1.奴隷
よろしくお願いします(^o^)
2024/9/4
冒頭から文章を改変中です。
夕焼け空の下。
「うっ!」
「おら!どうした、奴隷。俺のサンドバッグになって嬉しいだろ!」
満永空八は『ダンジョン神楽学園』の3G教室で、工月黒に蹴られていた。
「ふぅ、ストレス解消だな。いつもありがとうよ、奴隷」
「……ど、どういたしまして」
「俺、もう帰るわ。じゃあ、またダンジョン配信のときな」
黒は取り巻きと一緒に笑顔で教室を後にした。
夕焼けが窓から差し込み、オレンジ色の光が教室に広がっていた。
満永空八は教室の片隅で膝を抱え、痛みに耐えながら、胸の奥に渦巻く悔しさを抑え込んでいた。
「……なんで、俺だけが……」
口に出したところで答えが返ってくるわけではない。
ダンジョン神楽学園では、強さが全て。
パーティーの中で誰が最も強いかが、その人の価値を決める。
弱者は蹂躙され、強者は称賛される。
空八は、その理不尽な力のヒエラルキーの最底辺にいた。
立ち上がり、制服の埃を払いながら、空八はふと窓の外を見た。
夕陽は沈みかけ、空には薄い闇が広がり始めている。夕焼けの美しさとは裏腹に、自分の未来はどこか閉ざされたままのように思えた。
「配信か……」
黒が言った言葉が頭をよぎる。彼は間違いなく、今日もダンジョンでの冒険をライブ配信し、視聴者の称賛を浴びるだろう。
視聴者の多くは、黒のような強者を崇拝し、彼の行動を正当化する。
だが、空八は知っていた。
カメラの外に隠された、彼の本当の姿を――残酷で冷酷な本性を。
(……俺は、何のためにここにいるんだ?]
______________
ここは東京にある『No.382 鉄塊のダンジョン』。
俺、満永空八は6人パーティーの荷物持ちサポーターとして、ゴーレム狩りに駆り出されている。
「奴隷、新しい刀買ったか?」
声をかけた少女は、《剣聖》という【ジョブ】を持つ町田四音。
登録者30万人を超える人気Dチューバーだ。
「えっと、これです」
俺がカバンから刀を取り出すと、四音はそれを奪い取った。
「どっか行け」
と俺に向かって吐き捨てる
俺は壁際に移動する。
「おい、奴隷。さっさとDカメラを回せ」
体がデカく、【ジョブ】が《騎士》の五十嵐 竜が命令してくる。彼も配信をやっていて、登録者数は35万人。こいつには有名な国会議員の父がいて、芸能界や政界にも顔が利く。
ちなみに、《奴隷》とは俺のことだ。
「……分かりました」
Dカメラを起動させると、液晶画面に視聴者からのコメントが次々と流れ始めた。
このDカメラは、ダンジョンの虫モンスターの羽を使って自由に飛び回るレンズ付きドローンで、Dチューブへの動画配信が可能だ。今やDチューバーになる人間は数えきれないほど多い。
うまくいけば、短時間で大金を稼げるからだ。
俺以外のパーティーメンバーは、全員がそのDチューバーだ。
"こんにちは、奴隷さんww"
"モブAだww"
次々にコメントが画面を流れる。
「みなさん、こんに――」
「おい、何挨拶してんだよ」
竜が俺の言葉をさえぎり、水筒の水を無言で俺の頭から勢いよくぶっかけた。
「お前の配信じゃねえんだよ、このカスが!」
「っ!」
その言葉と同時に、腹に鋭い蹴りが飛び込んできた。
"竜さんカッコイイ!"
"『このカスが』www"
視聴者のコメントは嘲笑で埋め尽くされる。
「おい黒、配信始まってるぞ。説明頼む」
竜は漫画を読んでいた黒に指示を出す。
工月 黒。
《風の民》という『ユニークジョブ』持ち、『風人』の異名を持つ人気Dチューバー。
登録者数40万人。
黒は【ダンジョン神楽学園】の理事長の息子だ。
「あ~、はいはい。こんにちは。【風の祠】のリーダー、工月黒です。今、俺たちは『鉄塊のダンジョン』の8階層に来ています」
“コウちゃん!”
“何の漫画読んでるの?”
「これ?『コレクトブロック』って漫画だ」
“知らんw”
“さすがコウ様w”
“玄人すぎるw”
”何してるの”
「俺たちは今、ゴーレムを待ち伏せ中です」
“なんで攻めないの?”
“ゴーレム硬いからか?”
「そう。ゴーレムは固くて攻撃力が強いから。罠で動けなくして、安全な距離から狙い撃つのが基本だよ」
”安心安全”
”そういえば彼女は?”
「ここだよ〜」
黒の隣に、パーティーメンバーの一人、加恵田ノノが現れた。
“ノノちゃんだ!”
“彼氏はいますか!?”
ノノは笑顔を浮かべて、視聴者に向かって手を振りながら言う。
「私の彼氏はコウちゃんだよ〜。えへへ」
彼女は《治癒士》という【ジョブ】を持つ、ギャル系のDチューバー。
チャンネル登録者は30万人。パパは大手ギルドのギルドマスターというお嬢様だ。
”羨ましい”
”良いな”
”コウちゃん、お嫁さんは大切にね!”
”オカンみたいな存在がいるww”
「ありがとうね〜。みんな〜」
「おい、ゴーレムが来たぞ」
竜が声を上げた。
「 なんかゴーレムの形、変じゃない?」
四音が小声で呟く。
確かに、いつも見るゴーレムとは違う。
通常は四角いブロックが積み重なって体を作り上げているはずだった。
だが、目の前にいるゴーレムは、三角形のブロックで体が組み立てられている。異様な形が目を引き、普段とは違う不穏な雰囲気を漂わせていた。
”変異種のゴーレム⁉”
”世界初では?”
”世界初の変異種ゴーレム!”
”変異種って?”
”めちゃくちゃ強い”
”ダンジョンで生まれるモンスターが数%の確率で変異する。
”それが変異種モンスター”
”GランクモンスターがDランク相当になることがある”
”(・・?”
”誰か分かりやすく”
”例えたらこんな感じ。
Gランクのパンチ = 一般男性の拳
変異したGランクのパンチ = ロケットランチャーと同じ威力 = Dランク相当”
”ヤベェ〜!”
”((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル”
「どうやら、ゴーレムが来たようですね。それじゃあ、罠に誘導しましょう」
"イレギュラーだよ!"
"コウ様!"
"暴れてやれ!"
"(ヾノ・∀・`)ムリムリ"
"楽しみ!"
”逃げろ!〜”
黒が冷たい視線を向け、薄笑いを浮かべながら言った。
「おい、奴隷。今度もお前が誘導しろよ」
「……逃げないのか?」
「は? こっちに指図するな。奴隷は主様の言う通りにすれば良いんだよ」
「……分かった」
"誘導?"
"罠まで引き付けるのね"
"変異種だけど、大丈夫?"
「大丈夫ですよ。奴隷は好きでやってるんですから」
黒が軽く笑いながら言った。
(なわけねぇだろ)
心の中で悪態をつく。
だが、反論する力もなければ、立場もない。これも、父さんの治療費を稼ぐために仕方なくやっていることだ。耐えるしかない――それが今の俺の現実だ。
"これが奴隷の存在価値なんだ!"
"いけいけ!"
俺は小さな鉄の剣を握りしめ、ゴーレムに向かって走り出した。重たい足音が洞窟に響く。
デカい。まるでビルが歩いてくるような迫力だ。
「来いよ……こっちだ!」
俺は振り返り、ゴーレムに向かって叫んだ。見ている視聴者たちの嘲笑が耳に刺さる。
"頑張れ、奴隷ww"
"逃げろよww"
"死んでも誰も気にしないww"
”『来いよ、こっちだ!』⬅モブA”
”щ(゜д゜щ)カモーン”
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
巨体に似合わぬスピード――避けようとした瞬間、風を切る音が耳をつんざいた。間一髪で身をひねり、そのまま罠の方向へ誘導しようとするが、何かが違う。
ゴーレムの動きが速すぎる――!
「うわっ!」
間に合わない――。
冷たい感触が俺の身体を押しつぶした。ゴーレムの拳が、俺を確かに捕らえたのだ。