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5 子爵令嬢の後悔

悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。

読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。


4の後半、ミリアムがアナスタシアのそばにいなかったので書けなかったバトル、他者の視点で書いてみたいなと思っていました。


子爵令嬢の一人称か、三人称かで悩んで、本筋の章と変化をつけようと三人称に挑戦してみました。

バトルの口喧嘩は書いていてとても楽しかったです!

 ミラボー子爵令嬢マリアンヌは自分の部屋に入って、ベッドに腰かけると大きなため息をついた。


「アレクサンデル様、私、アレクサンデル様のこと好きなんですからね、本当に!!」

 手に取って話しかけているのは手作りの、金髪で青い瞳の男の子の人形。

「なのに、あんなことに……」


「お姉様、またそんなことしてるの! 気持ち悪いからやめた方がいいわよ」

 

 ノックもせずに部屋に入ってきた2歳年下の妹シャルロットがうんざりしたように言った。

 

 マリアンヌは顔を赤くして「ノックぐらいしなさいよ。これはシャルロットのためにしてるとこもあるんだから……」とつぶやいている。


「私はアレクサンデルなんてどうでもいいんだけど」

「だめ! あなたがアレクサンデル様と結婚できれば、私は義姉になって、お姉様と呼んでもらえる!」

「はあ、付き合ってらんないわ! まだ自分が結婚したいと言う方がましよ!」


「!! そんなこと! あ、でも2こ上ぐらいなら許される? でもムリ!! やっぱりムリ!!」

 

 ベッドの上に倒れこむとじたばたしている姉を見て、シャルロットはため息をつきベッドの端に腰掛ける。


「伯爵家のガーデンパーティーで何があったの? メイドがおびえてるんだけど?」




   ◇ ◇ ◇




 ミラボー子爵令嬢マリアンヌがブランデルブルグ公爵令嬢リーゼと初めて出会ったのは、マリアンヌ10歳、リーゼ14歳の時だった。


 リーゼには同年代の友人がいない。

 

 リーゼはプライドが高く、自分が一番優れ中心にいなければ気のすまないところがあり、それをさとられたくないため、相手が嫌がる話題を遠回しに出したり、嫌味を言ったりするところがあった。


 最初は仲良くしていた令嬢も何度か会うと、挨拶だけで避けるようになる。


 心配した公爵夫人が相談したのが、夫の部下というつながりがあるミラボー子爵の夫人だった。


 母親からリーゼに逆らわないよう言い含められていたマリアンヌだったが、リーゼは思いのほか優しかった。

 

 年下で自分に並び立つことなく、後ろからついてきて、自分のすること言うことに感心してくれるかわいい妹分としてマリアンヌが気に入ったのだ。


 マリアンヌもリーゼと一緒にいれば、同列の貴族令嬢よりも良い扱いを受けることができると気がついた。



 マリアンヌが12歳になってすぐのこと。

 

 妹のシャルロットが王都学院へ興味を持ち見学に行くのに付き合ったのだが、その時、マリアンヌは出会ってしまった。ローエングリム公爵令息アレクサンデルに。

 

 それ以来、マリアンヌはアレクサンデルのことが気になって仕方がない。

 自分は2つも年上だし無理な恋だとあきらめていた。でも妹なら可能性はある。


 4月になるとリーゼの機嫌が目に見えて悪くなった。

 

 情報通なリーゼのレディメイド達によるとローエングリム公爵家の令嬢(ずっと領地にいたはずの)が王都に出てきたという。

 

 第1王子の婚約が正式に決まったばかりで、第2王子の婚約者候補が次の話題の中心になりつつあった。

 

 第2王子は19歳。家柄や年齢的にもリーゼは有力候補になる。そしてマリアンヌは年齢も離れすぎているし家柄も候補にはなりえない。だからリーゼには攻撃されない。

 

 マリアンヌにしてみれば、このままリーゼについていけば楽しい貴族生活が送れるはず。


 レディメイド達の情報よるとローエングリム家について、いくつか噂が流れていることがわかっている。

 

 〇アナスタシアは美しく優しく、弟であるアレクサンデルがシスコン気味である。

 〇アナスタシアとアレクサンデルがひとりの少女(メイド?)を特別にかわいがっている。

 〇その少女は実はしたたかで公爵家を乗っ取るためにアレクサンデルを手なずけている。

 〇アナスタシアと第2王子が密会している。


 リーゼが怒っているのは最後の噂だが、マリアンヌには謎のメイドの存在が気にかかった。

 

 そして、アナスタシアがトレド伯爵家のガーデンパーティーに出席することをつかんだリーゼは、マリアンヌを従えてやってきたのであった。



 アナスタシアはアレクサンデルとよく似ていたため、マリアンヌは好感を持ったが、リーゼの手前黙っていた。

 

 リーゼはプライドが邪魔し、自分から声をかけられず、アナスタシアの周りをウロウロするばかり。

 

「なんで向こうから挨拶に来ないのよ!」とマリアンヌに毒づく。

 

 そんな時、リーゼのレディメイド達が青い顔をしてやってきた。


 ローエングリム家のメイドとトラブルになってしまい、トレド伯爵家に知られてしまったかもしれないと恐る恐る報告してくる。


 リーゼはテーブル席で令嬢達と談笑しているアナスタシアに近づくと声をかけた。


「ローエングリム公爵令嬢ですわよね? ご挨拶がなかったので気が付きませんでしたわ!

 はじめまして、私、ブランデルブルグ公爵家長女リーゼと申します」


「ローエングリム公爵家長女アナスタシアです。どうぞよろしくお願いしますわ」


「アナスタシア様は王都にまだ慣れていないようですわね」


「はい、今月こちらに来たばかりです。今までほとんど領地で過ごしていたものですから」


「だからメイドも王都の常識を知らないんですのね! 

 私のメイドが、せっかく、声をかけて差し上げたのに、トラブルで返されたそうですわ。ね、マリアンヌ?」

 

 マリアンヌは深く考えずいつものように「そうなんです! ひどいですわ!」と答える。


 アナスタシアの笑顔が一瞬こわばる。しかし、すぐ微笑みを取り戻すと大きな声で話し出す。


「それは……、申し訳ありませんでした。主人として謝罪いたします。ただ……、私のメイドは誰かのメイド数人に囲まれ、つきとばされたと報告を受けています。

 リーゼ様のメイドだったのですね。わざわざ、教えて下さってありがとうございます」


 リーゼの表情が悔し気にゆがみ、対抗するように声を張り上げてくる。


「やはりあの噂は本当だったのですね。メイドを特別扱いして、ペットのように愛玩するなんて貴族令嬢らしからぬ振る舞いですわよ。ね、マリアンヌ?」


 マリアンヌはもうやけくそという表情で「そうですわ!」と叫んだ。


「メイドをペット呼ばわりするあなたの方が品がないと思われますわよ、リーゼ様」


 アナスタシアは微笑んでいる、が、本当は笑っていないのが周囲にはわかる。気が付かないのは苛立っているリーゼだけだ。


 同じテーブルについていた令嬢達は「風が寒くなってきましたね。失礼しますわ」「私もあちらにご挨拶をしたいので、失礼します」とそそくさと席を立つ。


 マリアンヌも空気感が変わり、ひんやりするのを感じていた。

 これ以上はやめた方がいい、彼女の本能が警告している。


 なのに、リーゼは「座らせていただきますわ」と言って、空いた席に座ってしまったので、マリアンヌも仕方なく、隣の席に座った。

 

「メイドを本当に大切にされているんですね、アナスタシア様は。だから、メイドと弟君の良くない噂が流れたりするのですよ。これは王都に長ーくいる私からのアドバイスですわ。メイドは特別扱いなさらない方がいいかと。公爵家のお名前に傷がついたら大変ですもの!

 それに外出先で男性にお会いになるのも気をつけられた方がいいですわよ。偶然なのか必然なのかわかりませんけれど、噂のもとになりますから」


「まあ、公爵令嬢ともあろう方がそんな噂をご存じなんて思いませんでしたわ! 確かに、外出先でジークフリート殿下と偶然お会いしたことは事実です。その事実を曲げて品のない噂話にするなんて、する方も信じる方も本当に残念ですわよね」


「私が残念だと言いたいの?」


「いえ、そんなこと、私、一言も言っていませんわ。もしかして、思い当たること、ございますの?」


 リーゼは手にした扇子をテーブルに叩き付け、怒りに任せて吐き出すように叫んだ。


「弟君は年上好きなんですってね! 公爵家の長男が年上のメイドに手なずけられているなんて重大なスキャンダルですわよ。 あ、もともとシスコンでしたわね~!」


「リーゼ様、もうおやめになって!」

 マリアンヌがリーゼの袖をつかんで小さな声で懇願するが、リーゼはその手を払うとさらに続ける。


「面倒な性癖を持つ御兄弟がいらっしゃるなんて大変ですわよね~。私は兄弟がいないので良かったわ~!」


 世界が凍る音が聞こえたような気がしてマリアンヌは震えた。

 

 怒ってる、これ完全に怒ってるよ!


「へぇ……、御兄弟がいないこともあって、余計に人の気持ちにそんなに疎くなってしまわれたんでしょうね。

 あなたのように人を貶めることばかりする人には友達なんていないんでしょうね!」


「友達ぐらいいるわよ! マリアンヌ! 私の友達でしょ!」


「……友達、じゃ、ないです! それに私、アレクサンデル様のことそんな風に思ってない!」


「マリアンヌ! あんなに良くしてあげたのに裏切るの?!」

 

 周囲が静まり返る。


「裏切る、裏切らない、良くしてあげた? 

 そんな言葉が出るくらいの関係が友達? 

 単なる主従関係ではありませんの? 

 それも心のない、利害が一致するだけの空しい関係なのかも」


 アナスタシアの静かな声が響く。


「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 マリアンヌの悲鳴のような謝罪が静かな空間を乱したが、アナスタシアは話し続ける。


「リーゼ様、あなたの周囲に人が集まらないのはどういうことなのか。

 他人のせいにしないで考えてみた方がよろしいんじゃなくて? あ、これは同じ公爵家の私からのアドバイスですわ。公爵家のお名前に傷がついたら大変ですもの!」


 リーゼが泣きながら椅子をひっくり返して走り去る。


「マリアンヌ様、一緒にいる友人はよく考えて選んだ方がいいですわよ。

 そして、一緒にいると決めたなら、その方の悪いところも教えて差し上げなくては。

 わかりますね?」


「はい! すみませんでした!!」


 マリアンヌも泣きながら走りさる。



 アナスタシアがパンッ!と両手を打ち鳴らした。空気がフッと緩んだ。


「皆様、大変お見苦しいところをお見せしました。どうぞご容赦くださいませ」


 見とれてしまうほど優雅な、一礼。


 

   ◇ ◇ ◇



「お姉様、何を作り始めたの?」

 シャルロットが針仕事をするマリアンヌの手元を覗き込む。


「……、もしかしてアナスタシア様の人形? 何、呪うの?」


 マリアンヌは顔を真っ赤にして怒鳴り返す。


「違わい! アナスタシア様とアレクサンデル様が私の心の友になったのよ! いつも一緒にいたいと思うのが普通でしょ!」


「普通じゃないよ!」


 シャルロットの声が空しくミラボー子爵邸に響いて消えた。

読んで下さりありがとうございます。

次も頑張ります!

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