4:うっかり報告
ゴロゴロと窓の外で雷が鳴っている。古めかしいが荘厳な城の中心部。広い広いバルコニーに面した部屋の中で、少女は読んでいた本を閉じると外とは真反対の何もない壁を向いた。
「ヘス! いるんでしょう、挨拶もなしに私を観察するつもり?」
言葉尻が消える間際、壁に骨の獣のような白い絵が浮かび上がった。
「急かさないでよ姫さま、やっと全員に挨拶できたところなんだから」
「あら、今日は少ないから早く終わるって言っていたのは嘘?」
「嘘じゃないー。ガブリエルのおみやげがあるとは思ってなくてさぁ」
少女の瞳がきらりと輝いた。
「いるの? お姉様のものでない人間が」
骨の獣の壁画は相変わらず笑っているような姿のまま得意げな声を返した。
「姫さまのものにできるかは別だけどね」
「なに、お姉様がもう持っていっちゃったなら聞いて損したわ」
「いいや、まだ会ってない」
「まだ?」
「そう、まだ。さっき挨拶をしたところだからこれから測定だろう。ただもちろんおすすめはしないよ? なんたって君はゴーシュトラスの姫であってどこの馬の骨とも分からない人間の男の所になんて早々に向かうべきでは……おっとぉ」
バタン。扉が閉まる音がした。少女は壁画の前から姿を消していた。
「しまったなぁ、誰か呼んでから言えば良かった。僕が引き留めた証言を誰もしてくれないじゃないか。ちぇっ」
わざとらしく壁画は呟くと、壁から消えた。