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1:遠い遠い話
いつかの眺めを思い出す。
赤く、紅く、緋く広がる地平。阻む雲すらなく夕陽は世界を染め上げる。
流れる血は霞まず黒く、暗く影を落とす。
掬い上げられることはない。
救い上げられることはない。
ただの敗者に女竜は手を差し伸べない。
ただ愚かな選択をした《モノ》には。
「無駄な血など一滴もありはしないわ」
口角を上げ、目尻を下げ、赤い瞳を向けて、美しい少女は彼に微笑みかける。
「覚えておいて、ずっと覚えておいて。私と一緒に、覚えておいて」
ただ、願う。まだ続くことを。
ただ、願う。