7:ガブリエルの契約
応接室。雲は割れ、低いところにある部屋にも夕陽が差し込んできていた。
「首尾はどう? ガブリエル」
白い髪の少女が女を見上げて尋ねる。女はにこにこと得意げに返した。
「滞りなく。検査に問題はありませんでした。じきに正式な書類があがるでしょう」
「良いことね。外が騒がしかったわりには」
「ああ、外」
気だるげに、ガブリエルが燃え終わりの炭のような赤黒い髪を払う。同じ色の眼球は外の光を見た。
「夕暮れまでには終わらせるなんて。アングルボザの雷鳴はずいぶんとおとなしくなったようですね」
「やはり彼女のところから来たの」
「ええ、ふたり」
「ふたり?」
少女の眉間にしわが寄る。
「ふたりです」
「私が預けた石は五つだったはずだけれど」
「怖い顔をなさらないでくださいませ、一の姫様。ひとりは契約とは別に私が選ばせていただきました。ゴーシュトラスは長年のお得意様ですので、特典のようなものです」
「……それでヘスが騒がしかったのね」
ため息をひとつ。少し間をおいてふたつめを吐いて少女は女に視線を向けた。
日没のように赤い瞳。
女は気に留めなかったかのように片手をひらひらと振った。
「とっても怖い気配。似合いませんわ、姫様。笑顔できらきらとしている方が殿下らしいと思うのですけれど」
「そうさせたのは誰かしらね」
再びため息を吐いて少女は視線を外す。
「まあ、どうにかなるでしょう。そろそろ日を送らないと。ほかのお話はその後でもいいかしら」
「私の方はいつでも。夜中に呼びつけていただいても構いませんわ。このガブリエルの身は、契約期間はゴーシュトラスのためにありますもの」
「契約期間は、ね」
「ええ、それが役目ですので」
女が口元に一本、指を立てる。
「皇帝陛下には結果しか報告いたしませんので、経緯はいかようにでも」
女の言葉を聞いた姫は、ふ、と笑った。