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官吏の資質

 昨夕の市場は店じまいが始まっていたけれど、今日はまだ昼下がりなので人通りも多く、大層賑わっていて、美味しそうな匂いも漂ってくる。

 いろいろとお店を見て回りたいがいまは職務中だ。

 脇目も振らずに目的のお店にただ一直線でふたりで進む。


 プジョル様は、わたしと官吏の寮から儀典室に戻ってからすぐにどこかに行かれた。

 しばらくして戻って来られた時には、儀典室のみんなが気づくぐらいに恐ろしく機嫌が悪かった。


 心配した(怯えた?)室長がプジョル様の後輩になるわたしに「連れ出せ」と目配せをされてきて、プジョル様の様子伺いを兼ねた外出をすることとなった。


 隣を無言で歩くプジョル様は、いつもの優しい大人の雰囲気ではない、苛立ちを隠そうともせず、頭のてっぺんから足の先まで炎に包まれているような雰囲気で触れたらやけどしそうな色気を垂れ流しにしている。

 そんな様子のプジョル様はすれ違う若い女性達の注目を一身に集めているのに目もくれない。


「プジョル様、先ほどからいつもと様子が違いますが、何かあったのですか?」

 はっと息をのみ、ようやくご自分の発する雰囲気に気づかれたようだった。

 珍しいこともある。


「気遣わせてすまない。もう大丈夫だ」

 そう言うと、口角を上げて無理矢理な作り笑いをわたしに見せてくる。

 しかし、同じ職場が長いだけにプジョル様が怒りの感情を押し殺して無理をしている表情だとすぐにわかる。

 一体、少しの時間の間にプジョル様になにがあったのだろう。


 店に着くと店主は不在だったが事情を話すと店の女将さんが出て来られて、対応をしてくれた。

 

「このチーズを昨日購入したのですが、ミクパ国のチーズなのですよね。ここで作られているのかとか、そうだったらレシピはどうされたのか、話せる範囲で結構ですので教えて頂ければと」

 切り分けて紙に包まれているチーズが種類ごとに木箱に入れられて、山積みになっている。

 横の卓には円盤型のホールのチーズが所狭しと並べられている。


 わたしは一つの木箱を指差した。

「そのチーズは契約している酪農家さんから買ったものだよ。ミクパ国流れの人からレシピを教えてもらって作ってみたら美味かったと聞いてるよ」

「ミクパ国流れ?」

「そうさ。最近、ミクパ国の人が増えてきているだろう?なんでもその酪農家の家にミクパ国人が住み込みで働いているらしい」

「そ、そうなんですね」

 この話だけであるいくつかの疑念が湧いた。

 でもここで疑問に思ったことは口にしてはならないと、とりあえず話しを合わせる。


「あんたら、お役人だろう?そんなことも知らないのかい?」

「すみません。全くそういうことと関わりのない部署だったのと、休日は寮からほとんど出たことがなくて…」

 女将さんが呆れたように肩をすくめプジョル様を見る。

 プジョル様は女将さんの反応にどう反応して良いのか、困惑しておられる。


「あんた、若いし綺麗なんだからデートのひとつでもしないと」

 よく考えれば、結婚するまでデートはしたことがなかったし、結婚してからもデートは1度しかしたことがないし、しかも途中で上司が乱入だなんて、他人がこれを聞けば、引きますよね。

 いままで、仕事だけ出来ていれば幸せだったから、気にもしていなかった。


「そうですね。これからは少しずつ外出してみます。デートもして恋をして人生を楽しまないといけないですね」

 まるで自分に言い聞かせるような台詞だ。


「そうだよ。この素敵な兄ちゃんに頼んでデートしてもらいなよ」

 わたしはチラリとプジョル様の方を見ると、満面の笑みで応えてくださった。


「シェリー嬢なら、いつでもデートにお連れしますよ。なんなら恋のお相手も」

 プジョル様の目が笑っていなくて、少しも冗談に聞こえない。

「その時はよろしくお願いします」

 恥ずかしくて、最後の方は小さな声でごにょごにょと呟きのような返事した。


 その後は、ミクパ国の料理のことなどを聞くことができ、店を後にした。


「プジョル様は知っておられたのですか?ミクパ国の人が市井で増加していることを?」

「それは薄々気づいていたが、まさかすでにチーズなどで自然発生的に食文化から交流が始まっていたのは想定外だ」

 プジョル様はそう言うと黙ってしまわれた。


「密入国、不法就労、地下銀行、最悪は人身売買の線ですよね」


「えっ?」

「いま、プジョル様が頭の中で懸念されたことですよ」

 女将さんの話を聞きながらも喉まで出かかっていた言葉をようやく発する。


「なぜ、それを?」

「わたしも女将さんの話をお聞きして、そう思いました。一応、わたしも官吏の端くれですから」

 口角を上げ、凛として見えるように姿勢を正す。


 きっといま、とんでもないことに気づき片足を突っ込んだ。これから先に進むには相当の覚悟が必要だ。

 でも、気づいたからには見て見ぬ振りはわたしには出来ない。

 

「そのとおりだ。ただの官吏なら、たわいもない世間話で終わったはずなのに、シェリー嬢はこんなことにも気づいてしまうのだな。儀典室の多才をこんなところまで発揮しなくても良いものを」


 プジョル様が優しく微笑まれて、大きな手がわたしの頭に伸びてきたので、また髪の毛をぐしゃぐしゃにされると思い、一歩後ろに下がったところで、わたしの背中が誰かに当たった。

 足も踏んでしまったようだ。


「あ!!申し訳ございません」

 

 即座に振り返るとそこにセドリック様が立っていた。

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