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5:測定


「えっ、脱げ?」

「脱げ」


 次の声を発する間もなく、老人たちは俺を全裸にした。あまりにもの手際の良さに口を開けてしまったが急に訪れた開放感に思わずしゃがみ込んだ。


「自分で脱げますよ!」

「返答からの行動が遅い。判断は迅速に行い次の動作に移ることに慣れろ」


 倉庫から連れ出した男が淡々と言う。

 正直、訳がわからない上に拒否権がない。


 俺を出した男はろくに説明もせず豪華な廊下を連れ回し、よく分からない部屋に連れ込み、老人たちに囲まれて今に至る。部屋の中にいた老人たちは5人。連れてきた男と似たような服装だが地味だ。部屋のつくりは廊下に比べれば簡素だが床も壁も綺麗な石で、さらに豪華なことに柔らかい丸絨毯(まるじゅうたん)の上に俺はいた。

 連れてきた男は俺が着ていた服とは別の布を投げて寄越した。


「着ろ。測定の間冷えたら困る」

「えっ」

「着せてもらいたいか」

「着ます着ます着ます」


 慌てて布に頭を通す。布は膝丈の筒状で袖はない。薄手だが1枚だけでも寒くはない。

 俺は驚いていた。この男は確かに《冷えては困る》と言った。では水が滴っていた倉庫に俺を入れていたのは何だったんだ?


「立て。両腕を真横に一直線に広げろ」


 言われた通りに行動すると待機していた老人たちが白い紐でどうやら大きさを測り始めた。丁寧に首の太さから指の長さまで入念に、入念に。


「なんで測るんですか」

「次から発言は許可を得てから行え。身体に合わない武具は能力の妨げとなるからだ、以上」

「妨げ……?」

「許可は」

「なんでもないです」


 聞いたら答えてくれそうな気がしたが、あまり乗り気にならなかった。後があるなら、話は今しなくてもいい。話をするよりも何をしているのか見ている方がよほど状況が分かる。

 老人たちの手は早い。何本もの紐が巻いたり伸ばしたりを繰り返された後に机の上にどんどん並べられていく。目を凝らすとそれぞれに印がついている。

 ほぼ測り終えたと思わしき頃に部屋の外が騒がしくなってきた。慌てるような女の声。次いでなだめるような男の声。


 寒気を感じる。外の慌てる声に感化されたわけではない。

 本能的な寒気。


「姫さま、お戻りください」


 年配の男の声が部屋のすぐ近くでした。


「いいえ、進むわ」


 凛とした少女の声が脳に響いた。


 唾を飲んだ。


 女竜(めりゅう)だ。


 間違いない。


「お戻りください、せめてシャールヴィに話を通してから」

「話せばいいのね? シャールヴィ! そこにいるのは分かっているけれどあえて聞くわ、中にいるなら返事をなさい」


 沈黙。その間、2秒。


「はい、殿下」


 目の前の男が顔色ひとつ変えず、扉を振り返りもせずに声を張り上げた。俺の周りの老人たちはいつのまにか手を止め、扉に向かって頭を下げていた。


「シャールヴィ、新しく選定された人間がここにいるわね」

「いいえ、選定された人間はおりません」

「姫さま、お戻りを」年配の男の弱々しい声が少女の声でかき消える。

「静かになさい。あなたには聞いていないの。……シャールヴィ! では《ガブリエルのおみやげ》はそこにいるの?」

「はい」


 男は即答した。


「お姉様はもう来た?」

「いいえ」

「じゃあ、まだお姉様のものではないわね?」

「はい」

「なら、入ってもいいかしら?」


 背筋が凍った。

 シャールヴィと呼ばれた男と目が合った。

 相変わらずこの男の表情は変わらない。


「10秒お待ちください、殿下」


 シャールヴィは声を張ると俺の肩に手を置いて耳元に顔を寄せ、ゆっくりと丁寧に、ただ小さく言った。


「生きたければ従え。返答は必ずしろ。発言は許可を得てからだ。覚えろ」


 俺の肩を軽く叩きシャールヴィが離れて扉の方を向いた。


「どうぞ」


 淡々とした声から一拍おいて、扉が開いた。


 光。眩しさに思わず目を細め、轟きが聞こえて雷だと理解する。


 照らされたのは美しい、少女だった。

 周りの大人より一回り小さい背丈。

 派手ではないが品のある黒のドレス。

 淡い赤のさらりとした長髪。

 夏の高い雲のように白い肌。

 日没のように赤い瞳。


 愛らしい口元を動かして、少女は微笑んだ。


「良い目をしているわ」

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