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《ラグナロク・リビルド》〜黒歴史から始まる黙示の物語〜  作者: ライオンの書
壱章 黒伶騎士(クロレキシ)の爆誕
19/19

19.【禁断の果実】


■6.神の仕事

モクモクは、軽く手のひらを合わせた。

――パンッ。

乾いた音が空間に響き、ホログラムが消えていく。


「さて――次は、 “神の仕事”について話しておこうか」


モクモクは三本の指を立てる。


「神々の仕事は、大きく分けて三つある。

 一つ目は、 “観測かんそく” 。

 二つ目は、 “干渉かんしょう” 。

 そして最後が―― “禁断の果実”を探すことだ」


「……いきなりラスボスワード出すなよ!?」


思わず反射的にツッコミが出た。

“禁断の果実”とか聞くと、どうしてもエデンとか人類滅亡とか、そっちのイメージになる。


モクモクは気にも留めず、平然と続ける。


「まず“観測”は、世界を見守ること。

 人間の行動、文明の成長、魂の流れ、祈りの行方――

 それらを“記録”し、 “理解”する。それが僕たちの基本的な仕事だよ」


彼が指を鳴らすと、背後に無数の光の線が浮かび上がった。

それは星々の軌跡のようであり、都市のネットワークにも見えた。


「うわ……Google Earthの神モードじゃん」


「まあ近いね。ただ、これは“魂”の位置情報もリアルタイムで見られるよ」


「いや、それ監視社会どころの話じゃねぇ!?」


モクモクは笑い、次の指を折る。

「次に、 “干渉”。

 これは世界に直接手を伸ばす行為――“奇跡”を起こすことだ。

 祈りに応えたり、勇者を導いたり、時には神罰を下したりもする」


「神罰サラッと言うな!」


「そういう時もあるさ。

 でも、神が世界に干渉するというのは、同時に“理”を歪めることでもあるんだ」


「理を……歪める?」


「そう。

 一人を救えば、別の誰かの運命が変わる。

 一国を導けば、他の国が滅ぶかもしれない。

 “奇跡”の裏には、必ず“代償”がある。

 だから僕たちは常に“均衡”を見ながら動く。――それが神の責任だ」


その声には、何千年もの後悔を飲み込んだような重みがあった。

俺は思わずつぶやく。


「…… “正義の奇跡”ってやつは、誰かにとっての“悲劇”でもあるのか」


「うん。君はいいところに気づいたね」


モクモクは少し寂しげに微笑んだ。


「……で、 “禁断の果実”ってのは、その均衡の先にあるものなのか?」


「そうだね。 “禁断の果実”――僕たちはそれを、 “黄金の林檎(アウルム・マルム)”と呼んでいる」


「おお……名前だけは完全に神話っぽいな。

 で、それを食べると“不老不死”になったり、知恵がついたりする感じ?」


「うん、そういう伝承もあるね。けれど、あれはちょっと違う。

 本当の“黄金の林檎”は――“世界そのものを再起動させる種”なんだ」


「……再起動? リブートボタン的な?」


モクモクは静かに笑う。

「近いね。ただ、食べるというより“選ばれる”んだ。

 世界が限界を迎え、理が腐り、祈りが枯れたとき――

 “林檎”はひとりの神、あるいは人間を選び、再創世を命じる」


「選ばれた者が、新しい世界を創る……ってことか?」


「そう。だけど、問題が生じるんだ」


モクモクの声が少しだけ低くなる。


「それは、世界を創るということは、全ての世界を“終わらせる”ということでもある。

 有祐は、 “リセット”と“救済”の違いを考えたことがあるかい?」


「……うわ、いきなり哲学チックな質問きたな。

 でも、リセットって“なかったことにする”だろ? 救済は…… “報われること”だ」


「そう。けれど神の視点では、どちらも同じ意味を持つ。

 “全てをやり直すことで、全てを救う”――

 それが、僕たちが追い続けている“禁断の果実”なんだ」


「……え、ちょっと待って。

 その理屈だと、神様たちって、 “救うために世界ごと壊す”ってこと?」


モクモクは目を細め、ほんの少しだけ悲しげに笑った。


「有祐、勘がいいね。

 そう、神々の間でもそれは意見が分かれてる。

 “救うために終わらせるべき”派、 “終わらせずに導くべき”派とか。

 僕は、その中でも“観測を続ける派”なんだ」


「観測を……続ける?」


「うん。誰かがその果実を見つけ、齧るその瞬間まで、世界のすべてを観測し続ける。

 その“記録”こそが、次の創世の礎になるからね」


「……なんか怖いな。

 つまりお前らって、 “世界の記録係”でもあり、 “終末の証人”でもあるってことか」


「うん、まさにそうだよ」

モクモクは軽く笑ってみせたが、その瞳の奥はどこか遠くを見ていた。

まるで、何度も“終わり”を見てきた者の目だった。


「そして――」

モクモクは少し間を置いてから、こちらを見据えた。


「その“果実”が、今、世界に落ちかけている」


「……は?」


「ふふ。それが、君が書いた“あのノートの世界”こそ、”禁断の果実”の落下地点に最も近い場所なんだ」





「うそん」





俺の――黒歴史ノートの世界が、 “禁断の果実”の落下地点に最も近い世界?


「……おい、マジで言ってんのか?

 あれ、中二病の権化みたいな妄想ノートだぞ!?

 “闇堕ちした英雄”とか、 “神殺しの詩”とか、 “光と闇のハイブリッド学園”とか……あんなの、神話っていうより“黒歴史の博覧会”だろ!」


「フフ、そう思うよね。でも――それがまさに理由なんだ」


モクモクの瞳が、淡い金色に輝いた。

その目はまるで、 “真理”の奥底を覗き込むようだった。


「有祐。

 “創造”って、どこから生まれると思う?」


「え? ……いや、想像力とか、感性とか、そういうのじゃね?」


「半分正解。

 でも、もう半分は――“痛み”からだよ」


「痛み?」


モクモクは頷いた。

その声音は穏やかだが、どこか重みがあった。


「君があのノートに書いた“黒歴史”――

 それは、君の中にあった“どうしようもない現実”を、物語という形で再構築した記録なんだ。

 現実で届かなかった想い。叶わなかった夢。

 怒り、孤独、嫉妬、憧れ……。

 君はそれらを、物語の中で“救おう”とした。

 その痕跡が、すべてあのノートに刻まれている」


モクモクの言葉が、静かに胸を刺す。

痛いほど、図星だった。


「……だから、 “禁断の果実”に近い?」


「うん。 “禁断の果実”とは、 “世界を再構築しようとする意志”の結晶なんだ。

 遊び心で始めた世界を神々が何度も創り直したのは、結局は“救いたい誰か”がいたからだ。

 ――有祐くん。君のノートは、それと同じ構造をしている。

 神が抱く“救済の物語”と、まったく同じなんだ」


「……いや、待て。

 それつまり、俺、中二病ノートで“神と同じこと”してたってこと!?」


「うん。無自覚の神行為だね」


「どんな中二設定だよそれ!!」


モクモクはクスクスと笑いながら、掌に光を集めた。

淡い粒子が集まり、形を成していく――。


現れたのは、一冊の古びたノート。


俺の、 “黒歴史ノート”だった。


表紙の端が焦げ、裏には「※絶対に読むな!!」と中学生の丸文字で書いてある。

……見るだけで痛い。


「や、やめろぉぉ! 俺の思春期の亡霊を召喚するな!!」


「これはもう、君だけのノートじゃないよ」


モクモクは、そのノートをそっと撫でた。

すると、ページがふわりと開き、光が零れ落ちる。


その中に、俺の描いたオリキャラたちがいた。

“闇を抱いた勇者”、

“翼をもがれた天使”、

“神を裏切った弟”――。


恥ずかしいほど、痛い。

けれど、どこか懐かしくて、目が離せなかった。


「彼らは、君の中に眠る“理想”と“後悔”の象徴なんだ」


「……理想と、後悔?」


「そう。

 君は彼らを通して、 “もしもこうできたら”という願いを描いた。

 でも同時に、 “できなかった自分”もそこに刻んでいる。

 つまり、あのノートは、 “創造と懺悔の書”なんだよ」


胸の奥がズキンと痛んだ。

確かに――あの頃、俺は現実が嫌で。

壊したくて。でも、何もできなくて。

だからこそ、物語を“創ることで逃げた”んだ。


でも、あれは逃避じゃなくて――祈りだったのかもしれない。


「そして――」


モクモクは、光るノートを静かに閉じた。


「 “創造”と“懺悔”が交わるその場所に、 “黄金の林檎”は現れる。

 人間の想像力と後悔の総量が、神の理を超えたとき――

 “再創世”の引き金が引かれるんだ」


「……つまり、俺のノートの世界が、その“引き金”になりかけてるってことか?」


「そういうこと」


喉が、カラカラに乾いた。

笑い飛ばしたいのに、笑えなかった。


「それで……俺を黒歴史ノートの世界に転生させた理由は?」


モクモクは少しだけ目を伏せ、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。


「……実はね」


「うん?」


「僕たちはシュミレーションしたんだ。

 “有祐を黒歴史ノートの世界に転生させたら、どうなるか”を」


「お、おう……?」


「結果ね――





























 高確率で、 “禁断の果実”が君の目の前に落ちてくることが分かった」




















「うそん」


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