011話 強力な団長(4)
少し駆け足です。最後は私の不慣れな恋愛っぽくなってます。
影朧は拠点から見て王国の右前に向かった。
右前につくとそこには暗い、どんよりとしている髪が少し長い人が自分の髪をクルクルさせていた。
影朧はすぐに察した。彼女は闇系統だと。
なぜなら彼女の周りは雰囲気だけではなく、闇のオーラのようなものが漂っていたからだ。
彼女は話しかけてきた。
「わっわわわたしはラクリマ・・・あっあああなたイケメンですけどっ敵っでででですねね!?」
ラクリマと名乗る人はおどおどしていて、少し頬を赤らめていた。
影朧は少しため息をはく。目の前のラクリマへのため息ではなく、今のアゴラリス王国の王―――ジェニスに対してだ。
だがラクリマはそんなことも知らず、慌てて
「っわ、わたしと戦うなんてい、嫌ですよね!!は、はやくはじめましょう・・・!」
と言った。
影朧はこくりと首を縦に振り、集中しはじめる。
ラクリマも集中はしようとしているが、集中しきれていない。
それでもラクリマからは黒い、闇のオーラが出ていた。そのオーラのみを見るとまるで上位の悪魔だ。
影朧は少し疑問に思った。
(この国に私以外の闇系統の人間がいたんですか・・・闇系統自体がかなり希少ですしあのオーラ・・・才能という文字で縛れるものじゃありません・・・)
影朧はラクリマと目があうと、その瞬間ラクリマはそこにはいなかった。いや、正確には下に潜った。
そしてラクリマは影朧の背後の影から出てきて、黒く、影をそのまま取ってきたかのような手で影朧の背中を貫こうとした。
だが影朧はそれに気付き、貫かれる場所を影のようなもので塞いだ。
ラクリマの手が影朧の背中にある影にあたる。すると影朧は貫かれず、ラクリマの手は影朧の背後の影から出てきた。
ラクリマは信じ難いの状況を見た。確実に貫いたと思った手が自分と同じ影からでてきているではないか。
ラクリマが驚いているほんのわずかな時に影朧はチーフとの腕試しの時に出した人の腕くらいの黒いサソリのしっぽのようなものを発現させ、ラクリマに突き刺した。ラクリマが防御できる時間などなかった。
サソリのしっぽのようなものがラクリマの肩に突き刺さると同時にラクリマは今まで感じたこと無いものを体にいれられた感覚があった。毒でもないこれは・・・闇だった。闇を体に直で注入することで闇は根を伸ばすように成長していき、最終的には主を闇で覆い尽くしてしまう。ラクリマはなんとなくそれを察したが、対処する必要はなかった。
闇の根が体に少しずつ伸びていくともちろん痛い。植物ならまだしも、闇など取り払う手段がないに等しいからだ。
影朧は口を開く。
「私の『蠍の尾』で貴方はもうおわりですね・・・」
ラクリマは思った。もう少しこのイケメンと一緒にいたかったな、と。
その時ラクリマの心の底の闇は増幅した。
普通なら心の底の闇というのは深く失望した時や絶望した時に増幅する。が、今のラクリマの心の底の闇はその普通じゃなかった。今の彼女の心の底の闇の増幅の元は願望。ただの願望ではなく、初めての願望だ。今まで彼女は様々な願望を持ってきたが、今の願望は特別だった。影朧がすごくイケメンだったから。
彼女が闇系統の人間として生まれた時から才能は輝いていた。いわゆる天性なるものだった。
影朧はラクリマに背を向けていたが、何かを感じて振り向いた。
ラクリマの背後には全身が黒く目が赤い筋肉質で巨体な悪魔のような者が出現していた。
その巨大な悪魔のような者から闇のオーラが溢れ出ていた。
影朧は思わず口角が上がってしまった。闇系統すら少ないのにも関わらずここまですごいパフォーマンスができるものなのかと。
ラクリマは
「ま、まだ私・・・戦えます・・・!」
と言う。よく見てみると彼女から蠍の尾で注入した闇の根が消えているではないか。
ラクリマは巨大な悪魔の召喚の感覚を今さっき掴んだ。執念で。ラクリマはこの悪魔を『闇の悪魔』と名付けた。
ラクリマは汗をかき、はぁはぁと息を荒げながらも悪魔で影朧を攻撃した。
巨大な拳が影朧に迫ってきた。影朧はにやっと悪い笑みを浮かべ、トレーニングで手に入れた高速浮遊で拳を避けた。拳を避けられた悪魔は今度は影朧を掴もうとした。だがそれも影朧は避けた。
悪魔が影朧を掴むのを失敗したと同時に地面に大量の影が浮かび上がった。そしてその影から大量の人型の影が出てきた。そいつらは影製の翼をはやし、影朧を追う。影朧より若干速く飛行してきた。
影朧は戦闘機のように雲のようなものを発生させて早くなる。人型の影は影朧を追いかけてはいるが追いつけなくなっていた。
ラクリマは新たに地面に影を出現させ、そこから影製の触手のようなものを出した。触手はくねくねと動きながらも影朧に襲いかかった。が、影朧は触手をいとも容易く避けた。触手は影朧が避けても後ろからついてきた。だが速さはそこまでなく、影朧には追いつかない様子だ。
そこでラクリマは闇の悪魔の背後に五つの黒い球を出現させ、その球から黒いビームのようなものを発射した。黒いビームは影朧より速かった。影朧にビームがあたるが、影朧は闇の空間を手から出し、ビームを吸い込んでいた。
影朧がビームを吸い込んでいる時、影朧の死角から影製の触手が襲ってきた。触手は影朧を捕まえて逃さないようにしていた。そして触手のところに人型の影が大量に集まり、影朧を囲む。影たちは影朧を殴り、蹴り、切り裂いたりした。が、影朧は触手を内側から勢いよく破壊し、その反動で人型の影達も消える。
ラクリマはあの状況でピンピンして生き残っている影朧に驚きを隠せずにいた。くっくっくと不気味に笑う影朧はゆっくりとラクリマに近づき、耳元で囁く。
「いいですねぇ・・・あなた。気に入りました。・・・フフ、どうなるかはお楽しみです」
すると影朧はラクリマの頭を軽く撫でる。撫でられたラクリマはドロォと影に消えた。ラクリマが消えたと同時に闇の悪魔も消えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ラペルとチーフは拠点から見て王国の左前に向かった。
ラペルだけだと不安になり、チーフもついてきた。
左前に着くと白いローブを着ている、綺麗な金髪ロングの人がいた。その人の周りはきらきらしているように見えた。よく見るとその輝いているものは蝶のようなものだった。
ラペルとチーフが輝く蝶をじっと見ていると急に蝶がフゥゥゥゥゥンと光の残像を残しながらラペルの方へ突撃してきた。チーフはすぐそれに気付き、急いでカウンターを発動した。
蝶がカウンターによって倍の速さで金髪ロングの女の方へ突撃していった。が、蝶は当たることはなかった。蝶が当たる前に女が何もなかったかのようにその蝶を消したからだ。
女はゆっくりと瞬きをして、ラペル達の方を見た。
「私はグロリア。突然の攻撃、ごめんなさい」
グロリアは深くお辞儀をした。
ラペルは対人戦闘未経験だったので、軽くお辞儀をした。
だがチーフは対人戦闘経験があったので疑問に思った。
(なぜこのグロリアという人はここまで丁寧なんだ?敵対していないように感じる・・・)
グロリアは少し申し訳無さそうに言う。
「王からの命令なのでお二人をここで排除します・・・すいませんね」
グロリアの目は濁ってはいなかった。チーフはグロリアの目を見て純粋な人ということを理解した。
ラペルとチーフは戦闘体勢にはいる。
グロリアは目を閉じ、胸に手を当ててなにかを唱えている。グロリアがなにかを唱えていると彼女の周りに解読不可能の文字が複数現れ始めた。
唱えるのが終わると彼女は手を広げた。それと同時に解読不可能の文字が彼女に吸い込まれていった。するとグロリアの背中からは美しい光の羽が生え、体全体から凄まじい量のオーラが放たれた。
オーラというものは普通、なんとなく感じ取れるのを視覚で表しているから実際には見えない。だがグロリアから出ているオーラははっきりと視える。光のようなオーラが。
ラペルより少し先にチーフが動いた。
チーフはグロリアとこのまま長時間戦うと状況が悪くなるというのをなんとなく察していた。
チーフが察していたとおり、今のグロリアは強化されて時間経過で強くなっていく。魔力量増加や身体能力上昇などのバフが付与されていくのだ。
ラペルは察してはいなかったが、チーフの動きを見て危機だということは感じていた。
チーフはラペルの動きに合わせてグロリアにダメージを与えていった。ラペルがかがんで攻撃を繰り出せば、チーフはその上を飛んで攻撃を繰り出す。ラペルが左から攻撃を仕掛けたら、チーフは右から攻撃を仕掛ける。順調にダメージを与えていったはずだった。
グロリアが突然目を輝かせてチーフを凝視した。そのほんの一秒後、チーフは光となって消えた。
ラペルは突然の出来事で理解できていなかった。つい動きを止めてしまった。
グロリアがラペルにゆっくりと近づきながら言う。
「安心して。彼は今捕まえているだけ。消したんじゃないよ」
声は優しかったが、ラペルは言っていることは理解できなかった。
だがラペルが棒立ちで色々と考えている間にもグロリアは近づいてきていた。
先程のチーフが何をされたか理解はしていなかったがとりあえず近くの岩陰に隠れた。
それでも輝く蝶の突撃により、岩の一部が破壊される。
覚悟を決めて岩陰から出てきた。そしてグロリアの姿を視界にいれる。グロリアはすでにラペルの前で技を使っている。
『見て学ぶ』で今までグロリアが仕掛けてきた技をやってきた回数分ラペルが使えるようになった。すると頭の中に詠唱が浮かぶ。読み方は知らないがなぜだか口に出せる。目を閉じ、唱えることに集中する。
グロリアはラペルの能力をなんとなく理解した。自分と同じ技を同じ精度で使っているから能力はコピーですね、と。もちろん自分の技であるからには弱点も知っている。唱えている最中に攻撃を当てれば詠唱は解除されて時間だけが無駄になるということを。
グロリアは天に向かって力をいれ、巨大な光の柱をラペルに落とした。強力で大量の光での攻撃。耐えられる人は見たことがない。そう思った。
光の柱が消えるとそこには無傷でいるラペルの姿があった。すでに詠唱は―――終わっていた。
ラペルは先程のグロリアと同じような状態になった。だがその状態にグロリアは疑問を抱いた。
(なぜ私より唱え終わりがはやいんだろう・・・コピーなら技術面も私以上にはならないはず・・・)
実はラペルは光の柱の中でも詠唱を続けていた。唱えている最中に攻撃を当てられたら詠唱は解除される、というのは正解であった。が、間違いだったのは光の攻撃だったこと。光の攻撃は詠唱によって湧く光のオーラとほとんど同じなため攻撃として数えなかったのだろう。
だが、だからといって光使いに光が通用しないわけではない。普通に食らう。
グロリアの羽は光でできた蝶の羽に視えるようになってきた。これは詠唱による光が増幅し続けて進化している証拠だ。
ラペルとグロリアは同時に、お互いに向かって飛び始める。だがスピードは羽の進化で光と同速となったグロリアのほうが速く、ラペルはグロリアの攻撃を受けてしまった。スピード負けしているため、一度攻撃を受けてしまうとなかなか反撃は難しい。格闘ゲームのコマンド技を連続で受け続けてコンボになるようなものだった。
グロリアの繰り出す技はどれも綺麗で光を使った魔法技がほとんどだった。蝶を細かく飛ばしてきたり、光の槍を様々な方向から突き刺したり。
ラペルは詠唱のおかげで強化された肉体でなんとか今を保っていたが、戦いに限界を感じた。私はこれ以上の戦いには向いていなかったと思った。
グロリアが自身の背後から光線をだしてきた時、ラペルは『見て学ぶ』でとある能力を発動させた。
ラペルは自身の手から魔力をだし、光線が綺麗にあたるくらいの大きさに調整した。
光線は跳ね返されて倍の威力でグロリアの背後に飛んでいった。その反射された光線はグロリアの背後を飛んでいき、見えないなにかに当たった。そしてその見えない何かは割れた。そこからはチーフがでてきた。消えたように封印した。それは周りの光をいい感じに反射させて透明に見せているだけだった。
グロリアがチーフの封印された場所を常に背後にしていたのを見ていたラペルはわかったのだ。チーフがいると。
グロリアがチーフの脱出に驚いて後ろを向いている時にラペルもう一つ能力を繰り出した。練習の時にたまたま見かけた『タマテバコ』だ。
タマテバコでグロリアの背中をものすごい威力で吹き飛ばした。
チーフは吹き飛ばされたグロリアのところまで飛んでいき、思いっきり地面に叩きつけた。
「お前の仲間のやり返しだよ」
叩きつけられたグロリアはまだギリギリ生きていて、光の速さで逃げたがチーフがそれより速く移動して追いついた。
追いついたところでチーフは言う。
「直接的な恨みはないけど・・・まぁお前も命令で俺らを襲ってきたんだしな」
そして本物が炸裂する。
タマテバコ
グロリアがいたという形跡がまるでなくなっていた。残っていたのは光の羽のかけらだった。
チーフはラペルに近づき、抱きしめた。
ラペルは能力を解除した。疲れたから。
チーフは反省するように
「ごめんなラペル・・・戦わせちゃって」
ラペルは無言で頷いた。泣いていた。
その後チーフは一人で王国の正面に向かっていった。
影朧のところで闇闇ずっと言ってたら心の底の厨二がすこし抜けました。というか闇って文字にするとなんか弱そうですね。ははは。闇ファンの方々すいません。