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クリスマスプレゼント

季節外れですが、物語世界では頃合いです。

 昭和16年も終わろうとする12月24日深夜。

 大湊周辺は濃い霧に包まれていた。




    メリ~クリスマ~~~ス!

    よい子では無いかもしれないが、これをプレゼントしよう。




「「「「「「は?」」」」」」


 聞こえた人間は多かったという。




 翌朝、25日朝。霧は晴れたが風雪吹きすさぶ大湊軍港沖に1隻の船が有った。見た目でわかるように日本海軍以外の軍艦だった。大騒ぎである。濃霧とはいえこんな湾内深くに入り込まれた。

 発光信号で問い合わせるが返答は無し。双眼鏡で見ても艦橋や船体外部に人気が無い。しかも、機関が動いていれば煙突から見えるはずの排気が見えない。漂っているだけらしく潮と風で方向が変わる。危険として曳船を出し船体をどこかに運ぶこととなった。同時に三十人編成の陸戦隊を出し艦内を捜索制圧するとした。指揮官は少尉といいたいが大尉にした。


 大きさは2500トン前後の大型駆逐艦と思われた。アンテナが多い。艦橋周辺だけでは無く甲板にも林立している。砲塔には円盤のような金属製のものが着いている。近づくと外周に配置されているワイヤーが目立つ。いろいろな太さで船体を一周している。

 遭難状態だといけないので、船体各部をハンマーで叩く。

 反応が無いので陸戦隊隊長である大尉が意を決して乗船を命じた。


 甲板に上がりくまなく捜索するが、これといった異常は認められない。普通の駆逐艦と思われるが、そこら中に英語で(高電圧触るな)(高電圧注意)(高電圧危険)(衝撃注意)との注意書きが貼られ看板も多く普通の駆逐艦では無いと思われた。さらに、防水扉には封印がしてある。


 どう考えても厄物だ。全員がそう思った。


「総員、防毒マスクと手袋装着」


 艦内突入準備である。内部に毒ガスが溜まっている可能性もある。触ると拙い毒物もあるかもしれない。

 海上の船と岸壁に「これより突入」と報告する。


 その頃地上ではジェーン海軍年鑑と首っ引きで艦型を調べているが該当する艦が無い。

 海上では周囲を点検するが、ワイヤーの用途がわからない。そのうち、誰かが「舷外電路ではないか」と言い出した。

 だが、こんなに何本も設置しないだろう。1本で十分なはずだ。それでも「舷側のワイヤーは舷外電路の可能性あり」と岸壁の臨時警戒本部に知らせる。風雪吹きすさぶ中、天幕は寒そうだ。

 英語で(高電圧触るな)(高電圧注意)(高電圧危険)の注意書きもあるしな。


 艦内に突入準備を終えた陸戦隊は小銃を構えた援護態勢で二等水兵という名の下っ端に防水扉を開けさせた。封印を緊張した手で切断する。代わってくれないかと後ろを向くがやれと目で言われる。覚悟を決めてハンドルに手を掛け回した。意外に軽く回りロックが解除される。行きますとばかりに後ろを振り向く。やはり替わってもらえない。

 防水扉を開けた。


 何も出てこない。恐る恐る内部を見ると色つきのガスも無い。ただ灯りは消えており暗い。

 懐中電灯を手に侵入ししようとした。


「待て」


 隊長の声だ。同時にガスマスク越しでよく聞こえないので大きく手で合図をしている。


「銃剣用意。着剣。内部に何があるかわからん。敵性のものがいないとも限らんから、五人一組で班を作り捜索活動に当たる。士官下士官は拳銃用意。中尉、組み分けを頼む。必ず士官下士官が指揮を執る班分けだ。ひと班は甲板待機に充てる」


 

 次席指揮官である中尉が先任曹長と共に組み分けをした。

 そして内部捜索に艦内へ入る。隊長である俺の班は艦橋へ向かう。

 艦内では誰もいないことに不安が募ってくる。まだ死体でもあればと思うが誰ひとりいない。艦橋には外と同じように英語で(触るな)という札がそこら中にある。海図台には海図があるが、これは… 

 船内を捜索していた班から俺に来て欲しいと伝令が来た。伝令の顔はよくわからない。が、声が震えている。班の奴に「現状維持、何にも触るな」と指示を出し伝令の後に続く。

 行くと、水密扉を開けて呆然としている兵達がいた。臭いな。腐臭がする。毒ガスか?いや、それならこいつらも逃げ出しているはず。なんだ?

 ガスマスク越しでよく聞こえないが船室内を指さしている。見ろということか。


 うぉ…これは。


 男がひとり船室内で倒れていた。死んでから相当経っているのだろう。腐乱している。臭いのはこれか。

 兵がひとり逃げ出した。後で厳罰だな。俺もむかついてきている。

 全員、上甲板と指示を出す。


 上甲板でガスマスクを脱ぐ。そして、吐いた。先ほどの兵はとっくに吐いていた。厳罰は無しにしてやる。マスクの中に吐くと管理方がうるさいからな。

 何かで隔離された可能性もあるのか。これは防疫班を呼ばないと。



 クリスマスプレゼントは軍内で大騒ぎになっていく。


 

 1週間後、ようやく防疫騒ぎも終わり本格的な調査に入る。

 防疫上は死体のあった兵員室と下士官室以外は問題なく、死体のあった船室も消毒されて綺麗になった。腐乱死体を運び出す際にちょっとゲロがぶちまけられただけである。

 都合4名の死体があった。死因は餓死と推定された。死体が着ていたのは囚人服であり、逃亡防止にいずれも通路側から水密扉をロックされており脱出は出来なかったのだろう。水密扉には10ミリ程度の空気穴が多数開けられており、酸欠にはならなかったようだ。残された包装材などから水食料が2週間分は有ったことがわかった。船室内に仮設トイレと換気扇も有ったことから何らかの実験に参加させられた結果になると思われた。

 残された手記というか報告書にもそのようなことが書いてあった。最後は恨み辛みであったが。南無…

 

 艦は艦内にあった銘板や書類から、アメリカ()()()海軍の駆逐艦ズルツァーだとはわかった。

 排水量は満載で3936トンとなっている。調理室の計量カップなどからほぼ同じ単位だと思われた。

 地球にはアメリカ共和国などという国は無いし、ズルツァーという名の駆逐艦も無い。

 つまりどこの国の艦でもない。有り難く接収することにした。


 残された書類や死者の書いた(畜生、あの戦争から生き残ったのに、今度はこれかよ。クソッタレ)記録からこの艦は就役後11年経っており、戦争終結後不要になったので無線電波関連の実験に供されたことが推測された。

 実験は電波ステルス化(電波反射無効化)だった。レーダーに映らないようにする実験らしい。舷外電路は消磁を目的としているが、さらに強力にすることで電波を吸収?打ち消してしまう?可能性を考えたらしい。実験場所はフィラデルフィア海軍工廠沖となっていた。

 艦内各所には(触るな)(関係者以外開封厳禁)等と書かれた木箱や鉄製容器が多数有る。通信機は無線・有線が各種揃えられており、艦の通信室以外にも多数設置されていた。おそらく実験による通信機等の電子機器への影響を調べるためだろう。

 艦内各所に有る木箱や鉄製容器に中には真空管やコンデンサの他、ダイオードと正体不明の素子が有る。他にも、弾薬庫には徹甲弾と榴弾等各種砲弾20発ずつの他に、信管各種が置いてあり電池と真空管の付いた信管もある。用途不明である。魚雷用と思われる磁気信管もあり非常に興味深い。

 艦外には発射管と、鉄の枠を束ねたような物の中に変な形状の弾薬とみられるものが装填されている物が有る。艦外にあるということは兵器であろう。対艦兵器とは考えづらく対空兵器か対潜兵器であろう。

 信管は注意深い。呉と横須賀に送られることになった。勿論大湊にも残しておく。

 電波関係は軍の技術者だけでは解析できずに大学や企業の他、民間研究機関からも呼んだ。

 

 驚くべく技術の塊で有ることが次第に明らかになっていく。解析に参加した全員が今の日本では再現不能とまで言った。

 しかし、この一言が。余計なことを言う奴はいるもんだ。


「能力を落とせばなんとか…なるかもしれないかな?」


 そこから


「全部やれといってくるだろうが、全部は不可能だぞ」

「真空管が相当落ちる物しか使えないが」

「配線の質が良すぎる」


 等々。


 結局、作動させ実際の性能を確認することになった。17年1月下旬の事だった。問題は大湊が豪雪地帯であり天候の良い日が少ないということだ。

 作動試験は無事に終わった。全てが信じられない性能だった。大雪の中でも安定して動作した。ソナーもどこに潜水艦がいるのかよくわかる。

 横須賀から早く艦を廻せとうるさいが大湊で試験運転中として時間を稼ぐ。横須賀で秘匿されたらたまらないという思いがある。暖かいところでぬくぬくしやがってという思いが無かったわけではないと思う。それでも機材は幾つか追加で持ち去られた。

 実戦投入して性能を確認したいが、性能が良くてもこの艦が日本海軍に編入されてはいない。第一、実戦に出すには貴重すぎる。

 そこで注目されたのが、占守級海防艦であった。津軽海峡警備に国後と八丈が大湊にいる。幸い機材は複数積まれていた。予備の真空管も大量に残っている。取り付けて実働試験をする事となった。

 問題は占守級では発電容量が足りず電力不足だった。高性能ゆえか消費電力が大きいのだ。ディーゼル発電機を甲板上に臨時で設置しまかなうことに。

 搭載されたのは対水上レーダーと対空レーダーの2機種。主砲射撃照準レーダーは主砲のシステムに組み込まれておりレーダーのみ取り外すのは無意味だった。ボフォース40ミリ機関砲の射撃照準レーダーは外せたが、ボフォース40ミリ機関砲を設置できる場所がない。

 二つのレーダーは特に異常なく動作した。


 2月中旬、降ろす物を降ろしたズルツァーは横須賀に回航された。

 大湊で確保したのは対水上レーダー1組と対空レーダー1組。ボフォース40ミリ機関砲射撃照準レーダー付き1組。予備部品は対応する数。他は全部持って行かれた。大湊では活用できないので仕方がないが横須賀で独り占めしないか心配だ。



 横須賀では呉と舞鶴に佐世保の技官を呼び寄せ徹底的に調査を行った。ここでも日本で再現は不可能という答えが出る。

 何しろ残された最後の日付がAD1956.06.02なのだ。別世界らしいとはいえほぼ同じ程度の歴史と考えるなら、15年先の未来技術だ。皆興奮が止まらない。よく大湊は壊さなかったものだとも思う。


 ズルツァーを解析中の4月。信じられないことに横須賀が空襲された。ズルツァーも停泊していたが機関は運転中であり、全ての武装が使用可能だった。艦長は独断で残されていた対空砲弾各砲10発の内5発を発射させた。レーダーで管制された照準装置は目標を追尾し照準。ついに撃墜。

 日本海軍がレーダー管制射撃照準装置と近接信管の威力を知った日になった。

 


*******************************

ズルツァー      出現時

排水量        2760トン

 満載時       3936トン 

機関

 2缶2基2軸    68000馬力

速力         34ノット

航続距離       16ノット/6000海里

兵装         Mk.38 5インチ両用砲 連装3基

           Mk.15 40ミリ4連装機関砲 2基

           Mk.14 40ミリ連装機関砲 2基

           Mk.19 20ミリ4連装機関砲 4基

           Mk.18 20ミリ単装機関砲 8基

           Mk.56 53センチ5連装魚雷発射管 1基 

           Mk.3  ヘッジホッグ 1基

                 弾数10回分

           爆雷投下軌条 2基

           爆雷投射器 6基(K砲)

                 爆雷120発

電探         SJ2   対水上レーダー 1基  

           SG4   対空レーダー 1基

           Mk.18 射撃管制レーダー 1基

           Mk.33 Mk.15用射撃管制レーダー 2基

水中装備       SQ.26 パッシブソナー 1基

           SQ.31 アクティブソナー 1基   

方位盤        Mk.39 方位盤

射撃指揮装置     Mk.41 射撃管制装置

乗員         368名 

次話投稿 02月02日 05:00です。

3話が  02月03日 05:00です。

4話は  02月04日 05:00です。

最終5話 02月05日 05:00です。


ようやく占守級海防艦登場。

開発費無しの最新レーダーと近接信管。ウハウハですな。

それが実現可能かは知らないけれど。

砲弾は試験で半分を撃ってしまいました。


フィラデルフィアの綴りはPhiladelphiaです。ヘボン式や、かな漢字変換になれた日本人だとFだと思うけどPなんですね。

もちろん、元ネタはフィラデルフィア・エクスペリメントで。

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