関係省庁からの抵抗が激しい。そんなに徴兵されたら立ち行かなくなると。国民からの反対も強硬なものが有った。
結局陸軍が折れ、徴兵人数が激減した。また、動員解除が有り、それに伴い戦線の拡大はおろか維持も出来なくなっていく。
一部の陸軍軍人が面子が潰れたと騒ぐが誰も相手にする気は無かった。
海軍が申し入れた対象
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徴兵免除及び動員解除要請先産業及び人材
真空管製品製造業従事者全般
真空管部品製造業従事者全般
造船業従事者全般
製鉄製鋼従事者全般
溶接材料業従事者全般(製造と販売)
溶接技術者
鋲打ち技術者
航空機会社従事者全般(製造と運航)
軽合金関連業従事者全般(精錬と加工)
ネジ・ボルト・ナット製造業従事者全般
石油業従事者全般(採掘と精製)
石炭鉱山従事者全般
各種鉱山従事者全般
電力会社(発電と配電に関わる従事者全般)
土木建設業従事者全般
上記に関わる輸送業務従事者全般(陸運・海運・鉄道)
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大湊ではアリューシャン作戦のために停泊している隼鷹に、残されていた対空対水上それぞれ1基のレーダーを取り付ける作業を行った。航空用無線機も5台隊長機に積み込んだ。
研究用に残しておきたかった関係者も多いが、艦隊の見張り能力強化は必要だろうと実戦テストを兼ね搭載する事になった。
伊勢と日向の電探要員が見学に来てあまりの違いに唖然としている。
その能力はアリューシャン作戦で十分に理解された。伊勢と日向の電探も役に立ったのだが能力が違いすぎた。ミッドウェーで惨敗した部隊と違い意気揚々と引き揚げてきたアリューシャン部隊。
そして、予備のレーダーが対空対水上それぞれ1基ずつ横須賀と呉に有ったのに何故ミッドウェー部隊に配備されなかったのかと、海軍内部で大問題となった。
大湊で隼鷹に取り付けできたのに、何故、横須賀と呉で空母へ取り付けが出来なかったのだと。
この騒ぎの後、大きな臨時人事異動があった。艦政部門から闇夜の提灯派一掃を目指したが減らすだけになったのは残念である。
何故なら、呉と横須賀でも装備すべしという関係者と闇夜の提灯と馬鹿にする関係者の間で闇夜の提灯派が勝ち搭載せずとなった。もし搭載されていれば主力空母4隻全滅の事態も避け得たと考えられた。
残されたレーダーだが横須賀の分は修理中の翔鶴に搭載されることが決定された。問題は呉である。大和に搭載すると言い出したのだ。しかし、装備されなかった。装備をするかどうか揉めている最中にズルツァーのレーダーが、研究者が弄りすぎて不調になっていた為だった。だから完調と思われるレーダーは解析用に保存することにした。ズルツァーのレーダーは弄りすぎてしまったがそのおかげでPPIスコープの国産化が可能となった。射撃照準用レーダーも弄りすぎていたが、なんとか国産化できそうな感触である。
結局、翔鶴には搭載するが他艦は国産の二一号を取り付けることとなった。翔鶴に取り付ける予定であった二一号が比叡に取り付けられることとなる。比叡艦長がアリューシャンで電探の有効性を認め、強く要請したためである。
問題は真空管。高品質な真空管が量産化できない。熟練者が手作業でじっくりやればいいものも出来上がるが、数が少ない。何しろガラスチューブからして厚みの均質なものを作ることが難しいのだ。
海軍はその中でもさらに選別品を納品させているので殊更に数が少なくなる。
真空管関係者の動員解除が効果を発揮し安定した品質の真空管が揃ってくるのは18年春頃になる。と言ってもノイズが少なくなって直ぐに焼き切れたり真空が維持されなくなったり割れたりする本数が減ったと言うだけである。それでもかなりの進歩だった。
ズルツァーに搭載されていた物資にダイオードと正体不明の素子が有ったが、ダイオードの1種と考えられるという結果が出た。だが、いまの日本では製造どころか試作さえも困難という結果も出ている。
搭載されていた無線機を解析すると、今の日本では製造不能なレベルの高品質部品が多数使われており複製は困難とされた。ただ配線の引き回しなどかなり参考になり、国産無線機の品質が向上した。17年秋から性能向上した無線機が出回るようになる。既に配備されている各種無線通信機も配線の修正などで性能向上が図られる。
大幅な徴兵免除と動員解除の影響は戦線に重大な影響をもたらしている。人員不足でが戦線が維持できずに縮小したのだ。ビルマ進出を謀った陸軍は、マレー半島と蘭印の維持さえも窮する事態になった。ビルマ進出の後にインド作戦などと言っていられなくなり、海軍と共に要衝シンガポールの維持に努めることとなる。勿論マラッカ海峡インド洋側出口にあるアンダマン諸島とニコバル島であるが占領して半年もせずに撤退している。シンガポールの防備はメダンとペナンに小規模の哨戒部隊を置くことでマラッカ海峡を警戒する事で対応するとした。
蘭印は独立勢力を支援してオランダ軍とオランダに着いた勢力の継線能力を奪うことに注力した。
マレー半島の英軍は駆逐したので、ビルマから侵入してくる小部隊を警戒するだけだった。
それでもシンガポールとマレー半島に蘭印で最低3個師団を必要とし、編成に苦労するのだった。
オーストラリア方面でもラバウルとガビエンに貼り付ける人員にも事欠き、ガダルカナルさえなければ占領したものの本格的に展開して直ぐに撤退という事態となったと思われる。
陸軍は歩兵部隊ではなく航空部隊で対処しようと航空戦力の大拡充に走った。
これは海軍も同様であった。
それもこれも大陸と満州に大勢いすぎたせいだった。大陸に30万、満州に70万の100万という兵力を展開していてそこからも数万人の動員が解除されており、さらに多方面は不可能であった。
部隊では動員解除されていく戦友を羨ましがり、上層部と戦争への不平不満が渦巻いて兵隊の士気が著しく低下している。
結局大陸ではこれ以上戦線を押し上げることなく現状維持か後退。満州では南方への兵力抽出で減った分を補充されないので兵数減少による戦力低下を機材の増加と能力向上で相殺することとなる。
士気の維持には嗜好品の支給を増やしたり休暇を増やしたり糧食を工夫したりし始めた。
なお、この事態に陸軍省と参謀本部で刃傷沙汰が有ったという噂があるが関係者は口をつぐんでいる。同時期、脳卒中や動脈瘤破裂や心臓麻痺で急死した将校が6名いたと記録に有る。
昭和18年2月26日の事である。
大本営はかかる事態に戦線拡大は不可能であるとし、トラック島・シンガポールと本土を結ぶ3角形を絶対圏として維持すべく守勢に回ることを消極的ながら認めた。
この方針転換によりガダルカナル島撤収が決まり、航路警備と船団護衛用として海防艦の大量建造が立案される。
とある好戦的で自己の栄達しか考えない参謀と事態を重く見ている将官の会話。
「大陸の作戦は何故中止となったのですか」
「人がおらんからだ」
「赤紙出せば良いだけでしょう」
「貴公は何を言っておるのかね」
「兵が足りなければ徴兵するだけと言っておるのです」
「徴兵免除と動員解除を知らんわけでは無いだろう」
「勿論知っております。ですから、それ以外の分野から徴兵をすれば良いのです。1銭5厘で済みます」
「その結果は判るのだろうね」
「勿論です。大陸作戦の成功です」
「はぁ~」
「なんですか」
「そんなことは上層部でとっくに検討済みだ。結果日本経済がめちゃくちゃになると分析された。特に食料生産が長期に渡って酷く低下する。10年単位でだ」
「大陸で徴発すれば食料はあります」
「君はバカかね。現地の人間を今以上敵にしてどうするのだ」
「占領して言うことを聞かせます」
「ますます愚かだな。貴公らが勝手をするためにどれほど占領地の慰撫に悩んでいるのかも知らんのか」
広範囲な徴兵免除と動員解除。とんでも設定でござる。
トランジスタですけどね。戦前の日本ではまともに試作もできないでしょう。
戦前の電線ですが、一部では紙で巻いただけだったというネタだろう事になっていますがゴム被覆は普通でした。絶縁体として絹・綿・紙を使ったのが何故かゴムという素材を使っていなかった事に。
明治でゴム被覆電線国産化。大正時代には海底ケーブルを国産化しているのにね。
現代でも絹・綿・紙を絶縁材に使った電線がありますよね。
絹巻リッツ線とかそそられます。
さて、比叡に二一号を装備してしまいました。あそこでどうなるんでしょうね。
>戦線の拡大はおろか維持も出来なくなっていく。
これ大事です。