009話 強力な団長。(2)
ウェクプル回です。初めてフルを一人に使ったのでガタガタな感じかもです。お許しを。
ウェクプルは拠点から見て王国の左後ろ側に向かった。
左後ろに着くと筋肉質で黒髪のイケメンが立っていた。
彼の周りは高さ一メートル程の炎の壁があった。下からの風?で彼の髪は少しなびく。じっとこちらを見てくる。
彼の手元を見るとフッ・・フッ・・・と炎の残骸のようなものが出ている。
ウェクプルは両腕にカーリタースからもらった武器―――『秘密の一撃』をつけていて、拳で空気を殴るかのようにしてガチン・・・と音を立てて秘密の一撃の攻撃部分が拳より前に出てきた。
息を整えて戦闘する時の雰囲気にしようと思った瞬間、少し遠くにいた奴が目の前にいた。
驚きつつもバックステップで距離を取った。
奴は右手から炎を出していた。今頃あそこにいたら当たっていただろう。
本能的に立ち止まってはいけないと感じたウェクプルは奴を見ながら走り出し、なるべく距離をとった。
戦闘に集中できていない状態だったので走りながら息を整えた。そして戦闘準備万端になった瞬間奴はさっきのところにいなかった。
ウェクプルはもしかしてと思い前を見る。いない。少し下らへんに目線をやる。奴がいる。ウェクプルの腹に手のひらを当て、一気に炎で燃やす。ただの炎ではなかった。3000度程の炎だった。
ぐっ・・・と声が漏れるが奴の手を振りほどき、離れた。
男は「ほぅ・・・」となんだか嬉しそうにした。
「貴様、名はなんという」
男はウェクプルに問いた。
ウェクプルは男の瞳に企みがないことを知り、警戒しながらも自分の名前を言った。
「ウェクプル・ドライドラねぇ・・・うん。いいよ。気に入った。俺の攻撃を耐えるやつなんて久しいんでな。俺はシルワ。フレアとも呼ばれるがそっちは本名じゃねえ」
ウェクプルはなんとなくでしかないがその名前を聞いたことが合った。
彼の団が戦場に行き、シルワ本人と戦ったやつは灰になることから炎そのもの―――フレアと呼ばれているのだ。
だから戦場では彼の近くに行く敵はいないとか・・・
そんな普通なら灰になる攻撃をウェクプルは耐えた。原理はわからないが耐えてしまった。耐えてしまったことで気に入られた。
シルワは普段物静かだが気に入った相手がいるとテンションが少し上がる。
テンションが上がったことで彼のコンディションは最高に近いものだった。
「楽しもうぜ・・・ウェクプルゥ!!!」
そう言ってシルワはウェクプルの方へ走り出した。先程よりも速く。
ウェクプルはこのままではまずいと考え、戦闘時の集中力のギアを一つ上げた。
ギアを上げたことでなんとかシルワを目で理解できるようになった。
先程のように腹に手を当ててくるところをギリギリでかわせた。だが今回避けれたのは半脊髄反射であり、自分の意志で避けられたわけじゃない。
ギアを上げたことによって目だけでなく身体能力全体が向上しているので、一瞬で距離をとることができた。六十メートルくらい離れることができた。
ここまで離れていたら奴が来ても見える。そう考えていた時シルワは手のひらをウェクプルに向け、炎を発射した。いわゆる火炎放射だが想像できるようなものじゃない。現世での火炎放射器とは比べ物にならない威力だ。シルワよりも速く、炎の渦がウェクプルに向かってくる。
危険を察知し、左に避けた。が、後ろにシルワがいた。炎の渦でウェクプルに前を見にくくさせてその間に後ろにきたのだ。
ウェクプルがシルワに気づいたときにはもう攻撃は始まっていた。
ウェクプルの足元の地面にいつの間に設置されていた魔法陣。そこから先程の炎の渦よりも大きい火柱がウェクプルを襲う。灼熱の中ウェクプルは思った。
(なぜ俺は炎がこんなにも平気なんだ・・・?怪我はするが人の何倍も強い・・・これはなんなんだ・・・)
十数秒火柱が燃え続け火柱が消えた時、ウェクプルはゆっくりと地面に降り立った。
シルワは疑問に思った。防御なしであそこまで耐える人間がどこにいる?存在するのか・・・と。
ウェクプルはシルワが一瞬考えている間に走り出し、シルワの近くまで行く。脇腹あたりを思いっきりぶん殴る。そして同時にタイミングよく拳の魔力を高める。ダンッダンッと二段攻撃になった。
ウェクプルはもう一撃入れ込もうと左で殴ろうとする。だがその攻撃はシルワが当たる直前右手で止め、超高密度の炎を放射した。ウェクプルはシルワの右手を払うことができずに直で食らった。さっきの火柱よりも強い。左腕が黒こげになった。幸い秘密の一撃は無傷。
もう左手で強いのを叩き込むのは無理だと判断したウェクプルは一度離れ、考え込んだ。ギアを安定させながら奴の攻撃を避ける方法は・・・
今のところない。それが現在の状況だった。
一方シルワ本人はあの攻撃を直で食らっても灰にならないウェクプルに驚愕していた。
だがその驚きがシルワの方のギアを最高まで上げてしまう。
「最高だ・・・最高だよウェクプル・・・!!お前みたいなやつ初めてだよ・・・!!王でも防御するぜ?なのにお前は防御をしない!!かっけぇよ!!堂々としてて!!尊敬するよ・・・人として・・・そして・・・感謝するぜ・・・俺を初めてのレベルまで連れて行ってくれてよぉ・・・!!!!!!」
シルワは自分の周り半径五メートルを炎で包んだ。
念の為少しでも炎から遠ざかろうとした時予想していないものが目にはいった。
シルワは自分自身が炎となり、移動していた。まるで移動している姿は魂のようだった。
炎となり移動する速さは先程の倍以上だった。
ウェクプルは急いで逃げたが追いつかれた。
だがシルワはわざとウェクプルに触れずに少し離れたところで上半身のみ人の姿に戻り圧縮した炎を発射。
ウェクプルは体のちょうど中心に食らった。腹に食らった炎が背中側から出てきた。炎の粒子が体の中に入り、臓器も燃やして背中から出たのだ。
シルワが腕を引き、炎を出すのをやめるとウェクプルはその場に四つん這いの状態になり、血を吐いた。
ウェクプルは臓器が燃える痛みと肉体が燃える痛みに少し耐えきれなかった。
シルワは炎のままの下半身で宙に浮かび、ウェクプルの上二メートル程のところにとまった。
そこでシルワが指をパチンと鳴らす。ウェクプルの周りを囲むように八つの魔法陣が出てきてその魔法陣から炎の渦が発射された。さっき食らった炎と同じくらいの威力だ。
八つの炎の渦はウェクプルの全身を焼き払った。
普通なら苦しむ声が自然に出てしまうはずだが今のウェクプルは違かった。
声を出そうとしても喉や舌が焼け、声が出ない。
炎の渦は十秒程続いた。炎が消えた後も全身が焼ける痛みが続き、物理的に生きるのが苦しくなった。
そんなウェクプルを横目にシルワは自分の今の力を試していた。炎をたくさん発射したり、火の粉をとばしてその火の粉が当たったところを中心に爆発させたりさせていた。
ウェクプルは頑張って立ち上がった。シルワはウェクプルが立ち上がったのに気付き下半身が炎のままウェクプルの前に降りてきた。
「戦えるか?戦えるのか?戦えるならこい!!お前みたいなやつはお前しかいない!!戦いたい!!」
途切れかけの命の糸を必死につなぐようにウェクプルは生きることに集中した。
ただただ生きることを考えた。
だがウェクプルの眼はまっすぐとシルワを見ていた。
彼の目の奥―――魂は燃えていた。
先程の大量の炎で燃えたのではない。やられるだけの自分に嫌気が差したのだ。
感情でさっきと同じ速さで足を動かし、目の前にいるシルワの胸に一発、拳を叩き込んだ。
シルワが受けた打撃は三回。シルワは驚いた。さっきまでは二回だったのにも関わらず今のは三回であったことに。
シルワはそのことに感動した。そして思った。今俺の目の前にいるやつは今出せる最高で戦ってやらないとな、と。
シルワは少しウェクプルから距離をとり、うずくまったかと思うと腕をバッと広げて炎のフィールドを展開した。
もちろんのこと炎のフィールド内は熱い。平均温度は二千度くらいだ。
そのなかで両者はじっと見つめ合う。
シルワは心躍るかのような眼で。ウェクプルはなにかに燃えているような眼で。
先に動いたのはシルワだった。ウェクプルの周りを周りながらウェクプルに向かって炎を発射させている。ウェクプルは苦しみに耐えながらも炎しかない前を見ている。
ウェクプルが前をじっと見ていることを深く考えずにシルワはウェクプルの背中側から炎をまとった拳でパンチをした。パンチの勢いでウェクプルは少し前へ動いた。今のパンチで背中がさらに焼けた。
攻撃を受け続けるウェクプルは内心こう思っていた。
(なにか・・・なにかが見えない・・・あとほんの・・・もうちょっとなんだ・・・でもそのもうちょっとが掴めない・・・これは・・・一体・・・)
ウェクプルの心理状態など気にもしていないシルワはウェクプルの前に回り込み、連続で打撃を与えた。一発一発が速すぎて残像が見えてしまう。シルワの連続打撃の最後の打撃でウェクプルは後ろに軽く吹っ飛び、口を半開きにして眼を虚ろにさせて倒れた。
シルワはサッカー選手が点を決めた時のように右手を若干上にあげて回している。
「いやぁ最高だよ・・・お前がいて助かった・・・本当に・・・俺にさらなる強さを与えてくれた・・・嬉しいよ・・・これが・・・親友ってやつかなぁ・・・」
と言いながらシルワは倒れているウェクプルにゆっくりと歩いて近づいていった。
シルワは倒れているウェクプルに手をかざした。するとウェクプルが中心から燃え始めた。シルワは燃えているウェクプルに背を向けて王国へ向かおうとした。
一方ウェクプルは倒れてから意識はあった。が、ずっと考え事をしていた。自分が掴めない何かについて。
だがシルワの打撃を何度も食らって気付いた。正確に言うと元々掴めなかったものがシルワの攻撃によって掴めるように変わったのである。
シルワは自分の背後から異様なほどの圧―――オーラを感じた。
シルワはもしやと思い振り返るとウェクプルが立っていた。燃やしていたはずなのに炎も消えていた。シルワは自然と笑みがこぼれた。
ウェクプルの眼はさっきとはなにか違う。いつもの戦闘時の眼も相当だが今はそれの比にならない。戦闘時の眼が獲物を捉える眼だとしたら今は見透している眼だ。
ウェクプルは猛獣らしいイメージから専任のようなイメージに変わった。
気分が高まって細かくは理解できていない。だがなんとなくは分かっているだろう。
ウェクプルは眼が変わってから体の傷の九割が回復していた。
シルワとウェクプルは同時にお互いに向かって走り出し(シルワはまだ下半身が炎)、シルワは炎を思いっきりウェクプルにぶつけにいきウェクプルは打撃を与えようとしていた。
ウェクプルは炎を見事に避け、シルワの脇腹らへんに自信の拳をぶつけた。
シルワは打撃を受けてしまった。まずはウェクプルのシンプルな打撃、そして武器の効果での打撃が・・・四回。計五回の打撃。
シルワは驚いた。さっきよりと同じく一回の打撃のはずなのにそれより多く打撃を与えてくることに。なにより驚いたのは打撃の強さが上がっていること。さっきまでは現世でいう十トントラックが時速一万kmでぶつかってきていたのが、今では百トントラックが時速十万kmでぶつかってくるようだった。しかもそれが一度で五回も。
シルワは脇腹に攻撃を食らって血を吐いた。が、今回もすばやく回復した。
シルワはウェクプルと少し距離をとってから背後に十メートル程の炎のドラゴンを召喚した。いかにも強そうではある。
ドラゴンはウェクプルに向かって炎を吐きながら突進していった。
ウェクプルはドラゴンに向かって少し飛び、力強い打撃を与えた。
打撃を食らったドラゴンは炎に戻るというレベルじゃなく炎としても消えた。今の打撃が何発分かシルワはわからなかったが少なくとも自分が食らっていたら致命傷にはなっていただろうと考えることにした。
ウェクプルは眼が変わってから不思議と今まで以上に戦闘に集中できた。
そしてウェクプル自信はこの眼についてなんとなく理解した。全てが見える。空気とかは当たり前に未来も過去も現在も、空間も次元も。
全てが見えてから魔力の高めるタイミングや自分の出せる威力なども理解できた。もちろん自分の体についても、相手の体についても。傷が九割治ったのは眼のお陰で脳が活性化しているからだろう。
だがこの眼にも弱点はある。それはこれが『眼』であること。眼なのだから瞬きしたらもちろん一瞬周りは見えなくなる。そして解除した時に一時的に極端なドライアイになる。
その弱点も理解した上でウェクプルはこの眼を使っていた。
シルワが三十メートル程の距離をとったところで両手を前に突き出し、
「・・・フレア・・・!」
と言うとシルワの両手の先から先程までの炎が可愛く見える程の炎の渦がでてきて、ウェクプルを襲う。
先程までのウェクプルだったら一瞬で灰になっていただろう。だが今彼は渦を打撃で打ち消しながらとてつもない速さでシルワの方に向かう。
シルワに近づくにつれ炎の密度が高くなっている。もはや炎と言えるのかわからない。
ついに渦の発生源の場所についた。シルワは笑顔だ。まじか、と。
ドッ・・・
と打撃の鈍い音がなったと思うとシルワは打撃を受けた腹の中心から痙攣していた。よく見ると痙攣ではない。大量で特大の威力の魔力の拳がシルワを殴っていた。
威力が重なり、ついには原子を破壊する。
シルワは腹から徐々に消滅していく。同時に炎のフィールドもなくなっていく。
ついに頭だけになったシルワは笑顔でウェクプルに告ぐ。
「ウェクプル・・・お前・・・一体・・・なんなんだよなぁ・・・俺を強くさせたと思ったらボコりやがってよ・・・もし生まれ変われたらお前にまた会いてぇなぁ・・・うん・・・強いやつに今度こそ・・・なるんだぜぇ・・・」
言葉を言い終えると同時に口も消え、涙の流せない目元、最後になにもなくなった。
ウェクプルはふぅ・・・と息を吐き、その場に座る。
「・・・っは・・・・眼、乾燥するなぁ・・・」
シルワのキャラ変わりすぎだと思いました。でもまぁハイになっちゃったってことで・・・
ちょっとやらせたいこと詰め込みすぎたかもしれないです。
次回オムニブス回にする予定ですけどうまくいく気がしない・・・