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遠く冷たい背中

 プジョル様と美味しいスイーツのお店などの女子トークをしながら帰っていると、あっという間に屋敷に着いた。

 その頃にはプジョル様のおかげですっかりいつものわたしに戻っていた。

 玄関ドアを開けるとエムアルさんとリオさんが笑顔で迎えてくれる。

 今夜の夕食にはセドリック様はいないのに、夕食を作ってわたしを待っていてくれた。

 この温かい恵まれた環境に心が熱くなる。

 今日はひとりになりたくない気分だっただけに、この温かさが身に染みた。

 

 今夜、セドリック様が帰って来られたら、今日のことを聞いてみよう。

 わたしが見たあの女性は誰だったのか。どうしてあそこに行ったのか。


 だいぶ夜遅くになってセドリック様が帰宅をされた。

 わたしは寝ていてもおかしくない時間だったけど、今日のことを聞きたくて屋敷の仕事をしながらセドリック様の帰りを待っていた。


 玄関ホールまでセドリック様を出迎えに行くと、間違いなく気合が入っている上等な服に身を包み、いつものメガネではなく、お出かけ用のモノクルをしているセドリック様がエムアルさんと会話をしていた。

 少しお酒の飲まれたのか、顔も赤い。


「セドリック様、おかえりなさいませ」

「えっ?シェリー!待っていてくれたのですか?先に寝てくれていても良かったのですよ」

 セドリック様はわたしが起きて待っていたのが予想外で驚いたのか、少し声が大きい。


 わたしはセドリック様の視界に入ったんだと意識したら、プジョル様がわたしに初恋をしていると言った言葉が思い出されて、急に頬が熱くなり、セドリック様に掛ける言葉も今日出来上がったミクパ国の料理の試作の報告も、緊張で全て吹っ飛んでしまった。


 プジョル様がわたしはセドリック様に初めて恋をしているなんてことを言うから無駄に意識をしてしまう!

 恋心を自覚するだけでセドリック様を目の前にするとこんなに上手く喋られないなんて。

 

 「お、お腹は空いていないですか?今日の夕食はどこで食べられたのですか?」

 声が上ずる。

 そんなことを聞きたいのではない。それは知っているのよ。

 誰と食べたのかを聞きたいのに。

 でも勇気が出ず、上手く言葉にできない。


「しっかり食べてきたので大丈夫です。どこで食べたか?どうして聞くのですか?」

 セドリック様がモノクルを外しながら、わたしに聞き返してきた。


 「今日、昼過ぎから仕事で市場の方に行ったのですがセドリック様らしい方をお見かけしたので、セドリック様だったのかな?と」

「人違いじゃありませんか?わたしは市場付近には行っていませんよ。今日は仕事で王城の近くで食事をしましたよ」


 セドリック様が明らかに不快そうな顔をする。

 聞くべきではなかった。

 あの店は王城付近にはない。どちらかと言えば市場に近い。

 どうして、そんな嘘を。

 セドリック様なら少し微笑みながら本当のことを言ってくれると思っていただけに、想像とは違う様子に慌ててしまう。


「そ、そうですよね。わたしの見間違いですよね」

 もうそれ以上は聞いてはいけない雰囲気だった。

 仕事だったのでしょうか。

 とにかく察しろということのようです。

 急に気分が沈み込む。


 いつもセドリック様と一緒に寝ているベッドに先に入る。

 余計なことを考えながら、ふと思い出したことがある。


 初夜の日の夜、わたしはセドリック様に「白い結婚のまま結婚生活を続けて、1年後に離婚するというのはいかがでしょうか?子どもが出来なければまわりも離婚を受け入れてくれるはずです。セドリック様が子どもはどうしても必要とされるなら他の女性と再婚をされても私は文句など一切言いません。いかがですか?」と他の女性を薦めたことを思い出した。

 

 もしかして、セドリック様は離婚後の女性をわたしに秘密裏に探し出したのだろうか。


 随分と時間が経ってからセドリック様もやってきた。

 セドリック様になにかを話しかけたいのに、いまは心が落ち込んで言葉が見つからない。

 眠くないけど、寝たふりをした。

 触れ合うことはないけど、いつも背中合わせで寝ていて温かく感じていた。


 今日もいつもと一緒のはずなのにセドリック様の背中はとても遠く冷たかった。



 翌朝、出勤してからもずっとセドリック様のお食事の相手の女性が気になって、そのことばかりを考えてしまう。

 一緒に出勤したけれど、あまり会話は弾むことなくいつもの「今日の帰宅予定時間」の会話をしたぐらいで、でもそれもなんとなく(むな)しいだけだった。

 

 ミクパ国のレセプションの警備の打ち合わせで、王城の門に近いところにある騎士団の詰所にプジョル様と歩いて向かっていると、昨日のセドリック様がエスコートされていた女性と一緒にセドリック様が馬車に乗っているのを見てしまった。


 ふたりで寄り添うように座り、セドリック様は女性の肩を抱いていた。

 一瞬で通り過ぎ街中に出て行ったが、わたしが見間違えることはない。


 わたしはその場で茫然と立ち尽くした。

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