3 王都めぐり
悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。
読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。
王子がやっと登場しました。
王子を呼ぶときに殿下? 王子殿下? ジークフリート王子とかジークフリート様じゃ変?とかいろいろ考えてしまいました。親しくなったら名前呼びという風に考えてみました。
おじいちゃんの弟子候補が見つかった。
なんと、いつもお屋敷に牛乳を運んで来ていた少年。
以前から庭仕事に興味があっておじいちゃんのことも知っていた。最近、厨房に牛乳を届けても出会わないので心配してくれていたそう。
執事長が面談したところ問題なしとなったので、3日間通いで来てもらい、実際におじいちゃんと暮らす中での働き方や家事や食事の用意の方法などを一緒に試してみて、おじいちゃんにも弟子になる彼にもやりやすい方法を確認させてもらった。
アルバートはとても働き者の12歳の男の子だった。
おじいちゃんとも話が合うようだし、厨房の調理長にも気に入られて、料理も教えてもらえることになったそうだ。人懐っこくて素直なので年上の人にかわいがられるタイプだね。
私はお屋敷のメイド部屋に移り、アルバートにおじいちゃんを任せることになった。
「おじいちゃん、しばらくはこのお屋敷にいるし、毎日、顔を見に来るからね!」
「心配するな! 頼りになる弟子もできたしな。ミリアムは何も気にせずに、好きにやれや!」
おじいちゃんは笑って言い、アルバートは私の荷物を持ってドアの前でニコニコしている。
ふたりで家の外に出るとすぐに「安心してください! トマスさんのことはまかせてください!」とアルバートが言ってくれた。
「アルバート、よろしくね。小さなことでも困ったことがあったら気にせず言うのよ。私がいない時はメイド長のアリエルさんに言えばいいよ」
後半部分はこそっと。
「はい、困ったときはそうします」
アルバートもこそっと返事してくれた。
◇ ◇ ◇
4月になると公爵様、アレクサンデル様、アナスタシア様が王都のお屋敷に行くことになり、公爵夫人はこのまま公爵領で過ごすことになった。
アナスタシア様も1ヶ月後に公爵領に戻られる予定。
ちょうど4月の終わりに王都で開かれる『花祭』を楽しめるはず。
公爵家の馬車で移動。途中の町で1泊して、2日間の旅で王都に到着。かなり近い!
母の異動先のコンスタンティン辺境伯領は王都から5日間かかったもの!
しかも、お屋敷ではなく、城だったことに私は本当にびっくりしたよ。
お嬢様付きのメイドはミーナとベラと……おまけの私。
私、まだお茶を入れるくらいしか自信ない……です。
ミーナはすべて得意だし、ベラは化粧や髪結いがとても上手。王都で最新のおしゃれ情報をゲットすると張り切っている。
アレクサンデル様は王都のお屋敷に到着した次の日に学院寮へ入られた。
「次の週末は帰宅するから! 王都めぐりだよ!」と言い置いて。
◇ ◇ ◇
「私はメイド服で充分です!!」
ミーナとベラがじりじり迫ってくる。
「アレクサンデル様と」とベラ。
「アナスタシア様の御希望なので、つべこべ言わずこの服に着替えなさい!」とミーナ。
おふたりの王都めぐりの付き添いは公爵家の護衛3人と私が行くことになっている。
お嬢様の仕度を終えほっとしていたら「次はミリアムね!」というお嬢様の声とともに、なぜか私サイズの服が用意され、ベラに髪を結ってもらい、薄く化粧までされた。
用意されていた服はシンプルなデザインなのだが2種類の青色の生地が巧みに組み合わせて仕立てられていて、飾りなどついてなくても上品な華やかさがあるものだった。
髪もおろした状態で上の部分をすくって編み込んだようなかわいいものだった。自分ではとてもできない髪型。
鏡の中の自分に違和感しかない。でも、心が弾んだのは、確か。
この姿を見せたいとふわっと頭に浮かんだ人の顔に自分でも驚いて、顔が赤くなってしまう。
「やっぱりこの服、ミリアムに似合うと思ったのよ~!」とベラがほめてくれる。
「今日は楽しんでおいで!」とミーナが声をかけてくれる。
なんだかふわふわするような心持ちにあらがうように「ありがとうございます」と小さな声で返事をする。
◇ ◇ ◇
公爵様のお屋敷から馬車で王宮の広場へ向かいそこから歩くことにした。
大通りのお店を見たり、出店のお菓子を買い食いしたりして楽しんだ後、図書館や庭園を併設する教会に行くことになった。
この教会は私になじみのある場所で庭園内には薬草園があり、私にとっては懐かしい薬種研究所もある。
そんなことを話しながらと図書館前で入るための手続きを待っていると、少し遠くから「ミリアム!!」と声をかけられた。
黒髪の青年が駆け寄ってくる。
「久しぶりだね、ミリアム! 王都にいつ戻ってきたんだい?」
そこにいたのは、さっき頭に浮かんだ顔の……ジョイだった。
「ジョイ、こんなところで会えるなんて! 元気だった?
私、今はローエングリム公爵家でレディメイド見習いをさせていただいてるの」
お嬢様達の方を振り向くと、アレクサンデル様が口をぽかんと開けてこちらを見ている。
「こちら……」とジョイのことを紹介しようとすると、アレクサンデル様が姿勢を正すなり大声で言った。
「僕は王立王都学院中等部のアレクサンデル・ローエングリムです。ジークフリート王子殿下が高等部で活躍されているのをいつも見ています!!
すごいや、ミリアム! 殿下と知り合いだなんて!」
……は?
私、頭が真っ白。じー、くふ、りーと、で、んか? 文字がぐるぐる。意味が取れない。
助けを求めるようにお嬢さまを見ると満面の笑みでこちらを見ている。
その笑顔を見たとたんにすべてわかった。
やられた! すべてわかってたんだ! だから、だから……。今日ここに来るのも、お嬢様に誘導されてたんだ!
なんか腹立ってきた!
私がジョイと長年呼び続けていたこの人は、ずっと噓をついていたんだ。私は騙されてたんだ。
お嬢様の、ジョイの、そばにいたくない。
ジョイを見ると困った顔をして私を見ていた。
「……知らなかったこととはいえ、長い間無礼な態度をとってしまったことお詫びいたします。お許しください。それでは失礼いたします」
声が震えそうになるのを必死に抑えて、頭を下げた状態の低い声で伝えると、アレクサンデル様とアナスタシア様の後ろへ足早に移動した。
ジョイ……ではなくジークフリート王子とアレクサンデル様が学院の話をしているのが聞こえるが、私は足元を見つめたまま顔を上げることができない。
怒りはもう自分に向いていた。こんな子どもっぽい態度しか取れない自分に。さっきまでジョイのことを思い出して浮かれていた自分に。
ジョイは去り際に「ミリアム、またね」と私にも声をかけてくれたが、私は顔も上げずに一礼しただけだった。
その後は何とか気持ちを切り替えて、図書館を見学し、庭園を案内し、広場に戻るとお屋敷に馬車で戻った。
ミーナとベラがお嬢様を部屋着に着替えさせている間、私はメイド部屋(私はミーナと同室)に戻り自分でメイド服に着替えた。
着ていた服の汚れなどをチェックし手入れをして吊り下げて眺めた時、また恥ずかしさがぶり返し、唐突にこの服の意味を理解した。
恋人同士の間では相手の瞳の色のものを身につけ合うという慣例がある。
お嬢様はその意味をこめて、ジョイの濃い青の瞳を思わせる色の入っている服を選んで私に着せたんだ。
髪はベラがきれいにしてくれたので崩すのに躊躇し、そのまま下ろしている部分だけまとめようかとやってみたけれど、鏡の中のいつもと違う自分がどうにも変に見えてしまい、崩していつもの簡単なまとめ髪にしてしまった。
夕食後にアレクサンデル様が学院寮に戻られるため、玄関ホールでお見送りをした。
アレクサンデル様は護衛を待たせ、ホールの隅の方へ私を連れて行くと小さな声で言った。
「ミリアム、殿下と会ってから変だったけれど、なにかあった?」
「ご心配をおかけしてすみません。……私、あの方が王子殿下と知らなかったんです。名前も違う名を名乗られていましたし、小さいころから私に優しくしてくれる近所のお兄さんだとばかり思っていて……。混乱してしまって、変な態度をとってしまっていたと思います。申し訳ありませんでした」
「そうなんだ。僕があいさつした後から変だったから、気になってて。わかった。うん、それは混乱するよね。
今度の休みは劇場の方へ行ってみようよ。また一緒に出かけるの楽しみにしてるね!」
アレクサンデル様を見送り、そのままお嬢様の部屋に向かう途中で隣を歩くベラに話しかけられた。
「髪、かわいかったのに何で崩しちゃったの? 気に入らなかった?」
「違うの! 崩すのもったいなくてそのまままとめ髪にできないかしてみたんだけど、私、うまくできなくて。せっかくきれいにしてもらったのに、崩してしまってごめんなさい」
「そっかー、我ながら会心のできだったのよね。私ももう少し見ていたかったわ~。
なんてね。じゃあ、お詫びに今度私の髪結いの練習モデルしてね! 約束よ!」
ミーナ、ベラと一緒にお嬢様の部屋に入り、お嬢様の寝る仕度を整える。
お嬢様は寝間着に着替え、いつものハーブティーを飲まれるというところ。
今夜のお茶係のミーナを残してベラと一緒に退室しようとした時、呼び止められた。
「ミリアム、今日のことで話があるの。残ってくれない?」