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レセプション③

 廊下を弾んだようにコツコツと足音を立てて歩く。

 プジョル様が追うように後ろについていたわたしの方を振り返って、フッと微笑んだ。


「職を持つ女性の友達が出来て良かったな。共通の話題も多そうじゃないか」

「プジョル様、まさか扉の向こうでわたし達の話しに聞き耳を立てていたんですか?」

「誤解のないように言っておくが偶然だ。部屋に入ろうと思ったら、ふたりの楽しそうな笑い声が聞こえたから少しの間、入室を遠慮していただけだ」

「お気遣いいただき、ありがとうございます」

 わたしは屈託なく笑ってしまった。


「ん…これで俺も少し肩の荷が下りたかな」

 プジョル様がとても小さな声で何かを呟く。

「えっ?」

「いや、こっちの話」

 なにかを呟いたかはわからないけど、とりあえずプジョル様も喜んでくださっているのが表情から伝わってきた。


 いまから、とても大事な仕事をするのに友達が出来たことが嬉しくって、どこかふわふわと浮ついている自分がいる。

 ここからは気を引き締めていかなければ。

 両手に力を込めて、拳を握る。


「そう、気負うな。普段通りでいいよ。そうしないと相手に気づかれるぞ」

「あ、はい」

 しかしプジョル様を見ると、プジョル様も少し堅い表情だった。


 調理部ではすでに打ち合わせしていた料理の数々が出来上がっていて、あとは運び出すだけになっていた。

 

 プジョル様が数の確認や毒味は別室で行うことを説明されて、調理部の方全員がひとり一皿ずつ持っての、大移動となった。

 もちろんわたしも一皿持たせて頂く。


 プジョル様を先頭に美味しそうな匂いを漂わせながら、例の部屋へと列を成して歩く。

 行き交う王城の文官達が興味深そうに列を見る。


 その中、料理の行列に目もくれないで、廊下を走る集団が怒号かと思ってしまうぐらい大きな声で会話をしながら走り抜けて行った。


「怪我の深さは?」

「かなり深いようで出血が止まりません!」

「急ごう!」


 バタバタと走って行った集団の顔に見覚えがあった。

 財務課の人と医務官だ。


 心臓がドクッと胸打つ。

 こんな時は悪い予感しかしない。

 まさか、セドリック様の身に何か起きたのでは…

 彼ら達のあとを追って、なにがあったのか、セドリック様は無事なのかを確認したいが、いまは大事なことを任された仕事中だ。

 お皿をギュッと握る。


 どうか…セドリック様ではありませんように。


 今朝、セドリック様と何があっても仕事を優先させると約束したばかりだ。

 例え、それがセドリック様の本心でなかったとしても。


 彼らを追いかけたい気持ちを抑え込み、今は料理を運ぶことに集中する。

 いまわたしが持っているこの美味しそうな料理に本当に毒が入っているのかも知れないのだ。

 にわかに信じがたい。

 まずは自分の担当である料理が無事にレセプションに提供されることだけに集中しよう。


 例の部屋に戻るとテーブルに小皿とカトラリーだけを残して、ミクパ国側が用意した料理も彼女も跡形なく消えていた。

 先ほどの料理の匂いはうっすらだが残っているが窓を開けたのだろうか、外の匂いもする。

 テーブルには先ほどと違って、床ギリギリの長さがある白いテーブルクロスが掛けられていた。

 いかにも厳かな雰囲気を演出をしているが、それがなにを意味するのかわかった。

 とりあえずこの部屋が、監視対象になっているのは間違いない。



 プジョル様の指示でぞろぞろと料理を手に、調理部の方全員が入室をし、順にテーブルに料理を置くと、プジョル様が扉を背にみんなにこの部屋に留まるように指示をされた。


「調理部の皆さん、準備をありがとうございました。いまからここにいる者達で、毒味をしたいと思います」

 プジョル様が少しも悪びれもせずにしれっと優雅に微笑み提案をした。


 調理部の人たちはお互い隣同士の顔を見合わせしたりして、ざわっとなる。


「シェリー嬢、みなさんに配って」


 小皿とカラトリーを部屋にいるひとりひとりに配布を終えるまでプジョル様は微笑みながら、ひとりひとりを凝視している。


 そして、毒味をするのはわたしのはずだったのに、今回のミクパ国料理の担当である一緒に市場に行った方が指名された。


「では今回の功労者である担当の貴方が1番にお願いします」


 みんなの視線が一斉に集まる中、彼が料理に口をつけようとしたが、かなり躊躇っている。


「どうしたのですか?毒味出来ないのですか?」


 プジョル様が優しい口調で尋ねるが、目が笑っていない。


「他に誰か、毒味をしてくださる方はおられますか?」

 しかし、誰も俯いたまま手を挙げようとしない。

 わたしが挙手しようとすると、プジョル様に目で制止された。


「誰もいないなら、私が毒味をしよう」

 そう言って、プジョル様はわたしからカラトリーを奪い取り、水を打ったような静けさの中、さっさと料理を口にした。

 プジョル様の表情は変わらず、毒は入っていないようだった。


「他に誰かいないのか?自分たちが自信を持って作ったものだろう?躊躇することはないと思うが?この料理は美味いぞ」

 敬語を止めて、そう言ってのけるプジョル様の顔は穏やかそうに見えて、すごく怒っているのがわかる。

 誰も微動だにしない。


「仕方ない。事を荒立てたくないが残念だ」


 そう言って、プジョル様が扉を開けると、我が国の皇太子殿下が入って来られた。


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