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1 公爵令嬢と友達になる

悪役令嬢や聖女が登場してくる話が大好きです。

読んでいるうちに楽しくなって、自分でも書いてみたくなり挑戦しています。

「あなたがこの小説のヒロインなの! 私は悪役令嬢で、あなたは私の異母姉。でも、私、あなたが大好きなの!!」

 

 お嬢様は必死な表情で私の左腕をつかむと一息に言いきった。うるんだ青い瞳が私を見上げ、涙があふれて零れ落ちるのが見えた。

 私はその時たぶん笑顔を張り付けたまま固まるという表情をしていたのだろう。本当は私の頭の中はいろんな私がいろんなことを言いだしてパニックになりかけていた。

『は……?』『何? 悪役?』『お嬢様、かわいい!』『すいこまれてしまいそう……、なんてきれいな瞳……』


「変なことを言っているのはわかっているの! でもこのままはいや! もうずっとひとりで悩んできたの……。私、あなたと……ミリアムと仲良くなって、できることなら幸せになりたいの!」


 お嬢様を落ち着かせて聞き出したことをまとめると……。


 公爵令嬢アナスタシア様には前世の記憶がある。

 

 思い出したのは9歳の時。私の祖父である庭師のトマスと話をしていて『孫のミリアム』という言葉を聞いたとたんに頭の中に誰かの記憶が怒涛のように流れ込んできて、その場で気を失ってしまった。

 

 目覚めた時にはすべて理解していたとのことだ。

 

 理解するの早くない?

 

 これは前世の記憶で、自分が今いるこの世界は前世で読んだ小説『フラワーフェスティバル』通称『フラフェス』の世界だと。

 

 小説だと私、ミリアムが主人公なので、小説に登場していない14歳までのお嬢様自身のことはよくわからないが私のことは生まれる前のこと(!)からよく知っているので気にかけていてくださったそうだ。

 

 小説だと私の母は2か月前に王都で流行った悪い風邪で命を落とすところだった(それにより祖父に引き取られた私が公爵家にやってくる)が、お嬢様が公爵様に働きかけて、母の職場に手をまわして母を王都から異動させたのだという。

 

 あの時は突然の辞令に母とあわてふためいたけれど、そのおかげで母は今、生きている。

 

 お嬢様は小説の私(女主人公=ヒロイン)が大好きで小説の流れのまま会ってみたい気持ちもあったが、私の母の命を救えるならばそのほうが良い!と頑張ってくれたらしい。

 

 でも、結局、私は公爵家へやってきた。お嬢様が言うには小説の大筋を変化させない強制的な力『強制力』が働いているのではないかということだ。


「大まかな筋は変えられないとしても、私の母のように変化している事柄があるなら小説の世界は変えることができるということですわ! お嬢様!」

 私はお嬢様のほっそりした白い右手を両手でそっと包み込むように親愛の気持ちを込めて握ると明るく言った。

 

「私の話を信じてくれるのね? ありがとう……」

 小さな声で囁くお嬢様の瞳がきらきらと輝き、もうそんな瞳で見つめられたら、誰だって恋に落ちてしまいますよ!!


「はい、信じます! 私、ヒロインになりません! ふたりで幸せになりましょう!!」

「ありがとう、ミリアム!」

「ではまず敵を知らなくては、その小説『フラフェス』の話をまとめてみましょう!」


 お嬢様が今まで書いてきたものを見ながら、話してくれたものを書き加えて、時系列的に確認してみる。 

 

 小説だとローエングリム公爵家の長女アナスタシア様のもとに母を亡くしたばかりの15歳メイド見習のミリアムが現れるところが現在。

 

 ミリアムは我儘な悪役令嬢アナスタシアにいじめられる。ところがミリアムが16歳の時、祖父トマスが亡くなり(おじいちゃん!!!)公爵の隠し子、つまり異母姉とわかる。 

 

 公爵令嬢となったミリアムは出会う殿方皆に好かれモテモテ。特にアナスタシアがあこがれていた第2王子ジークフリートがミリアムに婚約を申し込み、嫉妬したアナスタシアがミリアムを殺そうとし、ばれて断罪され、国外追放……。ミリアムと王子はめでたしめでたし……。


 ひどっ、これなに? 勧善懲悪とかいうんだっけ?


「まず、アナスタシアお嬢様は現時点で我儘ではないですよね。その悪役……?」

「悪役令嬢! そうならないように気をつけていたけれど。でも、強く言うと我儘と思われるのではとこわくて、無口になってしまっていたし、社交の場にもできるだけ出ないように同年齢の令嬢が集まるお茶会すら断り続けていたから、世間では我儘で人嫌いの暗い令嬢と言われてしまっているかも……」 

 

 確かに『強制力』というのも気になる。どう振舞っても悪いほうへ導かれたらたまったもんじゃないし。


「ならば、作戦を立てて仲良くなれそうな令嬢友達を見つけましょう! あと、私が異母姉だとわかるきっかけは祖父が……死ぬ時に公爵と話すとか?」

 

 お嬢様は首元に手をやってすまなそうな表情で答えてくれる。

「それもあるんだけど、一番の証拠になるのはペンダント。あなたが身に着けているペンダント」

「これですか?」私は襟元からペンダントを引っ張り出す。


「父がミリアムの母に贈ったものだそうよ。婚約の証に」

「では、これを隠しちゃえば!」

「それはだめ、もう父は気が付いていると思うの。トマスの死とペンダントは事実を明らかにするきっかけにすぎないの。それに私、ミリアムにお姉様になって欲しい! ふたりでお茶したり、買い物に行ったり、夜通しおしゃべりしたり……、してみたいな」


 わお、それはとても楽しそう。


「でも、私は、今はお嬢様のそばにいられれば幸せですよ」


「今はって、やはり小説の中と同じでミリアムは薬師になりたいの? お母様のような」

「そうですね。薬師の勉強は今でも続けていますし、将来的には薬師になれたらと思います。でも今はお嬢様と一緒に『フラフェス』と戦います!」

「ありがとう! でも本当にミリアムにはお姉様になって欲しいと思ってるから、ペンダントは大切に身に着けていて」

 

 私はうなずいてペンダントを服の中に戻し……。


「お嬢様が私に意地悪しない時点で小説の内容かなり変わってませんか?」

 ふたりで首をかしげ、顔を見合わせて、同時に笑い出す。


「お嬢様、母を助けてくださってありがとうございます」

「次はトマスに長生きしてもらわなくっちゃ!」


 お嬢様はちょっとおちゃめな表情でかわいらしく微笑んだ。


 もう天使! 聖女かな!? 


 こんな素敵なお嬢様を断罪するとか本当に許せない! 許すまじジークフリート第2王子!   あ、でもお嬢様は好きになるんだっけ? 

 まあ、私は絶対好きにならないから! ヒロインなんかになるもんか!

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