2 公爵令息と友達になる(後)
悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。
読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。
今回で3話目になります。書くことが楽しくなってきました。
連載形式で書き進めるのは初めてでとまどうこともあるのですが、完結目指して走っていきたいと思います!
よろしくお願いします。
今日はお嬢様と一緒に家庭教師から歴史と地理を学んだ。
歴史はこのシュヴァイン王国の歴史なので学校で習ったことのある内容だったが、地理は周囲の国々のことを丁寧に面白いエピソードを交えて語られ、知らなかったことも多く楽しかった。
その時、隣国ワイマール王国に公爵様のお兄様がいることを知った。しかもワイマール王家の王女様と結婚されて王族の一員となられているそうだ。
感心しきりの私を見てアナスタシア様が何か言いたそうな表情をしていた。
後で聞いてみよう。
そしてもうひとつ聞きたいことがある。
悪い風邪の王都大流行をどのように公爵様に伝えたのかということ。
自分ならと考えてみたんだけど、全然わからない。
◇ ◇ ◇
休憩となり、お嬢様の希望でガラスの風除けのあるテラスでお茶をすることにした。
私ひとりで給仕していたので、周囲に人がいないのを確認してから先ほどの表情について聞いてみる。
お嬢様は言いにくそうに話してくれたが、まとめるとこういうこと。
公爵様が若い時、次男であったので平民の私の母と結婚するつもりで公爵家を出る準備をしていた。
公爵様は医師、私の母は薬師を目指し将来はふたりでひっそりと小さな医院でもしていけたらと考えていたそう。
ところが、公爵家を継ぐはずだった長男が隣国へ留学中に隣国の王女と恋に落ち、結婚ということになった。お相手によってはこちらに降嫁していただくこともできたが、隣国の王が特にかわいがっていた末の王女であったそうな。
隣国の公爵家では……と渋られ、結局、王家からの命令に近い形で次男が長男の婚約を引き継ぎ、公爵家を継ぐように求められたのだと。
公爵様はなかなか承諾しなかったのだけれど、私の母が、母の方から別れを告げて出て行ってしまったのだという。
それも小説に書いてあったそうで……。
自分の父親の過去の恋愛話とか知りたくなかったろうに、なんか、すみません。
それともうひとつ、風邪の流行をどのように伝えたのかというと……。
「『予知夢』ってことにしたわ! ミリアムの小さい頃の話に戦争とか天候の不順による飢饉とかこの国全体に影響のあるようなことがわかるところがあるの。これまでも何回か『予知夢』として父には伝えてたの。
でも、今回はミリアムのお母様のことを頼まなきゃいけなかったから、トマスの孫のミリアムが『お母さんが死んじゃう!』と泣いている姿が見えたと付け加えたの。
父の表情が怖いほど引き攣ってたわ。でも、そのおかげで信じてくれたみたい!」
……それって、何かいろいろばれてません?!
「お姉様!!」と大きな声が聞こえ、アレクサンデル様がテラスの入り口に姿を現した。
「僕も一緒にお茶を飲みたいです。よろしいでしょうか?」
早速、言葉使いを改めたみたい。お姉様のことが大好きなのね、よろしい!
お嬢様が空いている椅子を指し示し、アレクサンデル様は笑顔で近づいてきた。
アナスタシア様によく似ている。姉弟でヒルデガルド様似なんだね。
椅子を引いて差し上げようとすると制止され「自分でできます!」と鋭く言われた。
私が動作を止め、一礼して下がるのを見て、しまったという顔をした。
「ごめん、責めたんじゃなくて、女性に椅子を引いてもらうのが気恥ずかしかったんだ。声を荒げてすまない」
新しいカップにお茶を注ぎ、アレクサンデル様へ出す。お嬢様に「お代わりはいかがですか?」とたずねると「お願いするわ」とのお返事。
カップも新しいものにして、お嬢様の飲み終えたカップと交換する。ちょうど、カップもお湯もなくなったので、一度片付けて新しいお茶の用意と追加のお菓子を持ってこよう。
厨房へ行こうとした時、アレクサンデル様の焦った声が聞こえて振り返る。
「どこに行くの?」
「お湯がなくなりましたので取ってまいります。新しいお菓子もお持ちしますのでお待ちください」
アレクサンデル様はちょっともじもじしながら小さな声で言った。
「あの、その、ミリアムに朝食の時、失礼な態度をとってしまったことを謝りたかったんだ、ごめんなさい」
お嬢様が微笑みながらアレクサンデル様を見ている。その微笑みを見てさらに頬を赤くするアレクサンデル様。
お姉様によい子アピール? それとも本心から?
アレクサンデル様が話を続ける。
「ミリアム、お姉様と仲良くしてくれてありがとう。それで、さっき聞いたんだけどミリアムは長く王都に住んでいたんだって? 今まで王都の屋敷に来たことあったっけ?」」
「私は王都のお屋敷に伺ったことはございません。祖父も公爵領の庭師ですし」
「でも王都に長くいたんだよね! なら、今度お姉様に王都を案内する時、一緒に来てくれない?
お父様もお母様も僕だけじゃダメというけれど、ミリアムが一緒なら許してくれるんじゃないかと思うんだ」
「それは素敵ね! 私もアレクサンデルに王都を案内してもらいたいわ!
ミリアムどうかしら?」
私は困ってしまった。私はおじいちゃんの生活の手助けでここに来ている。この屋敷ではお嬢様に付いているが、王都まではご一緒できない。
「私には祖父の世話がありますので……」
どう説明したものか考えていると、私の様子を見てお嬢様が質問してきた。
「トマスの世話をしてくる人が見つかればいいのね?
お父様は庭師経験者を探しているらしいけれど難しいみたい。それよりも庭師見習いで、トマスと一緒に生活してくれる弟子のような若い人を探してみたらと思うの。
ミリアムが良ければ、お父様に相談してみようと思うのだけれど、どうかしら?」
「お姉様、本当にどうしちゃったの? いつもとちがうんだけど……」
アレクサンデル様が驚いた表情でお嬢様を見て言った。
お嬢様は楽しくてたまらないという表情で笑いながら答えた。
「ずっと悩んでいたことがあったの、5年もよ!
その悩みが昨日なくなったの!!
今はもう、怖いものはないって気分!
だから、自分の気持ちや意思を考えすぎずに伝えてみようと思えるようになったの」
「それはよかったです! 僕は以前の物静かなお姉様も好きだったけれど、今のお姉様はもっと素敵だと思います! もっと好きになれそう……」
顔を赤らめて好きって言ってくれる弟くん。かわいいです! 姉弟愛!
やっぱり『悪役令嬢』じゃないよね、お嬢様は。
「ありがとう、アレクサンデル。ミリアムはどう思う?」
「祖父に弟子、いいと思います!」
「善は急げ! お父様に相談してくるわ。アレクサンデルが学校に戻る前にいろいろ予定を立てたいでしょうし……」
軽やかに立ち去るお嬢様を見送ってからテーブルを振り返るとアレクサンデル様と目が合った。
きゅっと口を一文字にしたのが見え、何か怒っているのかな?と首をかしげる。
「お姉様はミリアムのこと、本当に大好きなんだね。なんかくやしいんだけど……。
でも、お姉様が楽しそうだからいいや。ミリアム、僕と友達になってくれる?」
最初は子どもっぽく言い始めたのに、最後の一言は大人っぽく迫ってくるような口調になり、ドキッとしてしまう。
いや、11歳の……しかも弟かもしれないんだよね。ここは心を落ち着けて、誠心誠意、自分の気持ちを伝えないと!
「はい、私もアナスタシア様のことが大好きです! 一緒にアナスタシア様をお守りする友達になっていただけたらうれしいです!」
アレクサンデル様は上機嫌で、なんと私と一緒にお茶の後片付けまでしてくれた。
お嬢様が公爵様の部屋へ行ったことを聞いたのか手伝いに来てくれたベラにはびっくりした目で、ミーナにはすごい目で見られたけど……。