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9:闘技場


『紳士淑女の皆々様!!!』

『さあさ今宵(こよい)も開かれるのは美しき戦いの華、武闘会!!!』

『北西の竜、氷は溶けたか?』

『南東の竜、塩を撒くのは後にしな!』

『北東の竜、照明の具合は上々?』

『南西の竜、今日こそ鳥除けしっかり!』

『さあさ夢よ舞い散れ炎よ上がれ!』

(かんむり)は誰の手に、だ!』



「え」


 圧倒的な音の大きさ。どこからともなく響くそれは少年のような少女のような陽気な声で、すぐにあの壁画のヘスだと理解はした。が、どうやってこんな大きな音を出しているんだ。理屈がわからない。


 そして、ここは、なんだ。

 呆気に取られていた。

 闘技場、なのか?


 俺がいるのは高い場所にある細い通路だった。見下ろすと中央には丸く広い平らな地面があり、壁に囲まれている。壁の上からすり鉢状に広がる客席はある程度の区画で仕切りはあるように見えるが、仕切りの中で数人の女竜と人間が混ざり合いバラバラに座っている。薄暗く表情までは見えない。

 客席よりさらに上の淵、通路より外側には4方向から囲んで見下ろすように竜の姿があるのが分かる。通路には屋根があったが中心の地面にも客席にも天はなにもない。空があるだけだ。

 竜。竜。竜。考えるだけで嫌になる。俺のことを見ていないからいいものの、見られていたら息ができる気がしない。


「止まるな」

「あっ、はい」


 いつのまにかかなり先に進んでいた男、シャールヴィに急かされ走って追いつく。通路に他に誰もいない。裏道か何かなのか。


「ここが闘技場なんですか」

「発言は許可を得てから行えと言ったはずだ」

「はい、発言してよろしいでしょうか」

「許可する」

「ここが闘技場なんですか」

「そうだ」


 相変わらずこの男は淡々として簡単な答えしか返してこない。しかも回りくどい。

 日が送られてあたりは暗くなるはずだが、贅沢にも灯篭がたくさん配置されているためにかなり明るい。こんなに必要か?


「発言よろしいでしょうか」

「許可する」

「今から何をするんですか」

「研修だ」

「研修?」

「見て覚えろ」


 シャールヴィが振り返る。相変わらずの無表情かと思えばわずかに眉間にシワを寄せていた。


「見続けろ。疑問を抱くなら後で考えろ。事実を見続けろ」

「えっと、どういう……」

「見れば分かる」


『さあさお待たせいたしました、今日は本戦の前に新しく選定された武闘士のお披露目と参りましょう。今回は5本!』


 場内に張り上げられた声にざわ、と客席が揺れる。俺は思わずざわついた客席側を見たせいで止まっていた男にぶつかりそうになった。


「えあっ、ちょ」

「この扉の先からは言葉は慎め」


 シャールヴィの前にひとつ、銀色の装飾が施された扉があった。


「ただ見続けろ」


 男は振り返ることなく、扉を開ける。

 風が吹き荒れ俺は思わず目を細めたが閉じはしない。


 目に入ってきたのは鋼鉄。

 灯篭の明かりに照らされた群れ。

 煌めきに竜の片鱗を感じ胃の中身がせり上がる感覚を覚えたがすぐに引く。

 竜ではない。

 本能的な恐怖心が薄らぎ、目の前にいるのがなにか理解する。

 鎧だ。

 俺の目の前に、鎧に身を包んだ男たちがいた。

 武闘士だ。


「珍しいなシャールヴィ、クソでも長引いたか」


 肩幅が広い長身の1人が威勢の良い声をかける。張りのある若い声だ。呼びかけられた男は軽く手を振った。


「野暮用だ。調子は」

「問題ない」

「点呼は」

「済んだ」

「あとは俺か。分かった」


 男が進み、俺は後に続く。

 鎧の武闘士たちは誰も俺に声をかけない。見られているような気配はあるが、観察するようにじろじろ見られているわけではなく、ただいることはいる、ぶつからないように程度の見られ方に思える。自然と俺は体を小さくする。

 気味が悪い。これなら堂々と見られている方がましだ。


『お次は、今回最も小さくも上玉には間違いない!』


 体を揺らすような轟音と客席のざわめきが現実に引き戻す。広い窓が目の前にあり、低い位置にある中心の地面がよく見えた。

 四方から煌々と光に照らされ昼間のような中心に、小柄な5人の誰かが。


 いや。知っている。俺はその1人を知っている。


『かの盟友アングルボザの息を継いだ子!』


 背筋が凍る思いがした。

 なんでリムがあそこにいて、俺がここにいるんだ?


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