11.空八視点
(あ、危ねえええええええええええええええええ!!)
巨大なモンスターの攻撃から彩さんを守るため、俺は【神ノ手】を使って彼女を瞬時に移動させた。間一髪だった。0.5秒遅れてたら、彩さんは確実に死んでいた。
あ、【神ノ手】ってオーディンさんの権能の劣化版だよ。
《王狩章典》
【戦争と死の神 オーディン】の権能の劣化版。
【神ノ手】という技が使える。
全属性の上位攻撃魔導スキルを無条件で獲得可能。
《糧の天秤》で1000レベルを代償にすると、真の権能となる。
【神ノ手(劣化版)】
遠くの物を念力のように動かすことができるが、重いものほど動かしにくい。
オーディンさんの力、やっぱりパネェっす。念力を手に入れるとか、ヤバいわ。
え? どうして彩さんを直接運ばなかったかって?
答えは一つ。
俺には女性への耐性が無い。
だから、女性に触れない。
陰キャだからね。
「ウガァァァアアアアアア!!」
おっと、ブラウニーがこっちに―――向かってきてる!
ヤバいヤバい、どうしたらいい!?
俺のステータスはゴミ同然なんだぞ!
逃げるか?
いや、それだとGスマホに「逃げた」と判断されて俺は死ぬ!
ピロン――
【軍神の力を使ってください】
おお、Gスマホよ、ありがとう!
助言してくれるなら、せめて「逃げる」選択肢を与えてくれ!
「あなたも逃げて!」
彩さんがダンジョンの出口に向かって逃げようとしている。
俺はそこで待ったをかけた。
「動くな、少女」
(ごめん、彩さん! 俺、君を助けるために戦わないと死んじゃうんだ!)
*詳細はGスマホの説明を参照してね。
そして、中二病らしいセリフを忘れない。
「我の戦場に足を踏み入れたなら、その命、守ってやろう」
ん? 彩さんの周りに何か飛んでる……あれってDカメラか?
その近くに半透明のウィンドウが浮かんでいる。コメント欄か?
”は? 何言ってるの?”
”Sランクだぞ!”
”彩、そんな中二っぽい男はほっとけ”
”逃げろ!”
”ありがとうヒーロー”
”犠牲者だろwww”
”俺たちの彩さんを殺すつもりか!?”
”心中かよ!”
(……俺、死にたくなった)
彩さんじゃなくて、Dカメラに注目する視聴者たちを無視し、俺はブラウニーに向き合った。
《神算戦艦》
【軍神 アレス】の権能の劣化版。
この権能を持つ者は【軍神ノ武術】を常時使用可能。
全ての上位武術スキルを無条件で獲得できる。
《糧の天秤》で800レベルを代償にすると、真の権能になる。
「――力を貸してくれ【神算戦艦】」
(心の声:助けてえええええええええ!!)
ブラウニーの大剣が振り下ろされる――
(ん?)
おかしい。剣の動きが遅い。まるでスローモーションみたいだ。
俺はその大剣を素手で受け流した。
いや、受け流すってどういうことだよ!? 自分でも分からないが、次にどう動けばいいのかが手に取るように分かる。
(これが「神」の力か……Sランクのモンスターに、こんな余裕でついていけるなんて)
「大したことないな」
俺は呟いた。
「ウガァア!?」
ブラウニーが驚いて剣を振り下ろすが、俺は冷静にそれをかわし続ける。
(すごい……これが神の権能か)
俺は蹴りを繰り出し、ブラウニーの肩を砕いた。
すると、ブラウニーは廃ビルに吹き飛ばされ、煙が立ち上がる。
(そろそろスルトの剣を使うか。せっかく作ったんだし)
「ウガァァァァ!!」
怪物は生きていたが、もう終わりだ。
「──愚か者が、神に抗うことなど無意味だ」
俺は怪物の近くに移動し、スルトの剣を構えた。
「【創乱神製】『スルトの炎の剣』」
炎を纏った剣が怪物の首を一閃する。
ブラウニーは地面に崩れ落ち、ドロップアイテムに変わった。
”さすが!”
”有祐様!”
”感服しました!”
”黒伶騎士様、私を切り刻んで!”
”踏んでください!”
(……神様って、変態が多いな)
「あ、あの!」
(え?)
彩さんが俺に走り寄ってくる。
え、この人、めちゃくちゃ美人じゃん。
「た、助けてくださりありがとうございます!」
――ありがとう
――ありがとう
――ありがとう
――ありがとう
――助けてくださりありがとう
――助けてくださりありがとうございます!
俺の頭の中が彩さんの「ありがとう」でいっぱいになる。
(じょ、女性から「ありがとう」だと……!? 妹以外で初めて言われた!)
ピロン――
【配信終了まで、あと1分です】
1分!?
ヤバい!
配信をここで切るわけにもいかないから、ダンジョンの入口に戻らないと。
「……礼を言われるほどのことではない」
「い、いえ、本当に――え?」
(もっと女子と喋りたかったああああああああああ!!)
俺は彩さんを後にし、空中に飛び上がってダンジョンの出口を目指した。
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