13.新たな日常と邪念
受験勉強に集中していて、小説が書けませんでした。
ごめんなさい! ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
朝7時。とある家の二階、薄暗い部屋に響くのは昭和のおっさん口調の声。
『ピコン。朝7時だぞ。早く起きろ、馬鹿たれが!! 朝7時だぞ。早く――』
重苦しい布団の中から、空八は片手を伸ばし、スマホを手に取ってアラームを切る。
妙にクセのあるアラーム音を選んだのは、俺の趣味だ。
「うるせえ……」
朝からオッサンの声は不愉快極まりないが。
空八はぼやきながら、アラームのしつこい声を止めた。
枕元に放り投げたスマホを見て、ようやく目が覚めてくる。
思い出すのは、昨夜の疲労感だ。配信が終わってから帰宅し、風呂に入り、ようやく布団に潜り込んだのが深夜2時。それでも、スムーズに初配信を終えたことに、少しだけ達成感を感じていた。
「ふぁー…………ネム」
まだ寝ていたい気持ちを押し殺し、空八はのっそりと布団から抜け出す。
体は重いが、起きなければいけないことは分かっている。妹のご飯を作るためだ。
仕方ない、そう思いながら、ぼんやりとした頭で部屋を出て、階段を降りる。
キッチンに入ると、妹の亜友がすでに朝食を作っていた。制服の上にエプロンをつけ、真剣な表情で作業している。
……この匂い、カレーか?
「あ、おはよう、お兄ちゃん」
亜友が振り返り、にっこりと笑う。
「おはよう。何してるの?」
「カレーパンを作ってるの!」
元気よく答える亜友の声に、空八は思わず眉をひそめる。
「………お前、料理できたっけ?」
亜友の学業成績は抜群で、家庭科以外はオール5。
………で、その家庭科の成績が問題だった。
特に調理実習でのエピソードは忘れられない。
亜友が作ったリンゴジャムは、何故か腐った卵のような匂いを放ち、クラス中が騒然となった。そして、そのジャムはしっかりと家に持ち帰られ、家族全員を一瞬黙らせたのだ。
「む! 私だって料理できるもん!」
亜友がふくれっ面で反論するが、空八はその言葉に不安を覚える。とはいえ、これ以上突っ込むのも無粋かと思い、冷蔵庫から食材を取り出すことにした。
「ごめんごめん。じゃあ、俺は弁当を作るよ」
「ん。お願いね」
亜友の返事を背に受け、空八は人参を手に取って包丁を握る。
切り始めた瞬間、ふと昨夜のことが頭をよぎった。妹に黙って家を出て、配信を始めたのだ。『家族にバレないように』とモクモクに念を押されたからこそ、慎重に行動した。だが、そんな秘密を抱えながらも、俺の心はまだ軽かった。
……あれ?
「なんか、腐った卵の匂いがしないか?」
鼻をひくつかせる空八に、亜友はやや慌てた表情で返す。
「………き、気のせいじゃない?」
「そうだよな……って、どうした亜友?」
妹は明らかに視線を逸らしている。動揺がそのまま表情に現れているのは、一目瞭然だった。
これは、もしかして――
「どれどれ? 亜友さん、料理は順調ですかね?」
「ちょ、見ないで! 変態!」
「え? へ、変態だと……」
空八はその言葉に動揺し、唖然とした顔で妹を見る。まさか、自分が妹にそんな風に思われていたなんて……。
「っく! 顔が濡れて、力が出ない〜!」
「どこのアンパンヒーローよ! 顔は濡れてないでしょ!」
ちなみに、その後確認したところ、亜友が作ったカレーパンは見事に腐った卵のような匂いを放っていた。
もちろん、食べるまでもなくゴミ箱行きとなり、彼女はもう一度作り直す羽目に。
亜友は「心が傷ついて、力が出ない〜!」と再び愚痴をこぼしていたが、空八は静かに朝の支度を進めた。
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自分の教室である2-1の扉を開けると、既に半数近くの生徒が席に着いており、それぞれ友人たちと楽しげに会話を交わしていた。
教室は朝の柔らかな光に包まれ、日常の平和な空気が流れている。
俺は誰とも目を合わせず、挨拶も交わさずに、窓際の端の席に静かに腰を下ろした。
そして、いつものようにスマホを取り出し、無意味に画面を眺める。
まぁ、誰かと話すことなんて、この世界ではあり得なかったからな。
だって俺、いじめられっ子だし。
「なぁ、昨日の彩さんの配信見たか? 黒騎士の人、マジで強すぎだろ!?」
「アレだろ、ユニークモンスターを1人で倒したやつ。普通無理だよな」
教室の賑やかな会話が耳に入る。黒騎士――それって多分、俺のことだよな?
「私、黒騎士と付き合いたいわ〜♡」
「助けてもらって、お姫様抱っこされたいよね〜」
「「「分かる分かる〜」」」
「そういえば彩様が、黒騎士のことを探してるらしいよ。【戦神の鐘】に引き入れるためだってさ」
「え、マジで?」 「そうらしい。いいな〜、私も【戦神の鐘】に入りたい!」
【戦神の鐘】だと?
まさか……主人公が作ったギルドか?
【戦神の鐘】は『My Ragnarok』にも登場する。主人公「阿無田 能」が立ち上げた組織の名前だ。
これは【魔神帝セブン】の復活を目論む【旧館信教会】を壊滅させるために、主人公たちが結成した組織。
彼らは教会の邪悪な計画を次々と潰していったが、最終的には魔神帝が復活し、主人公は命を懸けた戦いで相打ちとなる。
だが、教会は完全に壊滅せず、残された仲間たちはその後も戦い続ける――そんなバッドエンドだ。
なんでバッドエンドにしたのかというと、ハッピーエンドよりも、なんだか現実味があるからである。
そういえば、記憶が戻る前にもニュースで【戦神の鐘】や【旧館信教会】のテロが話題になっていたな。教会って、まだ壊滅していないのか。
「あ、黒! 昨日の配信見たぞ」
後ろのドアが開き、クラスメイトの一人が黒に声をかける。黒は、教室に入ると軽く手を上げた。
「ようやく、Aランクになったらしいな! おめでとう!」
どうやら黒は、ゲーム内でAランクに昇格したらしい。周りの生徒たちも祝福の声を上げている。
「ありがとう。これも、仲間のおかげさ」
「そういえば、配信に奴隷がいなかったけど?」
「え? あぁアイツ? 追放した」
「やっぱり! 良かったな! お荷物が無くなって」
その瞬間、教室の空気が少し変わった。男子は俺をちらりと見て、わざと聞こえるような声で話している。彼の視線とともに、周囲の生徒たちも俺に視線を向けて、軽くニヤついている。
(はぁ……いつもの俺なら、俯いて黙っていただろうな)
でも、今の俺は違う。俺は、Aランクどころじゃない――もっと強くなっているんだ。
「おい、奴隷! お前、追放されたんだってな!」
「え! マジかよ!?」
「まぁ、奴隷だし、しょうがねえよな」
クラスメイトたちは嘲笑を交えた言葉を投げかけてくる。周囲の視線が痛い。でも、今の俺はそれに怯えない。
(どうしようか、コイツら。いっそのこと……)
無意識に拳を握りしめていた。自分でも驚くほど強く、体中に力がみなぎる感覚があった。
……が、俺はすぐにその拳を緩めた。
(何考えてんだよ、俺)
邪念が頭をよぎったが、すぐにその考えを振り払う。暴力なんかじゃ何も解決しない。そういう手段を使うのは、俺が本当に望んでいることじゃない。
(確かに見返したい気持ちはある。でも、暴力で解決するのは違うよな)
俺は深く息を吐き、気持ちを落ち着けた。
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「はぁ〜、疲れた」
俺は自室のベットに飛び込んだ。
まだ、妹は帰ってきていない。
「学校嫌だ………」
俺、一人で弁当食ってるんだよ。
前世では友達と一緒に食べてたのに………寂しい。
この世界、差別意識高すぎだろ。
――ピロン
突然、ポケットの中にあったGスマホが震えた。
「……マジか」
Gスマホを覗き込と、やはり配信の内容が書いてあった。
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配信者 :満永空八
配信を撮り始める場所:「ケンケン山」にある「ケンケン神社」の近く。
配信を撮り始める時間:今日の20時
配信が終わる時間 :21時30分
配信タイトル :神の使徒、弟子ができる
内容 :「ダンジョンゲート」から出てきたゴブリンからEランクパーティー【青炎の籠】を
助ける。そして、彼らを強くする。
起こる場所 :「ケンケン神社」の近く
起きる時間 :今日の20時20分
台本 :戦闘時、【青炎の籠】に話しかける時は、中二っぽいセリフを言ってください。
名台詞を考えてください。
配信の注意 :視聴者や【青炎の籠】がバレないように。
*配信の告知を今日の18時30分にしました。
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