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2 公爵令息と友達になる(前)

悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。

読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。

  私の朝はまあまあ早いほうだと思う。

 5時起床、朝食の用意をしておじいちゃんを起こして一緒に食べる。片付け、自分の支度をして公爵様の屋敷へ、7時前に出勤。

 

 庭師であるトマスおじいちゃんが腰を痛めてしまい、生活を手助けする人が必要とのことで孫の私がここに来た。

 

 私は生まれた時から王都で母と暮らしていた。母は薬種研究所の職員をしている。

 

 今までも母の出張のようなことはあったが、私はほとんど王都から離れることはなかった。ところが少し前にコンスタンティン辺境伯領の研究所へ異動となり(お嬢様が母を助けるためにしたことらしい)、まだ学校に通っていた私は早めに卒業認定試験を受けて無事卒業し、母と一緒に辺境伯領で生活を始めていた。

 

 これから母に指導してもらいながら薬種研究所付属の薬師養成所入所試験に向けて備える予定だった。

 

 入所試験は毎年あるけれど、今はおじいちゃんの身体のほうが大変で、大切だし。

 

 それに薬師になる前に貴族の生活を見てみたい、できれば貴族の夫人や令嬢付きのレディメイドの仕事を体験してみたいという気持ちもあった。

  

 私が卒業した中等学校は卒業すると大きな商会や王都の役所や地方領の事務員、上級メイドであるレディメイド見習いなどになれるチャンスが増える。

 平民にとっては中等学校まで出ていればかなり職業選択肢が増すことになる。そのため入学の時期や年齢は定められていない。

 

 入学して知識を得るための授業を受け、最終的に卒業試験に合格すれば卒業できる。


 商家のメイドをしながら学校に通ってレディメイドを目指す人、実家の商店を手伝いながらも自分は三男だからと地方の大商会に就職することを目標にしている人もいる。この上の高等教育まで受けられる国立王都学院(中高等教育一貫校)が存在するけれど、貴族の子弟のための学校だ。

 

 ここで生活を始めて1週間。これが一番生活しやすい。最初は朝食を厨房まで取りに来ていいよと言われたけれど、早朝に身支度して往復というのは大変そうだし、家に食べ物がいくらかあるという安心感や家族だけで過ごせる空間や時間も確保したいという気持ちもあり、この生活の流れが出来上がった。


 おじいちゃんもそこまで動けないわけではなく、ゆっくりと自分のペースで庭仕事をさせてもらっているので、昼食は厨房まで食べに行くことができる。

 屋敷の使用人、おじいちゃんにとっては長年一緒に働いてきた友人達と話すのも大切なことだと思うし。夕食は私が屋敷を出るときに調理したものやいくらかの食材をもらっていく。

 

 おじいちゃんの手助けといっても、それにかかりきりになるほどではなく、公爵家のご厚意でアナスタシアお嬢様のレディメイド見習いをしながら、なんと家庭教師の講義に一緒に参加させていただけることになった。これはかなりの特別待遇。おじいちゃんのこともあるのでメイドの仕事は半分ぐらいしかできない。他のメイドさん方には申し訳ないけれど、そのぶんしっかり頑張ります!


 お嬢様と過ごすようになって、数日。


 昨日、お嬢様も私もだいぶ慣れてきたのでと、お茶の時間に初めてひとりでお茶を給仕することになった。

 

 ふたりきりになったとたんのお嬢様の衝撃の告白は驚いたけれど、数日とはいえお嬢様と接していて優しい方だとわかっていたし、おとなしく可憐なお嬢様を守りたいという気持ちが芽生えていたので、受け止めることができた……と思う。


 アナスタシアお嬢様は私よりひとつ下の14歳。貴族令嬢としてはかなりおとなしいというか大人っぽい感じがする。

 

 輝くような金髪がやわらかく波打ち、透き通るような明るい青の瞳。かわいらしさと美しさを両方合わせて2つで割らない、そう2つ持ってる!


 それに比べて私は茶色の髪、緑の目とかなり地味。そんな私がお嬢様を差し置いてヒロインって、何だよ?と思う。

 

 でも、母と同じ、ちょっと明るい感じの薄茶の髪色は私の大のお気に入り。くるっとまとめて母からもらった髪留めをつけると1日が始まる! やるぞ!と気合いが入る。


   

   ◇ ◇ ◇


 

 屋敷の通用口、厨房横から入っていくとすでに朝食を済ませて働き始めた人、一仕事を終えてこれから朝食の人とかなり賑やか。


 すれ違う人と短いあいさつを交わしながら足早にすり抜け、メイド仕度部屋に入り、お嬢様付きのレディメイドのミーナと合流。

 

 ミーナは赤毛で青い瞳の18歳。

 ミーナの母がメイド長のアリエルさん。それもあってかミーナは若いのにとても有能。私は感心することばかり。


「これくらいできるようになってくださらないと!」と何度も言われている、いや言わせてしまっているのか?!

 

 私の印象だとさばさばしていて面倒見が良いと思う。なのでミーナに言われても素直に『頑張ります!』と思う。

 

 私と同い年のメイドのベラに「いじめられてない?」と心配されているが、そんなことはない。


 ミーナも『悪役メイド』と思われがちなのか……なんて、お嬢様の話を聞いてから『小説の世界』が気になりいろいろ考えすぎてしまう。

 

 ベラは金髪で青い瞳の美人さん。

 

 こうして見ると、何気に美男美女が多いな公爵家。公爵ともなると使用人の見栄えとかも採用基準にあるのかも!?


 お嬢様を起こして、仕度を手伝い、食堂に向かうと公爵家の方々が集まっていた。私はミーナと並んで壁際に控える。


 公爵ヴィルヘルム様、公爵夫人ヒルデガルド様、公爵令嬢アナスタシア様、公爵令息アレクサンデル様。


 アレクサンデル様は11歳、王都学院の中等部生だと聞いている。


 いつもは王都の学院寮で過ごされているが、アナスタシア様が王都の風邪の流行から弟君を守るために早めに春休みをとるように伝え、一家で公爵領に戻っているということだ。

 

 もう3月も半ば。そろそろ新学期が始まるころ。アレクサンデル様も王都の学院に戻るのだろう。


 会話が少し交わされる程度の静かな朝食が終わるころになると、突然公爵様が私に話しかけた。

「ミリアム、君が来てくれてからアナスタシアがとても楽しそうでね。礼を言いたいと思っていたところなんだ、ありがとう」


 私、びっくりして一礼。頭を上げると公爵夫人からも声がかかった。

「アナスタシアの表情が明るくなりましたわ。いいお友達ができて私達もうれしく思っています。これからもよろしくね」

 

 使用人としてはこちらから話しかけるのはどうなのか?と一瞬考えたけれど、おふたりから声をかけられ何も返事をしないのもと思い「優しいお言葉ありがとうございます」とお礼を伝える。

 

 再度一礼をした時「お前がミリアム?」と男の子の高めの声が頭の上で響いた。


 姿勢を直すと、アレクサンデル様がこちらをじっと見ている。


「トマスの孫だっけ? お姉様がおとなしいからって調子に乗っていじめたりするなよ! いたっ!」


 かわいい声で言ってることは生意気というかなんというか……、でも、アナスタシア様が隣の席のアレクサンデル様の頭をはたいたことに周囲はびっくり!


「お姉様! 僕はお姉様のために使用人に釘を刺しているんだよ」


 11歳で『釘を刺す』なんて言葉をさらっと使えるなんてやっぱり賢い。貴族の子は違うなぁ。


「アレクサンデル、やめてちょうだい! ミリアムは私の友達でもあるの! 

 あなた学校へ行ってから口が悪いわよ。口に出す前にその言い方を、その言葉を心の中で考えてみなさい」


 アナスタシア様の行動と言葉にびっくりしたように目を丸くしていたアレクサンデル様だが、はっとしたように私を見ると『ふんっ!』という顔をして、そっぽを向いた。

 

 アレクサンデル様が私をいじめる『悪役令息』になるとか?

 でも、もう学院に戻られるだろうし、大丈夫だろ、きっと。

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