4 悪役令嬢、爆誕?!(前)
悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。
読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。
ハーブティーを飲むお嬢様の向かいに座る私に、ミーナがハーブティーを出してくれる。
「飲みなさい、心が落ち着くわよ」とお嬢様。
混乱しているのはお嬢様のせいでもあるわけなんですけど!とまた気持ちが荒ぶりそうになる。
「ありがとうございます」
ハーブティーを一気に飲み干す。これで心が落ち着くんっていうならいくらでも飲んでやるわ!
ミーナが心配そうな顔をしている。ごめんね、心配かけて。
ハーブティーよりミーナの心配顔の方が今の私には効くみたい。
「……落ち着きました」
「ミーナ、ありがとう。後はミリアムにやってもらうからいいわ」
ミーナはまだ心配だという表情で私を見たが、私が大丈夫!という気持ちを込めてうなずくとちょっと微笑んで部屋を出ていった。
沈黙……。
静けさに耐えられなくなった私から切り出す。
「なんでジョイのことを教えてくれなかったんですか?
小説の世界を変えるためにもこれから起こることきちんと教えて下さらないと困ります!」
「だって……、教えちゃったらジョイに会おうとしなくなるじゃない。それにここは小説の山場のひとつよ。ネタバレしちゃったら盛り上がらないじゃない」
「私達はその小説の流れを変えようとしているんですよね! 私はそのつもりで考えて動いています。なのに、なんでお嬢様はその流れに私を戻すようなことするんですか?!
……それに、服の色やあのタイミングで図書館の近くにいるように誘導してましたよね?!」
お嬢様、腕組みをして背もたれにぐっと身体を預ける。
ちょっと姿勢を変えただけなのに上から見下げられてる感が半端ない。
変な迫力出ちゃってますけど……。
「だって、あなたがヒロインなんだもの。私、言ったわよ。あなたがヒロインで、できれば私も幸せになりたいって。
あなた、ジョイのこと好きでしょ。ずっとそばにいてもらったじゃない。最初は憧れだったけれど、もう今は恋してると自覚してるはずよ。小説の通りにジョイと、いえジークフリート王子と結ばれるのがミリアムの幸せであると思うけど」
確かにジョイのことを好きだと自分でも気づき始めていたけれど、もしかしたら『強制力』という私の思いとは違う『小説の世界』の力が働いているかもと思うと、怖くなる。
本当に私の気持ちなの?
「……正直に言います。私はジョイのことが好き……だと思います。でもそれはまだ恋人になりたいとか結婚したいとか、そこまでの気持ちではないです。
お嬢様に、その、結びつけようとするような応援をされると、逆に嫌な気持になります。現に、もう私、ジョイに会いたくありません……というか、会えないです……」
「何言ってるのよ! 私、私……、あなたの幸せな顔が見たいの。
私がしたことは大きなお世話だったってこと……なのね。また、やっちゃったか……。ミリアムごめんなさい」
お嬢様の声がだんだんか細く頼りなくなってきたのが意外で、思わずまじまじとお嬢様の顔を見てしまう。
「本当にごめんなさい。過保護だ、おせっかいだと言われるんだけどつい世話を焼きたくなっちゃうのよね、好きな人には」
お嬢様は背もたれにもたれるのをやめ、背をしゃんと伸ばしてから力を抜いてしょんぼりした。
「本当にごめん。今回は張り切りすぎた、私が。
でも、ジョイのこと、ジークフリート王子でもあるけど、彼のことを嫌いにならないで。彼は……っと、これもおせっかいか。
きっと、また話をする機会があるから、その時は素直に話を聞いてあげて。
遅くなっちゃったわね。おやすみなさい」
私はハーブティーを片付け、お嬢様がベッドに入るのを見届けてから灯りを消して部屋を出た。
メイド部屋に戻ると、ミーナとベラが心配して待っていてくれた。
私はミーナとふたり部屋なのでベラは私のベッドに腰かけて話をして待っていたみたい。
私が寝るために手早く着替え始めると、ベラが話しかけてきた。
「今日、どうだった?」
「楽しかったですよ。広場の出店で揚げたての揚げパイを食べました! 教会や図書館もなかなか入れない場所まで特別に見せてもらえたりしましたし……」
ふたりは顔を見合わせ、何か目配せしあっている。
私が仕度を終えてベラの隣に座るとミーナが切り出した。
「ミリアム、何かあったんじゃないの? 帰ってきた時、あなたの様子が変だった。アレクサンデル様も気にしていたみたいだし……」
……ジョイのことぐらいは話しても大丈夫だよね。
「実は幼馴染に出会ったんです」
「男性?」とベラが身を乗り出し、「ベラ!」とミーナが注意する。
「男性です。ジョイという名で私より4つ、あれ5つ……年上の。私が小さい頃から庭園や図書館で出会うと遊んでくれたり、話を聞いてくれたりする、優しいお兄さんという感じの人でした」
「でした?」とベラ。
「えっと、ジョイは違う人だったんです。アレクサンデル様が違う名で呼んで……」
「貴族だったの?」とミーナ。
「はい、だから、私、混乱してしまって。騙していたのかとか、憧れていた気持ちもあったのでその気持ちが恥ずかしく思えてしまったり、なんか無性に腹がたってきたり、本当に……大混乱でした!」
明るく言ってえへへと笑って見せる。なのに涙が出てきてあわててしまう。
「あれ? こんなはずじゃなくて……、大丈夫ですから……」
ミーナが私の隣に来るとよしよししてくれる。あ、やば。さらに涙がこぼれてくる。
ベラが抱きついてきて「泣きながら大丈夫は大丈夫じゃない!」というので目の奥が熱くなり、涙があふれてきてしまう。
「わー、もう泣かせないでよ……」
「泣き泣きな! こういう時には泣いてすっきりするのが一番!」とベラ。
ふたりとも私が落ち着くのを待ってくれ、「明日は午前中休んでていいからね! 朝食も運んできてあげる!」と言ってくれた。
◇ ◇ ◇
ふたりに甘えてしまい、ミーナが朝食を運んできてくれた時間にもそもそ起きだす。
「おはよう、ミリアム。冷やした方がよさそうね。午前中は休みなさい」
「おはようございます」
む、視界が変だ?
「鏡見なさい。このミルクのコップが冷えてるから押し当てるといいかも。じゃあ、私行くからね」
「ありがとう、ミーナ」
部屋を出ていくミーナに急いでお礼を言ってから、手鏡で顔を見ると瞼が腫れてる……。
「あはは、納得したはずなのに、私、こんなにショック受けてたんだ」
一晩、ジョイのことを考えた。
ジョイはジョイなんだから、このままでいい。優しいお兄さんならば、ジョイであろうが王子であろうがどっちでもいいんじゃないか。
私が動揺することはないんだ。
納得したような、納得しきれてないような、気持ち。でも、これで動き出さなきゃ!
◇ ◇ ◇
何とか腫れもましになり、メイド服に着替えているとミーナが来た。
「大丈夫そうね! お嬢様は昼のお茶会に出かけたわ。なのでゆっくりできるわよ」
「お茶会? 急ですね!」
「ヒルデガルド様側のお嬢様の従姉妹である伯爵令嬢がお茶会をね。
お嬢様が王都に来ていることを知ったらしく、急だけどお誘いがあったの。ベラが張り切ってついていったわ!」
「おしゃれの情報収集ですね! でも、お嬢様がお茶会に行かれるなんて初めてでは?」