4 悪役令嬢、爆誕?!(後)
悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。
読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。
4章も前後とふたつに分けたかったのですが、真ん中が長くなってしまったので、前中後と変則的な投稿になりました。
(後)は思ったより短めになったので、もう投稿しちゃいます。
「その表情、少しは僕のことを意識してくれるようになったのかな?」
いつもの優しい、でもちょっとからかうような響きのある口調でジョイはとんでもないことを言っています!!
「この前のミリアムの態度、悲しかった。僕はミリアムが王都に帰ってくるのを楽しみに待っていたんだよ。君が辺境伯領に行くとなった時にきちんと話すべきだった。……だから、あの時のことは僕のせいでもあるね」
「……ジョイと呼んでもいいですか?
私にとっては今でもあなたはジョイなので。それとも、ジョイという名は私をだますための、偽の名前?」
「僕の名前は本当にジョイなんだ。
ジークフリート・ジョイ・シュヴァイン、これが僕の本名。
家族や親しい友人はジョイと呼ぶ。だから、ジークフリートよりジョイの方が僕の本当の名前だよ」
私、騙されていなかったんだ。心が温かくなった。良かった……、私の知っているジョイは、ジョイとの思い出は本物なんだね。
「何故泣くの? 僕のせい?」
「これは、ほっとして……、なので大丈夫」
「最初に出会った時も泣いていたね」
そうなのだ、ジョイに初めて出会った時、私は夕暮れの庭園の隅っこに座り込み、声を押し殺して泣いていた。
6歳の時、国境付近で戦争になりそうな危機があり、薬師の母がその地方の薬種研究支所へ長期の出張に出ていた。当時の王都の所長の家に預けられ、とても優しくしてもらっていたけれど、やはり心細さや寂しさ、そして所在なさは幼い自分ではどうにもできず……。
でも、所長家族にはその思いを隠さなくてはと子ども心に思っていた。
泣いている時、気が付いたら隣に黒髪の大きなお兄ちゃんがいて、びっくりして見上げた私の頭をよしよし撫でてくれた。
知らない子だったけど、優しいお兄ちゃんだと思った。私が泣き止むまでずっとそばにいてくれて、最後はおんぶして所長の家まで送ってくれたっけ。
それから、庭園や図書館で出会うことが増え、私はジョイと親しくなったのだ。
「本当は君が辺境伯領に母親と行くとなった時に引き留めたかったんだ。でも、薬師になるという夢を知っていたから、応援したかったし、1年後に王都に戻ってくるなら待っていようと思った。
ミリアム、君はその時は僕のこと、幼馴染かお兄ちゃんぐらいにしか思ってなかったろ?」
そうですね。お嬢様と王都に戻ってくるまで、そこまで(いや、少しはしてた気がするけど)、はい、意識してませんでした。
私が首をかしげながらうなずいたのを見て、ジョイが話を続ける。
「だから、君が僕の色の服を着て現れた時、夢かと思ったよ」
あれはですね~、お嬢様が勝手に!!
「お嬢様が用意してくれたんです。でも、着た姿を鏡で見た時、最初に見せたいと思ったのが……、その……ジョイでしたっ!」
わー、恥ずかしい! 言っちゃったよ! 両手で顔を隠してしまう。だって、真っ赤になってるのがわかるからっ!!
「それはうれしいな」という声が近づいてきて両手をつかまれ顔から外される。
ジョイの顔が近づいてくるっ! ど、どうしたらっ!
ドアの開く音に反射的にそちらを見ると、ベラがぽかんとした顔で立ちすくみ、その後ろからギュスターブ様とオーランド様が『しまった!!』という表情でこちらを見ていた。
「ミ、ミリアム、その人は?」とベラがあわてている。
ジョイを見ると、ジョイが笑い出したので、緊張が解けた。と思ったら、グイっと引き寄せられて抱きしめられたっ!!
「ミリアム!!」というベラの焦った声が聞こえたけれど、すぐにジョイの心臓の鼓動が大きく聞こえて、それしか聞こえなくなった。
◇ ◇ ◇
私がそんなことになっている間に、庭では大変なことが起こっていた。
お嬢様が嫌味や皮肉をそれとなくチクチク言ってくるブランデルブルグ公爵令嬢とミラボー子爵令嬢に厳しくやり返したのだ。
ミーナに聞いたところによると自分のことや私のことは何を言われても耐え、冷静に反論を交えつつやり過ごしていたお嬢様だが、アレクサンデル様のことを『シスコン』『年上好き』『年上のメイドに手なずけられているらしい』と立て続けに言われたことで導火線に火がついてしまったらしい。
あのミーナが『気温が一気に下がった感じがした。お嬢様が本当に怒るとすごいんだね……』と言っていたくらいだから、本当にすごかったんだと思う。
私も見たかったような、その場にいなくて良かったような……。
公爵令嬢はジークフリート王子との婚約を狙っていてお嬢様をライバル視していた。
子爵令嬢はアレクサンデル様と近づきになりたかったようなのだけど、友人の公爵令嬢のために話を合わせてあおったりしてたそう……。
ブランデルブルグ公爵令嬢とミラボー子爵令嬢は最終的に泣きながら退散したらしい。その場にいて見ていただけの人からすれば、お嬢様がふたりをやり込めて泣かせたと見える。
私達はお嬢様が自分のためではなく人のために怒る素晴らしい人だと知っているけれど、王都の貴族達はお嬢様のことをほとんど知らない。
その日から『公爵家のお気に入りのメイド』『公爵令息アレクサンデル様はシスコン』の噂はパタリと止んで『ローエングリム公爵家の悪役令嬢』『公爵令嬢はバラをも凍らせる氷の女王』という噂が王都中を騒がせることになった。
『フラフェス』の『小説の世界』にまた引き戻されているのかも……。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
次も頑張ります!